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殺人未遂みたいに言うなよな




「は? 急に何言い出す?」


そんなつもり全くないってのに、オジサンが偶然ドアを開けて入ってきたら、誤解されるようなこと言いやがって。今以上に睨まれたら、もう息子に会うな! って言われる未来しか浮かばん。


「どういう理屈でやったんだよ、お前。こんなの……まるで…」


ジュークが窓の前から俺の方へ振り向きつつ、胸のあたりをシャツごと握っているように掴んでいる。


まさかだけど、本当にコイツの体に作用するような魔法だった? 俺、やらかした?


「え? ちょ、待って! お、ぉおお…俺、何しちゃった? どど…どうしよう。む、胸でも痛い? 俺、お前の胸に影響出るような魔法使ったのか? よくわかってないのに勝手したから、近くにいたお前に攻撃でも?」


どもるほどに、声が震えた。急に怖くなった。よくわかってないままで、魔法使ってたから。


俺は誰かを攻撃するような魔法をイメージしたつもりなんて、本当の本当にこれっぽっちもなくって。


「ごっ…ご、ごめん! 大丈夫か?」


あわててベッドから飛び降りて、よろけながら窓の方にいる彼の元へと近づいていった。


「あー…そうじゃねえ。悪い。誤解させた。そうじゃなくて…俺が」


と、そこまで彼が呟いた時には、俺は彼の目の前にいた。


「ホント、ごめん。大丈夫か? 胸はまだ苦しいのか?」


自分がしたことを想像しただけで、手が震えてしまう。


俺が何かしたのか、何をしたのかわかってない。だから、今の俺に出来るのは謝るだけ。それ以外に何が出来るのかわからない。何かして、またそれが余計なことになったらとかも思っちゃうし。


(それに何より、ジュークを苦しめたくないしな)


それでも…それでも! もしもの話で、自分がそうしちゃったなら自力でどうにかしたい。挽回っつーかなんつーか。


「…じゃねえよ。安心しろ」


言葉の最初が聞き取れず、何をどう安心していいのか。逆に不安を煽られた気分だ。


「安心出来ねえ。もしも俺がなにかしたんなら、どうすればお前を助けられるのか言ってくれ! やれることがあるなら、どうにかするから!」


だから、素直にそのまま伝える。俺らしく。


でも、結局は空回りしてたんだなと結論がつくような説明を聞かされるわけで。


「あー…ん、っと、な? 胸は痛くない。な? この通り、俺は元気だ。ただ、ちょっとお前がしたことで驚きすぎただけだ。そのせいで、心臓がヒュッてなったから、俺の心臓止める気かって言ったんだ。…心配させるようなこと言って、すまん」


思いのほかハッキリと、ジュークにしてはわかりやすく。


「…だけ?」


「だけだ。それ以上も以下もないから、本当に安心していい」


確認をした後の言葉にも本当にホッとして、俺はその場で床にぺたりと座ってしまった。


「よかったぁー。ジュークになにかあったらって、俺…」


ジュークなりに俺のことを大事にしてくれているのと同じで、俺だって俺なりにだけどこの親友を大事に想っているつもりだ。


「…お前、俺のこと大好きかよ」


「大ってほどじゃないけど、嫌いじゃないから。ジュークのこと」


「素直じゃないなぁ」


「俺は基本的に素直で正直モンだろうがよ」


「たしかに。正直すぎな口の悪さでよく誤解を受けがちだもんな」


「いらんこと言い出すな。それは俺が一番身に染みてっから」


「あはは」


「…ははは」


互いへの情を確認してから、ジュークが指さす方へと俺は近づく。


窓の下を覗きこむと、多分さっき俺が水を移動させたかったあたりが濡れていて。


「だいたい場所は合ってたか、うん」


「…やっぱ、狙ってやってたのか」


「まあ、あのビッチャビチャのままのやつに、乾燥させる魔法使っても乾くイメージ出来なかったから。先に多少の水分をどこかにやれたらいいんじゃね? って思いついたのが、窓の向こう」


とか話しながら、ベッドの方に二人で戻っていき、他の本を一緒に読んでいく。


時々、さっきの魔法の話なんかもしながら。


「イメージだけでどうにかってもんじゃねえよ、魔法は。たしかにイメージの有無で、威力に差はあるけど」


だの。


「ようするに転移だろ? 水の。…空間魔法の部類じゃねえの? 使える奴って、あんまいねえって聞いたぞ。おい」


とか。


たまー…にジュークが俺が聞きとれない声量で呟いてたりもしたけど、聞き返しても笑ってごまかされて終わり。それの繰り返し。


結果はというと、数冊の本の半分以上をだいたい読めた。読めたっていうか、さっき思ったみたいに中途半端に翻訳されたような内容で認識出来た。


ここの言葉に疎い人が翻訳した……って言えばいいんだろうか。


(にしても、だ。文字を読めなかった俺。魔力もなく、魔法の使い方なんか知らなかった俺。どっちもをひっくり返すようなことが起きている? でも、なんで?)


