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第1話 始まりと決意

手の甲に浮かび上がった禍々しい紋章から伸びるツタは、手首に到達したところでその動きを止めた。


紋章が現れたのは、大事にしていたクマのぬいぐるみが無残な姿になっているのを目にした時だ。

「魔王の化身」と揶揄されるこの黒髪のせいで、使用人たちから嫌がらせを受けることが多かったが、今回は大切なぬいぐるみがその犠牲となってしまった。

嫌がらせをしてきた使用人に対する激しい憎悪を感じた瞬間、手の甲に紋章が浮かび上がったのだった。


――ズキッ……。


こめかみに痛みを感じた瞬間、私は思い出した。この紋章が「魔王紋」であり、過去に何度も魔王として生まれ変わってきたことを。そして、ツタが心臓に到達すると、魔王として覚醒してしまうことを。


「あぁ、また魔王になるのか……」


思い返せば、魔王として生まれ変わるのはこれで9回目になる。これまで、人への激しい憎悪から魔王となり、その度に勇者に倒されてきたが、8回も倒されれば、さすがに諦めの気持ちが強くなるものだ。事実、8回目に覚醒した際には、自ら勇者の剣に飛び込むようにして絶命した。7回目の時には、勝利を確信した瞬間、身体が不思議な力で動かなくなり、魔王は運命として必ず敗北するのだと悟ったのだった。


ふと、手に抱えていたクマのぬいぐるみに視線を落とす。腕はちぎれ、片目の糸はほつれ、綿はあちこちから飛び出している。これは、誕生日に両親からもらった大切なぬいぐるみだったのに……。


今回の人生では、家族には大切にされている。過去の人生では、いつも虐待されてきたが……。

もしかしたら、今回の魔王覚醒はいつものような人生ではないのかもしれない。

私、アリシア・デ・ラ・クロワは、カリスタン国北部に位置するノルディア地方の辺境伯デロワ家の娘であり、今年16歳になる。

家族には、優しい父と母、そして双子の妹がいる。


デロワ家はノルディア地方でも有力な貴族のひとつで、観光業のみならず、林業や鉱山といった豊富な資源を所有している。


「魔王の化身」と忌み嫌われる黒髪のせいでなければ、魔王に覚醒することもないのではないかと思うほど、恵まれた環境で暮らしている。

これまでの人生では、人を傷つけないようにと我慢してきたが、いつも我慢の限界に達した時に魔王へと覚醒してしまった。だが今回の人生は、家族から大切にされており、何かがいつもとは違う気がする……。

自分のために生きてみても良いのではないか?まだ魔王にもなっていないのに、髪色のせいで差別を受けるのはおかしいし、使用人にいじめられるのも納得がいかない。自分のために怒ってみても良いのではないか……。


それに、私が魔王になれば――世界は今よりもさらに壊滅的な状況へと突き進む。

魔物たちは障壁を越え、人間の領域へと溢れ出し、かつて平穏だった街は混乱と恐怖に包まれるだろう。

血に染まる大地、崩れゆく城壁、絶望に沈む人々。

そして、今の優しい家族すら、その脅威に巻き込まれ、命を落とすかもしれない。


私は、それだけは絶対に許せない――。


「自分のために生きる」――それは当たり前のはずなのに、どこか不安で、怖くて、けれど同時に胸が高鳴る。

この先、魔王覚醒に繋がる出来事がいくつも待ち受けているかもしれない。

それでも、私が私であるために――強くならなければ。

精神的にも、肉体的にも、今のままでは乗り越えられないのだから。


そっとぬいぐるみを抱き寄せ、「ごめんなさい、私、これから強くなるから」と呟く。

"まずはぬいぐるみを八つ裂きにした使用人から始末してやろう……。"

なんとも魔王らしいセリフを思いついて、ふふっと笑ってしまう。


これからの人生が楽しみだという興奮で、眠気はまったくなかったが、今は考えるのを止めて身体を休めよう。ぬいぐるみを抱いたまま床につく。

「おやすみなさい。明日、ちゃんと治してあげるからね……」

そう呟き、私はゆっくりと眠りに落ちていった。


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