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第19話 早すぎる出会い(4)

「お、嬢ちゃん早かったな。あいつとの練習はどうだった?」

部屋に戻ると、相変わらずクッションの上でふんぞり返っているコルナスが声をかけてきた。


「…色々学ぶことが多かったわ。」

悩み事が増えたせいか、いつもよりもぶっきらぼうに答えてしまう。


「どうしたんだい?いつになくしみったれてんなぁ。」

コルナスはクッションから降りて、こちらをじっと見つめた。

「俺で良ければ話聞くぜ?」


ぶっきらぼうだけど、いつも優しいコルナス。彼には助けられることばかりだ。依存するのは良くないと思いつつ、今回は相談に乗ってもらうことにした。


「彼と実力の差が違いすぎて、自信がなくなったの。大切な人や自分を守るために始めたんだけど、今のままじゃ全然無理だなって痛感して…。」


「なんだ、そんなことかよ。」

コルナスはあきれたように首を振る。


「そんなことって何よ。私は真面目に悩んで…。」


「まぁまぁ、俺の話を聞けよ。」

コルナスが手を軽く振って、言葉を遮った。


「嬢ちゃんは剣術をいつからやってるんだい?」

「…一か月前から。」


「だろ?あいつが手を差し伸べたとき、手にタコがあったぜ。きっと一か月やそこらじゃなく、ずーっとやってたんだろうな。」

「そんな奴が、一か月習っただけの嬢ちゃんと同じレベルなわけがないだろ?」


コルナスの言葉に、私はハッとする。体力作りも剣術も最近始めたばかり。確かに、その通りだ。

何も言えず、私は黙ってうつむいた。


「悔しい気持ちはわからなくもないが、焦っても良いことなんてないぜ?」

「それに嬢ちゃん、一生懸命やってるじゃねえか。しかも楽しそうだしな。」


確かに、剣術は楽しい。自分なりにできることはやっている。


「好きこそものの上手なれ、ってな。今は遠く及ばなくても、続ければ嬢ちゃんはどうなると思う?」

「…もっと強くなると思う。」


「そうだろうな。目標はあるのか?守りたいってのも大事だが、もっと具体的だと良いんじゃねえの?」

「そうね、何も考えたことなかったわ。」

確かに、漠然とした目標しか持っていなかった。


私が考え込み始めると、コルナスは優しい声で続けた。

「今すぐ出さなくても良いさ。人生はまだまだ長ぇんだ。ゆっくり考えればいい。」

「そうね、ゆっくり考えてみる。」

いつ魔王になるかわからないけれど、今回は人生を楽しみたい。やりたいことを考えてみるのも面白そうだ。


「嬢ちゃん、得意なことはあるのかい?」

「…得意なこと?」

「他の人にはできないけど、自分にはできるもの。何か思いつかないか?」


あるはあるが、この闇属性の魔法は魔王特有のものだ。人間として生きていくならできるだけ隠した方が良いと思っていた。


「その顔を見るに、あるんだな?」

「…あるけど、あんまり言いたくないの。」


「俺にもか?」


コルナスの問いかけに、私は少し黙り込む。

言うべきか、隠すべきか。彼ならきっと受け入れてくれると信じたい。


「実は…魔法が使えるの。でも、普通のじゃなくて――闇属性なの。」


勇気を振り絞って口にした言葉に、思わず胸が高鳴る。


「なんで闇属性は言いにくいんだ?」

「闇属性は魔王の象徴とされていて、使える人は稀にいるんだけど、魔王と思われたくないからか、隠していることが多いのよ。」


「魔王みてえだと何が悪いんだい?稀だから使えねえ奴が妬んでるだけじゃねえのか?」

コルナスはきょとんとした表情で答える。


「確かに、闇属性は他の属性を打ち消すくらい強いって言われているけど…。」

「やっぱりすごいんじゃねえか。隠さず才能を伸ばしてみてもいいんじゃねえか?」

「うーん、人に言うのはまだ勇気が出ないけど、練習してみようかな。」


私の言葉に、コルナスは満足そうにうなずいた。


「俺も練習についていくぜ。最近おやじがいるから朝外に出にくいんだ。」

「おやじって…父のことよね?」

「そうともさ。まだあいつには言ってねえんだろ?」


少し笑ってしまう。父に「おやじ」と呼ぶコルナスの大胆さには呆れつつ、どこか気楽な気持ちになった。


「…うん、隠れて外に行こうか。でも今日は疲れちゃったから、練習が軽めな時に行こう。」

「あぁ、約束だな。」

コルナスは左手を差し出した。その小さな手を、私はそっと触れるように握った。


「ひんやりしてるのに、なぜか暖かい感じがするわ。」

「そりゃ、俺が特別だからな。」

コルナスが得意げに笑う。


「うん、約束。一緒に来てね。」


ダメだと思っていた自分を、当たり前のように肯定してくれるコルナス。

その優しさが胸にじんわりと広がり、感謝の気持ちがあふれてくる。


同時に、魔法を試せるという期待が高まり、心が弾む。

――きっと、私にもできる。


わくわくしながら、そっと拳を握りしめた。

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