「さーて、そろそろ次の飯の時間だ。腹の減り具合は?」


さっきまでベッドの上にあった本を、ジュークがまとめてかかえて机の方へと積む。


残っているのは紙の束だけ。


「腹はそれなりに減ってるけどよ。この紙の束のやつも、なんか確認しなきゃいけないんだろ」


気になって質問してみると、視線だけ右上に一旦泳いでから。


「飯の後でいい。その紙の束は、ちょっと時間かけなきゃいけない内容だから。流れを説明すると、まずは先に飯を食う。で、この紙の方の確認をする。夕方か夜になるあたりに、もっかいクランが来ることになってる。その時には、またちょっと確認があると思う。そんな流れ」


説明を聞いただけで、すでに疲れてる自分の姿しか想像出来ないや。


「…確認ばっか」


思わず愚痴みたく、ボソッとこぼしてしまう。


「まあ、うん。わからなくもないよ、んな顔になるのも。…とりあえず飯の準備してもらう間に、お前んちに伝言たのんでくるか。一緒に確認してたから、すっかり後回しにしてたよな。悪気なかったけど、遅くなっちまったな。…な。おばさん、文字って多少は読めたよな」


「読めたはずだけど、難しい言い回しとかは無理だぞ? だから可能なら口で伝えてほしい。手紙書いて、それ読んでもらうとかでもいいし。…難しいか?」


買い物に行くとか、逆に買い取ってもらうとか。そっちの関係で、多少は文字の読み書きが出来るはずのうちの母親。


でも、文字でのやりとりをしているのを見たことがないから、どこまで平気か判断は難しい。それで手紙を持って行ってもらい、読めなかった時には俺の状況について母親が知ることがないことになる。


もしものことを考えたら、手紙を書いたものを母親が読めるかどうかを確認できるような相手の方がいいな。そういう話題を出しても、お互いに恥ずかしくないとか。騎士とかがいきなり来たら、さすがの母親も委縮しそうだし。文字が読めないってなった時に、本当のことを言い出しにくい相手はやだな。


「…あ。カティさんは? 昔からいるメイドの。あの人なら、うちの母親とも顔見知りだし」


ふと思い出した。ジュークんとこに来る時に、オジサンに見つからないようにって協力してくれてた回数が一番多い人。それと、絶対に威圧感がない人。メイド長さんの下の立場だって聞いたことあるけど、難しいかな。


