二つの事実の乖離
クランから報告のような、親バカ話にも聞こえそうなそれを聞き。
「自覚したっていっていいんだな、今の話でいえば」
「ええ」
「回帰を自覚しつつ、それまでの中で得た知識に関しては曖昧」
「そうですね。そこは完全ではないようです」
「これまで回帰しあっていて、俺がアイツの死に関係していることにも気づいたのは…今回が初めてだな」
「これまでは、回帰したかもしれないとボンヤリと思い出すことがあっても、ジュークさまとどんな関係性かはさておきそばにいたということに関してだけは、何があっても思い出していないようだったと、おっしゃってましたよね」
「……カリナの名から解放した影響なのか? これは」
前回の回帰の時に出会ったある人物からのアドバイスのような、神託とも取れそうなそれに従って名前を強制的に変えた今回のアイツの人生。
たったそれだけで人生が変えられるかは、正直なところ賭けみたいだなと思うところもあった。そもそもで仕組み自体を変えられるのかも、確定じゃなかったしな。
教会が名づけに絡むように出来れば、セバスがどの家の子どもに産まれても対応できるようにって。運命に引き寄せられたかのように、どこかの親に”カリナ”と名付けられてしまう前に。
セバスだけが、カリナという名前に反応を示した。だから、そこから名前を変えさせたんだ。
とはいえ回帰が前提という壁がある。仕組みを変えさせなきゃと思いながら死んでも、次に活かせるか、それ以前に記憶しているかも賭けだ。
クランよりも自分が後に回帰するというのも前提だから、一足先に動いてもらうのが彼になってしまうのは致し方がない。彼もがその仕組みへの変更を憶えていなければ、話にならない。
彼自身がまた自分は回帰したのだと自覚するタイミングにもよる。そして、それは俺自身もどのタイミングで回帰を自覚するのか。クランと互いのことを打ち明けあって、協力体制に戻していくのか。
互いに記憶がある時とない時、または自覚するのが死の直前ということだって実際あった。
自覚がない者に、アナタは回帰者なんですよと話をすることの恐怖や危険性、他にもいろんなものを孕んで生きて。
それでも思い出せば、今回こそと強く願う。そこだけはずっと…ずっと変わらなかった。
――――アイツと生きたくて。
ただ、それだけの話って括ってしまいたくなるほどの、単純な話なんだけどな。
これまでの回帰にはなかったことが一つ二つと増えてくれば、疑い深い俺も今度こそ違う結果になるんじゃないかって未来を信じたくなった。それと、たったそれだけのことに縋りたくもなったんだ。
繰り返せど繰り返せど、目の前で命の火を消してしまうアイツを見送り続けてきた現在がこの手にあるから思うことだ。
(……そうだ。セバスチャンが、何度も自分はセバスだと言っていても)
文字列だけでいえば、セバスチャンもセバスも同じで、カリナとは明らかに違うんだからいいだろう? とか言われそうだが、実は違う。
”セバス”だけだと、遠い昔の言葉で”カリナ”に変換されてしまうんだ。アイツが知らないだけで。
そのために、どこぞの国で執事たる人物がよく名乗っている名前にこじつけさせた格好にした。チャンをつけただけで、まるっきり違う言葉になるんだ。
いろんな言語を学んでいたアイツだけれど、そのことにはまだたどり着けていないようだからそっとしておく。
「にしても、どうやっても探れないもんか。うちの父親が、あんなにセバスチャンを排除したがった理由。あそこまで嫌われるようなことを、セバスチャンがしたか? 俺の記憶の中に、それに結びつくような出来事がないんだよな。……赤ん坊の時のことなんざ、尚更記憶ない訳だし。クランの方でも手を尽くしてくれたとは聞いていたけどよ」
「…あの」
クランが遠慮がちに、様子をうかがうように見てくる。
「この情報は、あの方から伺ったわけではなく、ジュークさまからだけ伺った話ですが。隣国の第一王子だということは無関係でしょうか。この国内での調査に限界がある以上、調査範囲を広くするべきかと思った時に、そういえばと思い出したのですが」
そういえばそうだったな、俺。
「側室の息子だったな、他人事みたいだけど。ここで過ごすのが当たり前になりすぎてて、すっかり忘れてた。…最近は暗殺も少ないし。緊張感失くしてらんないのに。……失くせば、また…アイツを巻きこんでしまうかもしれないってのにさ」
あの瞬間を思い出しながら、奥歯をグッと噛む。
「でもよ……セバスチャンは隣国と無関係だろ? ましてや今回はこの領内で産まれている。回帰前はどうかは調査のしようがないけど、今回は間違いなく隣国とは無関係のはず」
