新たな旅路、そして陰謀の足音
(……さて、と、そろそろ、馬車が出る時間が近づいてきたかしら。これから、一体、どんな、面倒なことが、待ち受けているのかしら?)
レイア・ナラタは、王都イグレシアの冒険者ギルドを出ると、冷たい夜風に、ピンクのパーカーのフードを深く被りなおした。そして、彼女の赤いポニーテールは、まるで、燃え上がる炎のように、そして、何かを、確かめるかのように、静かに、揺れていた。
(……そして、この、胸騒ぎは、一体、何なの? ……もしかしたら、この冒険が、過去の悲しみと決別するための道標になるのかもしれない)
レイアは、自嘲気味に、そう呟くと、そして、歩き出した。彼女の、その、足取りは、いつもより、少しだけ、軽やかだった。そして、その瞳には、不安と、同時に、未来への、期待が、宿っていた。
……ギルドを、出て少し歩いていると、そこは、もう、王都の路地だった。露店の灯りが、その道を、優しく、照らしている。そして、その光は、まるで、レイアの、未来を、導く、灯火のようにも感じられた。
……路地には、焼き菓子の甘い香りが漂い、そして、どこからともなく、香辛料の刺激的な匂いが、風に乗って、運ばれてきた。そして、それは、レイアの、食欲を、そして、冒険への、渇望を、呼び起こした。
(……ああ、本当に、良い匂いね。そして、もしかしたら、今回は、美味しいものも、食べられるかもしれない。冒険といっても、少しは楽しいものにしたいものね)
……そして、レイアは、ピンクのパーカーのフードを、少しだけ、緩めた。そして、その時、彼女は、人々の、話し声や、笑い声に、耳を澄ました。それは、彼女が、以前は、あまり、興味を抱かなかった、世界でもあった。
……通りには、仕事を終えた職人たちが三々五々と集まり、露店の提灯の下で、談笑している。錬金術師の店からは虹色の煙が立ち上り、向かいの居酒屋からは陽気な笑い声が響いていた。それは、まるで、お祭りの前夜のような、活気に満ち溢れていた。
(……本当に、騒がしいわね。けど、なぜだろう? 今は、そんな、この騒がしさも、少しだけ、心地よく感じる。そして、それは、きっと、私が、この王都の街を、少しだけ、愛し始めているからなのかもしれない。そして、もしかしたら、私は、もう、一人ではないのかもしれない。)
「レイアさん!」
後ろから、息を切らせた声が、聞こえてきた。
レイアが振り向くと、そこには、古文書を抱えた、ルイス・アルバートが、小走りに、駆けてくる姿が見えた。その、整えられた服装は、少し、乱れ、銀色の髪は、汗で、わずかに濡れていた。そして、それは、彼が、どれほど、急いで、ここまで来たのかを、物語っていた。
(……この男は、いつも、どこまでも、お人好しね。)
「……冒険の準備はできたのか?何をそんなに慌てているのか?」
レイアは、少しだけ、楽しそうに、そう尋ねた。そして、それは、以前のような、皮肉ではなく、心からの、問いかけだった。
「いえ。気づいたら、閉館の時間だったので、もう馬車が出てしまうかと心配になり……」
ルイスは言いかけて、ふと何かに気づいたように、鼻を鳴らした。そして、彼の瞳は、遠くを、見つめていた。
「……この香り……ああ、あそこの、おばあさんのアップルパイですね。それに、この、スパイスの香りは、もしかしたら……」
路地の角から、甘い香りが漂ってくる。そして、それは、まるで、ルイスを、誘惑しているかのようにも、感じられた。
……レイアは、微笑んで、通りの先を指差した。
「あなたの大好物なの?行ってみる?」
「……え、でも、時間が……それに、まだ、遺跡のことについて、調べなければならないことも……」
ルイスは、少し、戸惑いながら、そう言った。
「大丈夫。馬車の出発までは、もう少し時間がある」
レイアは、そう言うと、先を歩き始めた。そして、彼女の赤いポニーテールは、まるで、道標のように、ルイスを、導いていた。
……二人は、古い石畳の通りを歩き始めた。春祭り前夜の賑わいが通りに満ちている。
……そして、レイアとルイスの耳には、居酒屋からの会話が聞こえてきた。それは、まるで、二人の未来を、暗示しているようにも、感じられた。
「……おい、聞いたか?緋色の夜明けの噂」
「……ああ。黒曜の守護者の話だろ?」
「……遺跡の最深部を、守ってるっていうやつか?そして、それは、決して、普通の人間には、手に負えないという」
「……深夜になると現れるんだってな。漆黒の鎧に身を包んだ騎士が……そして、それは、もしかしたら、古代文明を滅ぼした、亡霊なのかもしれない……」
ルイスが足を止める。「レイアさん、あの話……」
「気にしないで」レイアは軽く肩をすくめた。「どの遺跡にだって、そういう噂の一つや二つはあるものよ。それに、そんな、噂を、信じている暇があるなら、その分、鍛錬でもしてなさい」
……レイアは、ルイスに、そう言ったが、内心では、少しだけ、不安を感じていた。
(……もしかしたら、あの話は、単なる、噂では、済まないのかもしれない。そして、もしかしたら、私は、あの、噂の、中に、何か、真実が隠されているかもしれないと、そう、感じている)
……パイの屋台に着くと、白髪の店主が、温かな笑顔で二人を迎えた。熱々のアップルパイが、小さな木製のカウンターに並んでいる。その匂いは、香ばしく、そして、甘く、それは、レイアの、心の奥底に、眠っていた、何かを、呼び覚まそうとしているかのようだった。
「あら、珍しいわね」
店主が目を細める。「こんな時間に」
「明日から少し遠出をするので」
ルイスが照れくさそうに答えた。そして、その瞳には、少しの不安と、そして、期待が、混じり合っていた。
「まあ!噂の遺跡調査?」
店主は目を丸くした。「気を付けていくんだよ。」
レイアはパイを受け取りながら微笑んだ。「ええ。緋色の夜明けは危険みたいだけど、ちゃんと帰ってくるよ」
「あの遺跡……」
店主は声を潜めた。「遠い昔は恋人たちの誓いの場所だったらしいんだけどね。今じゃ……」
言葉を濁す店主の表情に、一瞬、不安が過った。
(……恋人たちの誓いの場所? そして、それは、今では、呪われた遺跡? ……もしかしたら、それは、過去の、悲しみと、未来への、希望が、入り混じった場所なのかもしれない。)
「……今じゃ?」
ルイスが思わず身を乗り出した。彼の瞳には、好奇心と、そして、少しばかりの、不安の色が、宿っていた。
「なんでもないよ」
店主は急に明るい声を取り戻した。「さ、パイが冷めないうちにね。そして、もし、何か、困難に、出くわした時は、いつでも、この場所を思い出してほしい。なぜなら、ここでは、いつも、誰かが、お前たちを、見守っているから」
……パイの香りと共に二人は夜道を歩き始めた。春祭り前夜の賑わいが通りに満ちている。だが時折、黒曜の守護者の噂話が祭りの喧騒に紛れて聞こえてくるようだった。
レイアは、遠くの地平に、紫がかった光が走っているのを感じた。それは、古代遺跡「緋色の夜明け」から、放たれている、魔力の光だった。レイアの赤いポニーテールが、春の風に揺られて、優雅に舞った。