薔薇色の魔法と鋼の剣

封印された記憶の呼び覚まし、そして、新たな試練

　レイアの剣によって、倒れ伏した黒曜の守護者たちの間を、レイアは、静かに、まるで幽鬼のように歩いた。

　その足取りは、まるで鋼のように硬く、一切の迷いがなかった。彼女の大剣は、朝の光を受けて、冷たく、そして、鋭く輝いていた。刃こぼれ一つないその剣身は、彼女の熟練した腕と、日々の手入れの賜物だった。先ほどの激戦が、まるで幻だったかのように、周囲の森は、再び、静寂に包まれていた。

　しかし、その静寂は、どこか不気味で、レイアの心を、まるで氷の刃で抉るように、ざわつかせた。倒れた黒曜の守護者たちのローブは、朝露に濡れ、まるで巨大な黒い花が咲いたかのようだった。彼らが握っていた、黒い短剣や、杖は、折れたり、歪んだりしており、その戦いの激しさを、静かに物語っていた。木の根元には、散乱した矢筒や、折れた弓が転がり、彼らが、遠距離攻撃も、得意としていたことを示唆していた。

　レイアの鮮やかな真紅のポニーテールは、微かに震えていた。それは、まるで、彼女の心の奥底に潜む、闘争本能が、わずかに、顔を覗かせているかのようだった。彼女は、煩わしそうに、そのポニーテールを、手で払い除けた。まるで、心の奥底にうごめく感情を、振り払おうとしているかのようだった。

　（……一体、何が始まるっていうの？この胸騒ぎは、一体、何なの？まるで、何かに導かれているように感じる。嫌な予感がする……まるで、あの時と、同じように……）

　レイアは、心の中で呟いた。周囲を警戒しながら、古代遺跡「緋色の夜明け」へと続く道を、静かに見つめた。その瞳は、まるで、過去の恐怖を呼び覚まさないように、必死で警戒しているかのようだった。足元には、先ほどの戦闘で、散乱した落ち葉や、土が、彼女の足跡を静かに覆っていた。土は、湿り気を帯びており、彼女の革製のブーツの跡をくっきりと残していた。

　「……レイアさん、大丈夫ですか？怪我は？」

　ルイスが、レイアに駆け寄り、心配そうに声をかけた。その薔薇色の瞳には、先ほどの戦闘で、レイアが見せた、圧倒的な強さへの畏敬の念と、そして、彼女を心配する、優しい感情が、入り混じっていた。彼は、レイアの傍で、倒れ伏した黒曜の守護者たちを、まるで、毒蛇を見ているかのように、警戒しながら、魔術書を、まるで、大切な宝物のように握りしめていた。彼の手は、微かに震え、彼の緊張を物語っていた。彼の背後には、折れた木の枝や、抉れた地面が散乱しており、先ほどの戦闘の激しさを、物語っていた。

　「……問題ない。それより、気を引き締めろ。まだ、終わりじゃない。……これは、始まりに過ぎないんだ」

　レイアは、ぶっきらぼうに、突き放すように答えた。その声は、相変わらず冷たく、そして、トゲがあった。彼女は、ルイスの顔を、見ようとしなかった。

　レイアは、森の奥へと歩き始めた。馬車は、もはや、見る影もなかった。黒曜の守護者たちとの戦闘で、車輪は砕け、馬は、悲鳴を上げながら、森の奥へと逃げていった。道は、荒れており、彼女の足元には、深い轍が刻まれていた。ルイスは、彼女の背中を、見守るように、ゆっくりとついて行った。森の奥へ進むにつれて、空気はますます重苦しくなり、不気味な静寂が、二人を包み込んだ。鳥のさえずりも、風の音も、まるで、世界のどこにも存在しないかのようだった。木々の間から漏れる、朝の光は、微かで、まるで、二人の未来を、暗示しているかのようだった。そして、その時、レイアの頭の中に、まるで、脳を貫くかのような激しい痛みが走った。

