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第18話 早すぎる出会い(3)

ヴェリアンと父との手合わせが始まった。なんでも父がヴェリアンの技量を図りたいそうだ。


父はいつものように落ち着いた態度で木剣を握り、対するヴェリアンは真剣そのものの表情だ。準備が整うと、二人は無言のまま構えを取る。その瞬間、稽古場の空気が一変した。


ヴェリアンの動きは洗練されていて、鋭さと力強さを兼ね備えていた。父の攻撃を巧みにかわしつつ、時折果敢に反撃を繰り出す。稽古で父がこれほど真剣な表情を見せるのは久しぶりだ。


しかし、経験の差は埋め難い壁だった。最後の一太刀を打ち込むタイミングで父がヴェリアンの木剣を的確に弾き、その瞬間に手合わせは終わった。


「すごいじゃないか!君はいくつになるんだい?」

父が木剣を下ろし、感嘆した声を上げる。


「17歳になります。」

ヴェリアンは息を整えながら答えた。その表情には少し悔しさが滲んでいるが、それ以上に向上心が感じられる。


「17歳でこれとは…。すごいぞ…。こんな逸材に教えられるなんて夢のようだ。」

父の目が輝き、まるで少年のような無邪気さで興奮しているのがわかる。


「黄金期が終了するまでに、私なんてあっという間に超えてしまうよ。」

「本当ですか!?」

ヴェリアンが興奮気味に聞き返す。


「もちろんだとも。だが、それには君の努力次第だ。」

父が穏やかに笑う。


その言葉に、ヴェリアンは再び力強い決意を込めて言った。

「もっと強くなりたいんです。」


「何か事情があるのか?」

父の表情が真剣になり、ヴェリアンの目を見つめた。


ヴェリアンは一瞬言葉を探すように視線を彷徨わせたが、やがてポツリと答えた。

「…負けたくない相手がいるんです。この前は私が至らないばかりに、良くない結末を迎えてしまって…。次は…。」


ヴェリアンはいうのを止めてしまったが、悔しさと、それ以上に何か深い悲しみが込められていた。


「そうか…。君の決意はよくわかった。」

父はヴェリアンの肩に手を置き、優しく頭をわしゃわしゃと撫でた。


「じゃあ、みっちり頑張らないとな。」

その言葉には父らしい温かさが含まれていて、ヴェリアンも少しだけ笑みを浮かべたようだった。


私はそのやり取りを見ながら、ヴェリアンが「負けたくない相手」に込めた思いが何なのか、胸の奥で小さな引っ掛かりを覚えていた。

今の私では到底ヴェリアンには及ばない。彼が最近剣術を習い始めたわけではないことは、その動き一つ見ただけで明らかだった。


「あの、私とはレベルが違うというか…。一緒に練習するとお邪魔ではないでしょうか?」

できれば勇者との練習を避けたい思いを込めて、それとなく聞いてみる。


「そうだな、レベルは確かに違うが、それもまた良いことだと思う。アリシアも今のを見て、何か学べたことがあるのではないか?」

父は真剣な表情で答えた。


「そうですね。確かにありました。」

ヴェリアンの身のこなしには、真似したいと思う部分がいくつもあった。


「私一人では教えられないことも多い。ヴェリアン君には、アリシアと一緒に基礎から教えつつ、お手本になってもらおうと思っている。ヴェリアン君もそのつもりで了承してくれたよ。」

父の言葉に促され、私はヴェリアンに視線を向けると、彼は優しい笑顔を浮かべながらうなずいてみせた。


「…先生が二人いると思って、頑張ります。」

「そうだ。それでいい。」

父は満足そうに笑顔を見せた。


その日の稽古は、私にとって試練そのものだった。


父とヴェリアンが剣を交える様子を間近で見て、彼らの技術と体力の高さにただ圧倒されるばかり。ヴェリアンの剣さばきは洗練されており、特に父とのやり取りの中で見せる素早い反応や的確な判断力には目を見張るものがあった。


――私はまだまだだ。


自分の未熟さを痛感する一方で、彼らのように動けるようになりたいという憧れも感じる。しかし、父とヴェリアンのような無尽蔵の体力には到底追いつけない。休憩をとらなければならない自分が情けなく思えて、悔しさが込み上げてきた。


――これでは、いざというときに自分の身すら守れないかもしれない。


剣術を学び始めたときの目的を思い出し、焦燥感が胸に広がる。もしものとき、私の剣は役に立つのだろうか?自分の力で誰かを守れるのだろうか?その疑問が頭を巡り、不安に押しつぶされそうになる。


そんな私の胸中をよそに、父とヴェリアンは一瞬の隙もない攻防を繰り広げていた。見ているだけでも心が震えるような緊張感の中で、二人の剣は何度も交錯する。そして、そのたびに父は的確に指導を加え、ヴェリアンも真剣にそれを受け止めている。


――負けたくない相手…。ヴェリアンがそう言っていたけど、私にとってのそれは誰だろう?


ふと考えたとき、頭に浮かんだのは、今目の前で輝くように剣を振るうヴェリアンの姿だった。


――もしかすると、私が乗り越えるべき相手は、自分の弱さなのかもしれない。


そんな思いが胸を過ぎる。焦りや悔しさも確かにある。でも、それをバネにして進まなければ、今の自分を変えることはできない。

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