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第15話 初めての友達(6)

「あっ!それは俺のだ!食べるんじゃねえ!」

一週間が経ち、コルナスとアビーはすっかり奇妙な仲間となっていた。

最初は緊張感漂う関係だったものの、今では一緒に狩りをするほど打ち解けたようだ。


アビーはどうやらいたずら好きな性格らしく、コルナスが捕まえた獲物を横取りしては、面白そうにそれを弄び、わざとコルナスの前で見せびらかす。


「おい、返せ!俺が捕まえたんだぞ!」

コルナスが抗議すると、アビーはまるで勝ち誇ったように「カアッ」と一声鳴いてから、しれっと獲物を返してくるのだった。


そんな彼らのやりとりを微笑ましく見守りながら、私はようやく自分の鍛錬に集中できるようになった。

アビーがコルナスを襲う心配がないとわかってからというもの、彼らの関係に少し安心感すら覚える。

それに、アビーがコルナスに執着する理由もなんとなくわかってきた。


「やっぱり、コルナスのうろこがキラキラしているからなのかな?」

ひとりごとのようにそうつぶやくと、コルナスがちらりとこちらを見て尻尾を振った。

「嬢ちゃん、そんなしょうもないことで友達になれるわけないだろ。俺の魅力ってのはな――」

「コルナス!後ろ!」

アビーがまたコルナスの獲物を狙っているのが見えた。


今日も、私たちの森での鍛錬と狩りの時間はこうしてにぎやかに過ぎていくのだった。


私は父に剣術を教わるようになってから、技がどんどん増えていった。

新しい動きを習得するたび、体が自分の意志に完璧に応える感覚に心地よさすら覚える。


「…信じられない速度で成長しているな。才能がありすぎる…。」

父がぽつりと漏らしたその言葉に、私は思わず動きを止めた。

「そ、そう?」

9度目の人生で、しかもこれまで勇者と戦っていたことなど言えるわけがない。

内心の秘密を隠すように、ぎこちなく笑いながら答えるしかなかった。


「あぁ、本当にすごいぞ。…このままなら女性剣士として活躍するのも夢じゃないくらいだ。大会で優勝できる可能性も見えてきた。」

父の目は期待に輝き、その興奮がこちらにも伝わってくる。

「教える側としてもやりがいがある。すぐに音をあげるかと思っていたが、遠慮せずに教えていいんだな?」


その言葉を聞いた瞬間、背筋に嫌な予感が走った。

だが、「習いたい」と言い出したのは私だ。ここで弱音を吐くのは筋が通らない。

「も、もちろんよ!」


私の答えを聞いた父は、満足そうに飛び切りの笑顔を見せた。

しかし、その笑顔とは裏腹に稽古はますます厳しさを増していった。

汗が滝のように流れ、息が切れるたびに、「自分で言い出したことだし」と自分に言い聞かせるしかなかった。


それでも、どこか誇らしい気持ちがある。父にここまで期待されたのは、これまでのどの人生でもなかったことだからだ。

期待される喜びと、剣を握る楽しさが相まって、朝の稽古だけでなく、午後にも自主的に剣を振るうことが増えてきた。


午後の稽古では、コルナスがそばにいてくれることが多い。

父がいるときはついてくることはないが、一人の時には石の上でうとうとしながらも、起きていようとしてくれる。


「よく飽きねえな。」

コルナスが目を細めながら言った。

「そうね、期待に応えたいのもあるけど、それ以上に楽しいのよ。」

「へえ、楽しいなら何よりだ。」


コルナスの言葉に少し笑みがこぼれる。彼がそばにいると、安心感がある。


今日の稽古はひとまず終わりにするつもりだったが、最後にどうしても試したいことがあった。

最初に勇者と戦ったときの記憶を呼び起こし、その動きを再現してみたいのだ。


あの戦いは、悔しさのあまり今でも鮮明に覚えている。

何度倒されても立ち上がり、挑み続けた。あの頃の自分を超える瞬間を、今こそ手に入れたい。


私は目を閉じて深く息を吸い込んだ。

「思い出して…。今日は勝ちたい…。」


剣を握る手に力がこもる。私の中で蘇るのは、あのときの屈辱と、どこまでも追い求めた勝利への渇望だった。


広場の真ん中で立ち止まり、私は目を閉じた。

目の前にいるのは、あのときの、初めて会った勇者――8回の人生で、幾度も彼と刃を交えた記憶がよみがえる。


「来い!」

脳裏に響くのは、勇者の力強い声。彼の剣技は素早く、そして重かった。どんな防御も無意味に思えるほどの圧倒的な力だった。


私は目を開けると、木剣を両手で構えた。自分の影が地面に長く伸び、まるで過去の自分と重なるように見える。

勇者の斬撃を再現するように、大きく振り下ろした。木剣が風を切る音が耳に響く。


「遅い…まだ遅い…!」

彼の一撃はこれ以上に速かった。私は歯を食いしばり、息を整え、再び構える。今度は横薙ぎ。剣が描く軌跡を自分の目で追いながら、さらに速度を上げる。


「防御も完璧にしないと…。」

その言葉とともに、彼が繰り出してきた連続攻撃を思い出す。右からの斬撃、下段からの突き、すかさず左からの追撃――彼の剣は迷いなく、鋭く正確だった。


私は息を整え、防御の姿勢に入る。勇者の攻撃を受ける想定で、体をひねり、木剣で受け流す動きを繰り返した。力を入れすぎず、ただ剣の軌道をずらすだけ。それでも腕にはじんわりと疲労が溜まる。


「もっと動け…もっと考えろ…!」

頭の中で響く声。過去の彼の言葉なのか、それとも自分自身への叱咤なのか――私にはもうわからなかった。ただ一つ確かなのは、剣を振るたびに体が熱を帯び、全神経が研ぎ澄まされていく感覚だった。


最後に勇者が放った渾身の一撃。その記憶が鮮明に甦る。あのとき、自分は受けきれず、剣を弾き飛ばされ、屈辱の敗北を喫した。


「今日は…勝つ!」

私は心の中で強く叫び、全力で木剣を振り下ろそうとした。その瞬間――


「カア! カア!」

鋭い鳴き声が静寂を破った。上を見上げると、アビーが必死に鳴きながら私の背後を見つめている。


(あと少しだったのに…。)

そう思いながら、気を落ち着けて振り返った。


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