「……そうでしょうかね。あの子が産まれた時、本来であれば平民は産婆がやってきて出産となることが多いのにもかかわらず、民間のものとはいえ病院で産まれたと聞いています。……ジュークさまは、隣国で産声を?」
「と、聞いている」
「誕生日、近かったような気がしましたが」
「セバスチャンに誕生日の詳しい概念はないぞ、たしか。春に産まれたとか秋に産まれたとか、その程度のはず」
俺はそう言い返すと、クランはあごに手をあてて「ふ…む」と小さく唸る。
それから、「そういえば」といかにも思い出したかのように。
「親子だった時のあの子の誕生日は、二人で決めたのを思い出しました」
そう話を切り出して、親子関係だった時にクランの誕生日を祝った時に羨ましそうにしていたのをキッカケに、アイツに誕生日があるようでなかった話をしてくれた。
その時のアイツも、出自はハッキリしていなかったらしい。
「まあ、それはさておき」
「…ああ。かまわない。隣国の方までも調査範囲を広げても構わない。ただ、それで本当に何か出てくるのかは」
俺がそう呟くと、クランがゆるく首を振る。
「いいんですよ、何が出てくるか、何も出てこないのか。なにもわからなくたって。何もなきゃないで、また他を探そうとするキッカケにすればいいんですよ」
まるで自分を慰めているかのような顔つきに、俺は眉を下げた。
「セバスチャンのことが心配って表情にしか見えねぇんだけど」
しょうがないなと思いながら、俺の言葉でバツが悪そうな顔へと変わったクランの肩を二度手のひらでトントンとして。
「悪いことしてんじゃねえんだ。んな表情するなよ、クラン」
俺は唯一の理解者として、笑ってみせた。
「……すみません」
彼はスッと視線をそらして、俺の方から顔をそむけた。耳は赤いから、恥ずかしいのかもしれない。あえてツッコまないでおこう。
クランが言い出した、隣国の方へと調査範囲を広げるという話。
そのことで今まで引っかけたことがなかった言い伝えめいたものが、いきなり脳内にポンと現れた。
本当に今の今まで思い出しもしなきゃ、これまで気にしたことなど一度もないこと。どっかで聞いたかも程度で思い出した。
気にすることがなかったのは多分、”俺には無関係”と思えていたからだと思うんだ。
「隣国といえば、たった今…思い出したことがあってさ。ちょっとそれについて調べたい。…まずはここにある文献からでいいから、アイツが目を覚ますまで一緒に調べてくれないか」
無関係と思い込んでいたのは俺だけの都合で、どこかに繋がっているかもしれないだろう?
何が真実に繋がっているかなんて、現時点では誰にもわからないんだから。……父親以外には。
「何についてでしょうか」
耳の赤みがわずかに残ったままで、クランが俺の方へと向き直る。
「隣国の中での、双子についての扱い」
俺がそう切り出した瞬間、なぜかクランの顔がわかりやすいほど強張る。
「……ん? どうかしたのか? そんな表情をするのは、珍しいな」
俺がそう切り出すと、険しい顔をしたままで呟く。
「今、音がしませんでしたか?」
「セバスチャンが起きたとかそういう?」
現時点で音がと言われて、反射的にそう返すと「違います」と即答される。
「遠くから聴こえたような音のはずなのに、やけにハッキリと鳴ったことを認識出来てしまうような…鈴に近い音です」
クランがまるで本当にたった今、耳にしたかのような説明をしてきた。が、俺には何も聴こえていない。
「鈴? リンリン言ってたのか? その音は」
眉間にシワを寄せながらそう問えば、これもまた「違います」と即答だ。
「こんな感じでした。リィ……ン、と。やけに間延びしたような、どこか勿体つけるような。…違いますね、なんと言えばいいんでしょう。その音が気になって仕方がなくなるような…」
同じ音を聴いたわけじゃないから、どれが正解かわからない上に、ハッキリしなくても叱るに叱れない。
「とにかく、クランの中ではその音が印象に残るような感じだったんだな? その言い方だと。普段聴いたことがある鳴り方とは、すこし違うってことでいいか? ひとまず」
話が先に進まないこともあり、一旦そこで話をまとめてみる。
「わかりました。ひとまずは、それでいいです。…ジュークさまにも、あの音を聴かせることが出来れば問題はないんですけどね…。はぁ」
ため息を吐きたいのはコッチだ。話を進められない。
「コッチの話がすんでから、話をする時間が取れれば続きを話すことにしよう。…それでいいか?」
クランが納得出来ていないのを理解した上で、コッチの話を優先させるのだから、多少の妥協案やその後の約束を交わすくらいの対価がなきゃな。
「……わかりました。では、話の続きをしましょう。隣国での、双子についての扱い…ですね」
