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第16話 早すぎる出会い(1)

空のように透き通った青い瞳、輝くプラチナブロンドの髪。誰が見ても美しい顔立ちの青年がそこに立っていた。

しかし、その視線がこちらをじっと捉えているのが、私にはただ恐ろしく感じられた。


魔王として覚醒していなくてもわかる。この人が勇者だ。魔王になれば、私は彼に討たれる運命なのだ…。

恐怖で身動きが取れない私の前で、コルナスが威嚇を始めた。その隣でアビーも負けじと鳴いている。

なぜ?まだ魔王にはなっていないはずなのに…。

稽古でかいた汗とは異なる、冷や汗が背中を伝うのを感じた。


「驚かせてすまない。実はデロワ家に挨拶をしに来たのだが、寄り道をしたら道に迷ってしまったようで…。」

勇者は申し訳なさそうに口を開いた。


「この子たちは君の友達かな?信じてもらえないかもしれないが、怪しい者ではないんだ。どうか警戒を解いてほしい。」

柔らかい声色で語るその様子に、彼がまだ私の正体に気付いていないことがわかる。そうだ、どの人生でも彼は方向音痴だった。魔王である私のところにたどり着くのにも、いつも苦労していたのだから。


私はゆっくりと息を吐き、胸のざわつきを押し殺した。


「コルナス、アビー。怪しい人じゃないみたい。」

しゃがみ込んで手を差し出すと、コルナスは一瞬迷った後、私の手に乗り警戒を解いた。

それを見てアビーも木の上に飛び移り、じっとこちらの様子を見守っている。


コルナスを肩に乗せた私は、心を落ち着けるように一度深呼吸をし、勇者に向き直った。


彼の瞳が優しく緩む。緊張していた空気が、彼の穏やかな声に少しだけ和らいだ。

「失礼、名前を伝えていなかったね。僕はヴェリアン・フォン・カステル。首都にいるカステル侯爵の息子だ。」

柔らかい微笑みを浮かべながら、彼は軽く頭を下げた。その動作に、まるで貴族の教養そのものが滲み出ている。


「カステル…侯爵家の…。」

その名を聞いた瞬間、思わず息を呑んだ。彼の家名は、この国で知らぬ者はいないほど有名だ。父から何度も聞かされていた、王室に匹敵する影響力を持つ名門。


「君は?」

ヴェリアンの問いかけに、私は一瞬たじろいだ。何と名乗るべきか迷ったが、すぐに自分の胸を叩いて落ち着かせる。


「私は…アリシア・デ・ラ・クロワです。」

少し震えた声で名乗ると、ヴェリアンは微かに目を見開いた。


「君はもしかして、ローラン卿の…。」

「はい、娘です。」

「なるほど。君のお父上、ローラン卿にはぜひ挨拶をと思って来ていたんだ。」


ヴェリアンは柔らかい微笑みを浮かべ、私の目をしっかりと見据えた。その真剣な眼差しに、緊張していた心が少しだけほぐれた。


「父に挨拶を…?」

私は意外そうに首を傾げた。侯爵家の息子が辺境の貴族に挨拶に来るなんて、どう考えても普通ではない。


「実は、僕の父とローラン卿はアカデミー時代の友人だったそうなんだ。父曰く、君のお父上は剣術で誰も敵わなかったと聞いている。それでね、父に勧められてローラン卿に剣術を学べないかお願いしてみようと思ったんだ。」


話す彼の目には誇らしさが宿り、その父の話に自然と私も胸が温かくなった。

「楽しみにしていたから、黄金の時期より少し早く来てしまったんだけど、まずは父の書状を届けて、お話を伺おうと思っている。」


私は少し考え込んだが、やがて小さく頷いた。

「それなら、すぐに父に伝えます。案内しますので、こちらへどうぞ。」


歩き始めると、ヴェリアンは軽く礼をして後についてきた。途中、彼の視線がコルナスに向けられ、微笑ましい表情を浮かべた。


「この子たちは君の友達なのかい?カラスの子は自由に行動しているようだね。」

「はい、そうです。あの子の名前はアビーで、外で暮らしているんです。コルナスが一緒だと寄ってきますが、私一人の時は滅多に姿を見せません。」


「へえ、そうなんだ。トカゲさんの名前はコルナスか。よろしくね。」

彼がコルナスに手を伸ばした瞬間、コルナスは口を開けて威嚇した。


「触るんじゃねえ!」

その小さな威嚇に、ヴェリアン様は驚いて手を引っ込めた。

「あぁ、すまない。仲良くなれるかと思ったんだが…。ごめんね、コルナス。」

彼の申し訳なさそうな顔を見ていると、緊張がさらに解けて、思わず笑みがこぼれた。


「もうすぐ屋敷です。応接室に案内しますので、少々お待ちください。」

「わかった。案内ありがとう。」


そう言って彼が差し出した左手に、私は戸惑いながらも手を差し出した。ただの握手のはずなのに、なぜだろう、とても暖かい。


「…僕の手をそんなに気に入ってくれたのなら嬉しいけれど、さすがに恥ずかしくなってきたよ。」

その言葉で、私が長く握ってしまっていたことに気づいた。


「も、申し訳ございません!考え事をしておりました!」

顔が熱くなり、慌てて手を引く。ヴェリアンも顔を真っ赤にしていた。


「けっ、何やってんだよ。嬢ちゃん、惚れたのか?」

「違います!」

コルナスにからかわれ、小声で返すと、彼をポーチに押し込んだ。


「痛え!八つ当たりはよくないぜ!」

そんな彼の声を無視して屋敷に入ると、使用人にヴェリアンを応接室へ案内してもらった。


自室に戻ると、先ほどのやり取りを思い出し、恥ずかしさでしばらく動けなかった。

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