「カティな。うん、いいかもな。じゃあ、ちょっと待っててくれ。時間が取れるか聞いてくるのと、ついでに飯のこと頼んできちまう」


そわそわしながら聞いたそれに、ほぼ即答で許可が出た。あとは、カティさんに話してもらうだけだ。


「うん」


「それまでは、またすこし横になって回復してろ」


「ん」


「じゃ」


「じゃ」


まだ話してもらえていない事情がある以上、この場所から俺が動いて説明をしてくるわけにいかない。


その程度は理解してるつもり。意外とお利口さんなんだぜ、俺って。


「…ふう」


川に釣りに行って、ケガして。それから起きてることを、自分の中でどうにか消化しようと思ってるけど。


「そう…。理解が追いつかないってーのは、こういう時に使うんかな」


体の変化か、心の変化か、それとも違う変化か。


「目の、変化…? それっぽっちが、こんな事態に出来るもん?」


人生の中で、生まれて死ぬまでに予想できないことが何度か起きるもんだって、亡くなった父親が言ってた記憶がある。


「その予想できないことがあったから、亡くなった…のか? もしかして」


ケガをしたけれど、俺はまだこうして生きている。


「……父親に起きた予想外の出来事よりはマシだったって思えばいいのか?」


どうやっても、父親が生きてるって未来には行けなかったのかな。


「こんな役に立ちそうもない平民の三男よりも、父親の方が…」


父親が亡くなってから二年。何度も考えた。何度も、何度も。


「腹減ったから、こんな凹むようなこと考えちまうのかな。父親のこと考える時は、いっつも腹減ってる気がする」


自分しかいない静かな部屋で、こぼしてもしょうがないことをボヤきながら目を閉じる。


ため息を吐きながら目を閉じただけだったのに、気づいたら思ったよりも深く眠ってて。


「…い……セバスチャーン? そろそろ起きろー」


どれくらい経ってんのかわからないけど、ジュークが俺の肩を軽く揺らしながら声をかけていた。


「ん…ぅ、寝て、た? 俺」


「ん。ずーっと声かけまくってたんだけど、なかなか起きないからさ。まさか寝てるんじゃなく意識がないって方じゃ? ってドキドキしたってーの」


また心配かけたんだな。


「んな無反応? 俺」


「まーな。頭も使ったし、魔法の方もいろいろあったろ。地味に疲れてたんじゃね? …ほら、飯の準備が出来てる。起き上がれるか?」


彼の視線の先を追うと、すこし離れた場所にあるテーブルの上にある食器から湯気が。それとなんか美味そうな匂い。


「起きる! すっげーいい匂い」


「だろ?」


ジュークと一緒に具だくさんのスープと、鶏肉か? なんかいい匂いの草と一緒に焼いたやつを食べる。


スープがあまりにも美味くて、あっという間に皿が空になる。おかわりなんて贅沢だよなとか思ってたら、気づけばまた具がいっぱいのスープ皿が目の前に置かれていて。


(そんなに顔に出てたのかな? 恥ずかしいなー)


恥ずかしさを感じてはいるものの、せっかくよそってくれたんだしなと断りもせずにスプーンを手にした。


一足先に食事を終えたジュークは、上品な仕草で紅茶を飲んでいる。


「お前は、また冷めたのの方がいいのか?」


何のことか一瞬わからなかったけど、彼の視線の先には紅茶のカップがあったから、俺の分のか! と冷めた紅茶をまた頼むことにした。


腹いっぱいになり、紅茶も飲み、二人で一息つく。


俺が眠っている間に、カティさんが俺んちに向かってくれたらしい。話もついたとかいうから、まずは一安心。


ただ、ここにどの程度いなきゃいけないのかがハッキリしてないだけに、どっちにしろ心配かけそうな気はするけど。


「ジュークさまー。ただいま、戻りました」


冷めた紅茶を半分ほど飲んだ頃、ノックが三回鳴った後にクランさんの声がした。


俺よりも先に食事を終えていたジュークが、小さく欠伸をしながらドアの方へ。


「思ってたより、早かったな。食事はすませたのか? まだなら、手配するが」


「あ、軽くすませてきたので、大丈夫ですよー」


「そうか。…まあ、途中で腹が減ったら言ってくれ。すぐに用意できるだろうから」


「お気遣いありがとうございます」


二人並んで歩いてきたかと思うと、ペコリと頭を下げられる。それに倣って、俺もペコッと下げてみせた。


「早速なんだがな、報告を先にしてもいいか」


「おや。何かありましたか? その後」


「…あったっちゃーあった」


「それじゃ、あったということですね」


「いや…。あったと認めたくない事態でもある。コイツが俺の心臓を止めに来た」


と、さっきのことを話題にあげてきた。


「んなつもり、これっぽっちもなかったんだってば。誤解されそうなこと言うなよ。ちょっと…思ったよりもいろいろあったってだけじゃん」


大げさに言われそうな気がして、俺なりに言い分を吐き出す。


クランさんと目が合って、ニッコリ微笑まれた。つられて、俺もヘラッと笑ってみせる。


ジュークが俺を手招きして呼びつける。


呼ばれるがままに近づけば、机の方へと誘われた。


「俺がクランと話している間、この紙の束に書かれているものを理解できるか。理解できたら、そこに書かれている作業が可能か不可能か。合計で20枚くらいはあると思う。その紙以外に、自由に使っていい白紙を置いておく。分からないことがあれば、クランと話していようが聞いてくれてかまわないからな」


高級そうなイスに腰かけて、裏返しにされていた紙の束を眺める。


何やら数字と文字がいっぱい殴り書きされてるものだ。


『この調査内容をまとめろ』


その殴り書きされた物に、小さな紙でそう命令みたいな口調で書かれている。


「これが作業の内容ってことか」


小さな紙を指先で摘まみ、横へ置く。


さっきの本よりも、ちゃんと文章になって読めていると思う。


(ってことは、この国の言葉で書かれているものか? この国の言葉なら、今の俺は読めるようになったって思ってもいいのかな)


そうなりたいと願っていたことが叶っていてほしいと思いながら、殴り書きされた数枚の紙を一つにまとめる。


どうやら野菜とかいろんなものの収穫量と、それとそれを作るのにかかったお金とか。とにかく金関係の報告か?


(まとめろ…って言われてもなー)


ぼんやりとそう考えたはずの俺だったのに、手が勝手に動き出す。


何も書かれていない白紙に、使い慣れていないはずの羽根ペンで収穫できた物の名前・村や町の名前・収穫した量・かかったお金・支払われた税金…などなどをまとめていく俺。


こんなやり方なんて、知らないはずなのに。


計算だって、こんなに桁がいっぱいのなんか出来ないのに。


(なんで? どうして俺…出来てるんだ?)


やり方が正解か不正解かは知らないけど、それっぽくやれている俺の姿に、俺が一番戸惑っていた。



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