話が横にそれたから、てっきり忘れられたかと思いきや、ちゃんと記憶していたらしい。さすがといえば、さすがだな。
「そうだ。本当に、ついさっき。それまで一度もそれについて考えることも、頭によぎることもなかった。なのに、何がキッカケか知れぬが…脳内にポンと浮かんだんだ。隣国の中において、双子で産まれるとなにか恩恵があったような気がしてな」
「恩恵、ですか」
俺が恩恵と口にすると、クランが復唱をしてから口にこぶしを押しあてて考えこんだ。
「…………どうかしたか? なにか聞いたことがあるのか? それについて」
「よりによって、それか…と思ったんですよ。ジュークさま」
その物言いは、本で調べるまでもなく、何かを知っていると同義だろう。
妙な緊張感が走り、俺はゴク…と生唾を飲んだ。
「記憶が確かならば…なのですが、その言い伝えについては何度回帰を繰り返しても、変わることがなかったはずです。多少の誤差などが生じてもおかしくないのが、繰り返し回帰した場合なのですが、この事案に関しては内容の差がなかったはずです。…たしかそれについては」
そう話し出したかと思えば本棚の方へと歩を進めて、そこにあったのを知っていたかのようにすぐさま一冊の赤い背表紙の本を手に取った。
「この本に、その手の話がいくつか載っています。隣国以外にも、主要近隣国5か国分が」
結構分厚いその本を手に取ると、見た目そのままに片手で持つには重いほどで。
「あちらで開いた方が。…それと、メモを取った方がいいかもしれませんね。今、持ってきますので」
とか言いながら、俺にはソファーの方へ行くように示して、彼はメモを取れるようにと机の方へ向かっていった。
彼の背を見送りつつ、俺はソファーの方へと向かう。
腰を下ろしたすこし古めのソファーが、かすかに軋む音をたてた。
目の前のテーブルに本を置き、表紙の後に2ページほどめくると目次が現れた。
二番目に書かれていた国名が、『キューカムバー公国』だ。
ペラペラと急いでページをめくっている間に、向かいの席にクランが腰かけていた。
「そちらの……3ページほど先だったかと思います。…えーっと……ああ、このあたりです」
本を逆さに見ているはずなのに、何度も読んだことがあるのか、スムーズにその場所を指し示すクラン。
彼がどうしてそこまでその話について知っているのか、そこが妙に引っかかる。
「クランは、隣国の関係者だったか? すぐにその情報が出てくるほどに」
クランが指さす箇所を、じっくり読み進めながら問いかけた。
「関係者だったのは、何度目かの回帰の時ですね。一時期、交換留学生という形で二年ほど滞在していたことがあります。その時の回帰では、この国に戻ってきてからジュークさまと出会っていますね。多分、これまでの中で一番遅い出会いの時期かと」
「そうだった…か? ……え? ここ…、この文…って」
彼と話をしながらも読み進めていく中で見つけた一文に、思わずソファーに腰かけたまま上半身だけグッと前のめりになる。
「双子の弟もしくは妹は忌み子とされ…廃棄もしくは追放。または、魔力などがあれば、搾取の後に廃棄もしくは追放。……こんなこと、今まで一度も聞いたことがない」
この一文を目にして、まさかなと考えてしまう。
「俺が暗殺を繰り返されるのが、実は双子の片割れだったとか? もしくは、セバスチャンが関係者か双子の片割れだったなら…」
なんてことを。
俺という人間は、自国を追われるようにとはなっているが、そう遠くないこの国キャロッツにいる。
回帰者に対しての扱い云々も考えはしたが、目に関しては魔法によってオッドアイだとわからないようにしている。他に目立った部分がないと思ってきたから、あまり変えていない。単純に俺という人間だと認識して、暗殺者を仕向けている。
俺を殺そうと躍起になっている一番が、隣国の魔法使いの騎士団だかのお偉いさんだったはず。一番能力に長けている人間が、王妃側だって話だったよな。俺は側妃の息子なんだから。
ここの父親は毎回毎回、どこから暗殺の情報を見つけてくるのか…返り討ちに出来るだけの準備を進めている。それこそ、毎回毎回。
父親は本当の父親じゃないはずなのに、俺のことを本当の息子同様に大事に育ててくれ、護ってくれている。
どう考えても、自分の家族を巻きこみそうな子どもを。
「…なんでなんだろうな、うちの父親が…俺をここまでして護ってくれてんの。それに関係があったのか? セバスチャンが何度も繰り返し命を落とすたびに…」
と言いかけて、ふと思い出す。
「最初だけじゃない…! 俺が近くにいる時にアイツが亡くなってきた時には、最期の最後には父親に…報告みたいなこと…口にしてたような」
「たとえば?」
いつだ。
どこからその記憶が消えてた?