　（……これは、一体……？……まるで、頭蓋骨をハンマーで叩き割られているようだ……！）

　レイアは、心の中で叫んだ。彼女は、頭を押さえ、その場に立ち止まった。その激しい痛みに、彼女のポニーテールは、まるで、苦痛を訴えるかのように、わずかに震えた。それは、まるで、彼女の脳内で、激しい嵐が吹き荒れているかのようだった。彼女は、今にも、倒れそうだった。

　そして、次の瞬間、レイアの頭の中に、まるで、堰を切ったように、過去の記憶が、洪水のように流れ込んできた。彼女が、まだ幼かった頃に見た、戦場の光景。炎が燃え盛り、悲鳴がこだまする、まるで地獄のような世界。親友が、魔術の暴走に巻き込まれ、まるで、砂のように消えていく、絶望的な光景。そして、その時、レイア自身が、怒りと悲しみに支配され、我を忘れて、狂ったように戦っていた、あの日々の記憶。彼女は、人の命を奪い、そして、魔術の、本当の恐ろしさを知ったのだった。その記憶は、彼女の心に、今もなお、深く刻まれており、時折、彼女を、過去の闇へと、引きずり込もうとした。

　（……やめて……！見たくない……！もう、二度と、思い出したくない……！もう、あの絶望を、味わいたくない……！）

　レイアは、心の中で絶叫した。彼女は、過去のトラウマに再び引きずり込まれそうになり、必死に抵抗した。彼女は、過去の記憶と、必死に戦っていた。

　そして、その時、レイアの中で、何かが、まるで、ガラスが砕けるかのように音を立てて弾けた。彼女の中に眠っていた、古代の戦士の血が、完全に覚醒したのだ。彼女の身体から、まるで、火山が噴火したかのように、強大な魔力が溢れ出し、周囲の空気を、まるで熱風のように震わせた。彼女の瞳は、まるで燃え上がる炎のように赤く輝き、その瞳を見る者に、まるで底なしの闇を覗き込んだかのような恐怖を与えるものだった。そして彼女の肌は、まるで、内側から光を放っているかのように、赤く発光し始めた。

　「……レイアさん……？一体、何が……？その力は……？」

　ルイスは、レイアの異変に気づき、震える声で叫んだ。彼は、まるで化け物を見るかのように、レイアから距離をとった。彼女の身体から発せられる、強大な魔力に、彼は、圧倒されていた。しかし、レイアは、何も答えなかった。彼女は、まるで、自我を失ったかのように静かに大剣を握りしめた。その力は、まるで、彼女の腕に古代の戦士が宿ったかのように強大だった。

　レイアは、遺跡の入り口へと、まるで、操り人形のように歩き出した。その足取りは、先ほどとは違い、どこか機械的で、人間味が感じられなかった。彼女は、まるで何か憑かれたように、ただ、遺跡の入り口を目指していた。ルイスは、その様子にただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。彼は、レイアの身に、一体、何が起こっているのか、理解することができなかった。彼には、今の彼女は、まるで、見知らぬ化け物のように感じられた。

　古代遺跡「緋色の夜明け」の入り口は、巨大な石の扉で固く閉ざされていた。扉には、古代文字が刻まれており、その文字は、まるで生きているかのように微かに、そして、不気味に光っていた。遺跡の入り口は、深い森の中に突如として現れ、周囲の木々とは異質な、ひんやりとした空気を纏っていた。巨大な石の扉は、まるで、太古の昔から、そこに存在していたかのように、苔むし、風化していた。その扉は、まるで、この遺跡が、長い間、誰にも侵入されることなく、眠っていたことを、示しているかのようだった。レイアは、扉の前で立ち止まると、まるで、何かに操られているかのように、静かに大剣を構えた。

