第12話 初めての友達(3)
私は机の引き出しから小さなリボンを取り出した。それを手に持って近づくと、コルナスは警戒してしっぽを左右に振り始めた。
「おい、なんだそれは。まさか俺にそれをつけるつもりじゃ…?」
「そうよ。だって可愛いでしょ?爬虫類って苦手な人もいると思うけど、これを付けていればアデルもかわいいと思うかもしれないわ。それに触っても害がない子だときっと思ってもらえるわよ。」
「俺はそんなもんなくても十分かわいいし、十分いい子だ!」
コルナスは反発しつつも、私の満面の笑顔に逆らえない様子だった。
「ほら、じっとしてて。似合うかどうか確認するだけだから。」
私がリボンをコルナスの首元に軽く結ぶと、真っ白なうろこに鮮やかな青いリボンが映えた。
「まあ、似合ってるじゃない!」
コルナスはため息をつきながら鏡の前に向かい、自分の姿をじっと見つめた。
「くっ…悪くねえな。やっぱり元がかわいいからな!」
「でしょ?これならアデルもコルナスの良さがわかると思うわ。」
「まあいいさ、居心地よく過ごせればなんでも。」
コルナスはなげやりに言いながら、リボンを触らないように気をつけているのが微笑ましかった。
「お嬢様、失礼します。」
朝の準備のためにアデルの入室の許可を求める声が聞こえた。
「ええ、入って。」
「失礼します、お嬢様。」
台車を押しながらアデルが入室した。
私は少し緊張しながら、彼女の視線がどこに向かうのか注意深く観察する。
アデルはまず私の顔を見て、いつものようににっこりと挨拶したが、次の瞬間、私の手に乗せているコルナスに気づき、目を大きく見開いた。
「あ、あの…お嬢様、それは…?」
「今日の剣術の鍛錬中にね、カラスに襲われそうになっていたのを見つけたの。かわいそうで放っておけなくて…。とてもおとなしくてかわいい子だから、今日から私のペットにすることにしたの。」
少し照れながらも、努めて自然な口調で説明する。
「でも、令嬢が爬虫類をかわいがっているなんて噂が広がったら嫌だから、内緒にしてほしいの。」
アデルは恐る恐る私たちに近づき、じっとコルナスを観察した。
その間、コルナスはアデルの視線をじっと受け止めるように見つめ、首を傾けたかと思うと、舌をペロッと出してみせた。
「か、かわいいです…。」
「そうだろ?俺って魅力的なんだ!」
コルナスはアデルに話しかけるが、アデルにはその言葉はわからないみたいだ。
アデルは目を丸くしながら、もう一度コルナスに目を向けた。
「か、かわいいです…でも、お嬢様、本当に大丈夫ですか?爬虫類は時々噛んだりすることもあると聞きますが…。」
「大丈夫よ、コルナスはとってもいい子なの。ほら、全然おとなしいでしょ?」
コルナスはその言葉に反応し、少しだけしっぽを持ち上げた。
「フン、当たり前だろ。俺はただのトカゲとは違うんだぜ。」
アデルは驚いた表情で一歩後ずさりしたが、私の落ち着いた態度にほっとしたようだった。
「お嬢様がそうおっしゃるなら…でも、エサやお世話はどうされますか?」
「それについては心配いらないわ。コルナスが自分でどうにかするみたいだし、基本的にはお部屋で一緒に過ごすつもりよ。アデルには迷惑をかけないようにするわね。」
「かしこまりました。ですが、お嬢様が困ったときは遠慮なくおっしゃってくださいね。」
アデルはまだ少し戸惑いを残しながらも、微笑みを浮かべて一礼した。
「ありがとう、アデル。それじゃあ今日も一日よろしくね。」
朝の準備を終えたアデルが退室し、部屋に静けさが戻ると、コルナスが尻尾を揺らしながら机に移動した。
「へえ、あの子もなかなかやるじゃねえか。俺を見て悲鳴を上げなかったのは立派だ。」
私は苦笑しながら、リボンを整えてやる。
「そうでしょ?アデルは頼れる子なの。これからきっと仲良くできるわ。」
「けっ、そうだといいけどな。」
コルナスは窓の外を見ながら目を細めた。
「嬢ちゃん、俺はもう眠るから、そのハンカチと一緒に窓際に置いてくれ。」
私は言われた通り、ハンカチの上に乗せたコルナスを窓際へと運んだ。
日の光を浴びて、うろこがキラキラと輝いている。よほど眠いのか、まぶたはすでに落ちかけている。
「ごはんを食べてくるわね。アデルにはしばらく部屋に入らないように伝えるから、ゆっくりしててね。」
眠るのに邪魔だろうと、リボンを取ろうとすると、コルナスは首を左右に振った。
「邪魔じゃないから大丈夫だ。それに、これは俺のお守りだからよ。」
私は輝くうろこを人差し指で撫でながら、微笑んだ。
「おやすみなさい。」
もう寝ているのか、返事はない。私はコルナスを起こさないよう、静かに朝食へと向かった。