憶えていたはずなのに、繰り返しすぎた回帰のせいか、別の影響でか。あったはずの記憶が薄れていたことに気づけた。
「最初…。毒を使った暗殺があった時、アイツ…ワザと身代わりになって毒を受けてから…えーっと…毒が解毒剤の媒介になるとかなんとか…で…………俺が生きるために必要って…アイツは」
ちょっと待て。
そこに答えがあったのか? とっくの昔に。繰り返された回帰のキッカケに?
「焦らずに思い出してみてください。それ以外の時にも、似たような会話が交わされていたということですよね?」
「…多分」
モヤがかかったような感覚に、内心焦れる。
「今回の回帰の方で、その毒についての情報は更新されているんでしょうかね。また誰かの血液を媒体にしなければという状況なんでしょうか」
そういえば、回帰した時に前回の情報が残っているのかいないのかを毎回確認しているはずなのに。
「なんで…その毒についてのこと、まるっと忘れてたんだ? 俺」
違和感が拭えない。
「ジュークさまの中でも、回帰前の記憶を完璧にすべて憶えているわけじゃないというだけじゃないでしょうかね」
「…いや。今まではそんなことなんて…なかった…ような」
と言いかけて、本当に? と自分に聞き返したくなった。
これまでの回帰後には、こんな感じの違和感なんてどこにもなかった気がするのに。
(どうして今回だけ?)
元々はセバスだった名前を、戸籍上はそのままだとしてもまわりが違う呼び方を繰り返すことで、擦りこむようにして別の名前へと認識させられた。
カリナという名前に縛られることなく、あわよくば運命を変えられるかもしれない下準備が整いつつあると思っていた。
どうあってもアイツの人生に絡んでしまう俺の父親が何かを画策しようとしていたとしたって、今まで試していなかった名前の認識を変えるということをしたことで、今度こそ関わらずに進めるのかもと期待していた。
俺の父親だという都合上と、俺が救いたいのがセバスチャンだという理由が交われば、どうあってもニアミスなりなんなり多少は関わらずには済まないだろうとは思っていた。
完全には、関わらないなんて無理だ……と。
けれど現実を見てみろ、俺。
父親はセバスチャンをあの家から追い出した。
セバスチャンが俺の側にいることを知っていたはずなのに、その間は追い出そうとしなかったのに。
(…………なんで、このタイミングで?)
なにか状況が変わった?
「今回はこれまでの暗殺に、例の件の毒は未使用ですか」
「――あ」
もしかして、その毒が今回のこの状況に関係が?
「いや…待て。あの時同様にセバスチャンの血が解毒の媒体になりうるなら、あそこから排除する方がおかしいだろ? セバスチャンの血を採取したような話は聞いてないしな」
あの毒に対しては、毒を受けた血液が必要だったろ? もしもあの時と状況が同じなら、暗殺者待ちってなるはずで。
「セバスチャンが俺の代わりに暗殺される必要があるとするならば、あの場所にいた方が確率は高い。…よな? でも、あそこから追い出した。ってことは、やっぱ他の代理でもよくなって、それが手に入った? それか…解毒剤はとっくに完成している? それとも…暗殺自体を潰せる算段でも?」
毎回じゃないけれど、暗殺者が来る前に制圧したことだってあったんだ。ならば、今回はそれなのか?