　そして、次の瞬間、レイアは、大剣を、まるで雷が落ちるかのように、一気に振り下ろした。その剣閃は、あまりにも速く、そして、鋭く、周囲の空気を震わせ、そして、切り裂いた。大剣は、まるで、豆腐を切るかのように、巨大な石の扉を、いとも簡単に真っ二つに切り裂いた。その衝撃波は、周囲の木々をなぎ倒し、地面を、まるで地震のように揺るがした。扉は、まるで、最初から、そこになかったかのように、完全に破壊された。

　（……邪魔をするものは、全て、斬り捨てる……！過去の、あの悲しみも……！私を、苦しめる、全てを……！そして、未来に待ち受けるかもしれない、不安も……！全て、この剣で、斬り捨ててみせる……！私は、決して、過去に囚われたりしない……！）

　レイアは、心の中で叫んだ。彼女は、己の力を制御しようとしていた。彼女は、今、完全に、過去の自分と、決別しようとしていた。

　遺跡の内部に、レイアは、まるで、侵入者を拒むかのように、冷たく、そして、静かに足を踏み入れた。

　そこは、まるで、巨大な洞窟のように、暗く、そして、広い空間だった。石でできた壁や、床は、所々、崩れており、長い年月が経っていることを示唆していた。壁には、古代文字が描かれており、それは、不気味な光を放ち、彼女を、まるで、遺跡の奥へと誘っていた。床には、埃が厚く積もっており、彼女の足跡を、くっきりと残していた。

　そこには、黒曜の守護者たちが、まるで、彼女を待ち構えていたかのように、立ち並んでいた。彼らは、レイアの異様な雰囲気に、僅かに動揺の色を見せ、後ずさりをした。彼らは、整然と並び、まるで訓練された兵士のようだった。その様子から、彼らが、単なる盗賊や、ごろつきではなく、高度に組織化された、何か秘密の組織の一員であるということが、見て取れた。彼らのローブや鎧は、所々、擦り切れ、または、薄汚れており、彼らが、長く、この場所で、待機していたことを、示唆していた。彼らの手には、杖や、剣が握られており、それぞれ、異なる武器を装備していた。

　「……お前たちか……！私の邪魔をするのは……！お前たちも、あの時、私を、苦しめた魔術師どもの仲間なのか……！お前たちも、私を、苦しめるのか……！」

　レイアは、低い声で、黒曜の守護者たちに、まるで、地獄の底から響いてくるかのような、冷たく、そして、恐ろしい声で言い放った。その声には、まるで、彼女の中に潜む獣が、牙を剥いたかのような狂気が宿っていた。

　そして、次の瞬間、レイアは、まるで嵐のように動き出した。その動きは、あまりにも速く、黒曜の守護者たちには、彼女の姿を、目で捉えることさえ難しかった。彼女の大剣は、まるで舞うように、そして、正確に黒曜の守護者たちを、次々と斬り伏せていった。　

　黒曜の守護者たちは、レイアの圧倒的な力に、ただ為す術もなく、まるで人形のように倒れていった。彼らの身体から、赤い血が流れ出し、床に、まるで、赤い花を咲かせたようだった。

　（……邪魔をするな……！私を邪魔する者は、全て、斬り捨てる……！私は、自分の力で未来を切り開くんだ……！）

　レイアは、心の中で叫び続けた。彼女は、必死に己の力を制御しようとしていた。そして、その時、彼女は、心の奥底に眠っていた、本当の力、それは、彼女が、過去の悲しみを乗り越え、未来を切り開くための、希望の光を、見つけようとしていた。そして、彼女は、自分の心に決着をつけようと、今、まさに戦っていた。

　そして、レイアは、まるで鬼神のように、古代遺跡「緋色の夜明け」の奥へ奥へと突き進んだ。その無双は、まだ始まったばかりだった。遺跡の奥は、さらに深く、そして、暗く、彼女を待ち受けていた。彼女の背後には、倒れ伏した黒曜の守護者たちの亡骸が転がっており、その空間は、まるで、地獄の入り口のようだった。