「ってか……なんで毎度の話だけど、暗殺されようとしてる俺に何の情報も入れてくれないんだろうな。足を引っ張って、暗殺者を捕縛出来なくなるとか思われてるのか?」
何度回帰したって、自分の立場や状況についての説明はあれども、命を狙われる恐怖だけあり続けて、渦中の人間なのに護られるだけの人生を繰り返している。
「そもそもだ。実の父親でもないのに、ここまで頑なに護り続ける理由というか意味は…なんなんだろうな。義理とはいえ息子だからとかいう、いかにもな言葉だけ伝えられたって…」
そうなんだよな。妙な執着めいたものを感じた時もあった。それに、俺を見ているようで見ていないような気も。
「なんだろ。考えれば考えるほどに、解決とは真逆の方へと沈み込んでいく感覚が拭えない。…気味悪ぃ」
「ジュークさま…先ほどの話に戻りますが、隣国の…ジュークさまの故郷へと調査範囲を拡げる件。領主さまと、あなた様のご両親の関係も含めての調査も同様にしてしまっても構いませんか」
クランも何か引っかかるものがあったのか、調査範囲と対象についての確認をしてきた。
「…お前に任せる」
俺が見逃がしている何かに気づけたのか、今聞いていいのか…正直悩む。
話をしはじめた最初のあたりで、セバスチャンの生まれについて気にしてたな。それもクランが気にしている部分なのか?
「あ…の、よ」
と言いかけ、「調査にどれくらいかかる? 調査は代理をたてるのか? それともクラン自身が?」なんて、本当に聞きたかったことを横に置いてしまった。
それについての返事を順を追って説明のように話すと、クランは長く息を吐いてからこう告げた。
「調査に行く前に、二人が話をする時間を作ってください。親友同士が同じことで見当違いな悩みを抱えて、見当違いな方向性で解決しようとしている気がするので」
暗に自分がこの地をしばし離れてしまう前に、三人の状態で話すべきだと。
「毎回、そのつもりではいるんだけどな」
「どうしてか、話が流れがちですね」
「これも巡りあわせなのか?」
「……どうなんでしょうかね」
回帰を繰り返すたびに、どこかに変更点がここだよとか分岐点が変わっただとか出ればいいのにと、心底思う。
(そんな便利なものがあるわけがないのに、何に対して淡い期待をしてんだろうな。俺は)
ジュークが短くため息を吐いた瞬間、視線を感じてその先へと顔をあげる。
「セバス」
チャン…と続けようとしたその時、自分へと視線を向けたままの彼が呟いた。
「親友だと思ってたけど、嘘ばっかじゃないのか? お前」
と。
「――――え」
他の言葉で返せると思っていたのに、思っていたよりも親友のその言葉は重く鋭く胸に突き刺さり。
「なぁんかおっかしいなぁって、きっとどっかで思ってたんだろうな。俺。引っかかってて、気持ちが悪いってか…違和感っての? 俺がある場所に気づいちまった。…気づかなきゃよかったのかもしれんけど」
「え…あ、何…言って?」
たどたどしい。あからさまなほどに動揺してる。今までセバスにだけじゃなく、いろんな相手にだって嘘と真実とをいい感じに混ぜて吐き出して生きてこれたのに。
「俺、嘘なん…」
嘘なんかついてねぇよ、って。そう言おうとしてたのに。
「……っっ!」
喉の奥がギュッと締めつけられたみたいに息苦しくなって、同時に心臓が切なく軋んだ。
自分を責めている目の前の彼を守りたくて、生かしたくて。そのために頑張ってきたのに、と振り返るだけで苦しい。
シャツの上から、胸のあたりをギュッと握りこむ。
自然と呼吸が浅く、速くなってしまう。俯かない方がいいはずなのに、勝手に床を見下ろすような格好になった時。
「あ…」
俯いたその頭上で、彼の声が聞こえた。そして、責めてきたはずの彼の方が先に詫びの言葉を呟いた。
「悪ぃ。…まだ夢ん中かと思って、思ってたよりも責めちまった。お前と話をしなきゃって思ってたはずなのに」
近づく気配の後に、肩に彼の手の感触と温度があって。
「ごめんな、お前の留守中にいなくなって。やっぱオジサンに嫌われてるみたいでよ、俺」
この場所に来たキッカケのひとつについても、重ねて詫びてきて。
その言葉に顔を上げると、目の前にいたのは出会って程なくして父親に同じように出て行けと言われた時に似た、どこか幼さのある幼なじみの顔で。
「どーしても嫌いなんだなー、俺のこと」
すこし寂しさの滲んだ、懐かしい表情だった。




