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はやく…はやく…




(ある年齢を、越えさえすれば)


俺とセバスチャンが回帰を回避出来たとする、目安の年齢。…と思いたい。時期がズレてなきゃだけど。


カリナとしてのアイツと出会った時には、10にも満たない若さで、その命を落としてた。


無事にというか回帰がかなった後からは、一気にそうなる年齢が上がってて。


正直なところ回帰前に亡くなった年齢に差し掛かった時には、次の歳を迎えるまで気が気じゃなかった。


そこを越えてくれたと思った時、もう同じことは繰り返さずにすみそうだなとホッとしたのに。


ほんと、時期がズレてないことを祈るのみだ。


「結局のとこ、年齢さておき起きることは起きるってだけだったもんな」


「そうでしたね」


ぬるくなった紅茶に口をつけるクランを横目に、「バカだな」と笑う俺。


「あんな態度をとっておきながら、お前が好むはちみつの瓶をちゃんと置いてってくれたのにさ。そんなにぬるくなっちゃ、はちみつ溶けないじゃん。さっさと飲めば、アイツの気づかい無駄にしないですんだのに」


そう話せば、「はは…」と力無く笑ってから。


「…やっぱりそうですよね、気のせいかなと思ったんですけど」


と肩を落とす。


「ああいう性格だけど、変なとこ気が回るってーかイイ奴ってーか」


「表現できてないじゃないですか、ジュークさま」


「うるさいよ」


「…すみません」


彼はそう言いながら、過去の義理の息子が淹れてくれた紅茶が入ったティーカップに、そっと口をつけた。


「自分であたためなおせばいいのに」


俺がそう切り出すと、苦笑いを浮かべて「いやあ…」とティーカップをソーサーに置く。


「出来ないわけじゃないんですけどね? 出来ないわけじゃないんですけど…あんな風に魔力を操作しているのを見た後に、やれると思います? 親子だった時には、魔力なかったようなもんなんですよ? 魔法が見たいっていうから、見せていただけで。一度も使えたこともなかったんです。……どうして今世は使えるようになったんでしょう。たしかに今世においては、魔力操作を師弟という形で指導していますけど、教えた操作方法とは明らかに違うんですよ。…なにをどうイメージしたら、あんな風に操作できたんでしょう。…あの事がなきゃ、直接聞き出したかったんですけどね」


クランほどの魔術師ですら、どん引きしてるってことで合ってるのか?


「えげつないもの作ってるなーとは思ったよ、威力とか考えたら心臓止まるかと思ったし。俺も多少はわかるからさ、魔法。……あれは、性格悪い奴に利用されたらとか思うだけで、脈がめちゃくちゃ激しくなった。…最初に魔法が使えるようになった時だって、なんでそっちの方向に考えた? って使い方されたからな」


あの日のことは、多分ずっと脳裏に焼きついてるだろうな。思い出しながら、ボヤキのように呟く俺。


「絨毯が水浸しになって、ただ乾燥しようとしても濡れすぎてるからって、余計な水を外に移動したんでしたよね。…しかも、本人はそれを高位の魔法である転移魔法とは思わず使ってたとかいうね」


俺からしたらそんな理由で、その魔法使うもん? って。理解できなかった。


まあ、本人からすれば高位の魔法とか思ってないから、気軽に使えちゃう魔法って扱いなんだろうけどさ。魔法に対しての知識とか優先順位とか諸々がさ、俺とは明らかに違った。クランの中でのそれとも違ってるみたいだったよな。


「正直なところ、見た瞬間…ギョッとした記憶がある」


「本人的には、何の気なしにそうした方がよさそうって程度だったかもしれないですよね。ものすごく軽そうな。例えるなら、そうですねー。うー…ん。親子だった時に私が眠っている間に、髪が邪魔そうだったから縛っといたよ…ってレベルですね。その方がよさそうというだけの、個人的感想に基づく行動…みたいな?」


そんなことされたことがあったのか、親子だった時に。


「え? なに、そのたとえ。まあ、でも言わんとしていることはわからなくもないな。アイツの感覚で、そうした方がよさそうだと思ったからやっただけという軽さなのは正解かもな。でも、どうだっけな。アイツ…どう言ってたっけなー、何気に昔のことで忘れたわ」


「そこまで昔って昔じゃないじゃないですか、ジュークさま」


「まあまあ、そう言うなって」


「ははは」


「はははっ」


笑ってる場合じゃないのに、思わず笑ってしまう。


いろんなことをしでかしてくれちゃった、アイツ。


二人で笑いながら、アイツが消えてったドアの方を自然と見てた。


「さーて、どのタイミングで話をしようかな」


「悩みますね」


二人でドアを眺めながら、小さくため息を吐く。


「ぱっと見、回帰はしているけど記憶は戻りきっていないって感じでいいんだよな」


「…と、思います。ジュークさまと繋がっている回帰者であることは間違いがないようですけれど、どこか違うようでもあって」


「ん? どこか違うって? どういう意味でだ」


「どこかというか、私たちとはちょっと違うというか。時間軸は同じはずなんですけど、何か違うものが混じっているようにも感じられるんですよ」


「違うもの?」


違うものというワードで、種族の違いか? と一瞬考えてしまった。


「魔族とかそっち方面でか? 人間に見えるけど、実は…とか? だから、あんなにも酷いケガだったのに無事だったとかか?」


単純な話かと思って、思いついたままに口にすれば。


「そういうのとも違うかと」


と言いつつ、彼は首をかしげた。


「なんなんでしょうかね。違和感というか、どう表現するのが正解かわからないんですよ。先ほどの変わった魔力操作もそうですし、この世界だけで完結した考え方ではないようにも思え。空気といえばいいのか肌で感じたといいますか、何かが違うと本能のようなものが訴えてくると言いますか」


元親子としてか、それともこの世界での魔術師の最高峰にいるから感じるものなのか。それとは違うなにかなのか。俺にはいまいち共感できていないことだな。…すべてを共感することは難しいよな、やっぱり。


「この世界じゃない、と? じゃあ、どこだよ」


魔族とかそっちの話じゃなかったのか。ひとまずは、ホッとしたな。魔族とかそっち方面の話なら、別なところにも話を持っていかなきゃならなくなってしまう可能性があったからな。


(そうなったら、さすがに父親にバレずに事を進めるのは難しかっただろうな)


「もしかしたらですけど、この世界以外のどこかに回帰したことがあるのでは? と」


「別世界?」


「異世界とも言えますかねー。この世界とは異なる、という考え方でいけば…ですが」


「異世界、か。…でもよ、今のところ目に見える変化は片目だけ色が変わるってだけだろ? 異世界からやって来ましたっていう特徴なんか…考えたことなかったな。見た目に出ないのか、行動に出るか。俺たちが把握してないだけで、異世界からの回帰者もいるのかもしれないな。……調査の仕方から、考え直しか?」


「…それはどうでしょうね。これまでの回帰者の特徴と、どう違うのか誰とどう比べたら? という新しい悩みが出来てしまいますね」


「…だな。問題点と疑問点が尽きないな」


「私たちと比べるだけだと、きっとまた情報が偏りすぎて視野が狭くなりそうですね」


「そう思って、広範囲で回帰者がいないかを調べはじめたんだもんな。俺たち」


「…でしたね。とはいえ、その考えに行きつくまでが長かったですね」


「まあ、うん。焦ってたんだよな? 俺もお前もさ。早く、どうにかしたくて」


俺がそう呟くと、「…はは」とクランが笑ってるようで笑ってない声を出す。


「ん? どうした?」


様子が違うようで、思わず問いかけると後頭部をかきながらうつむく。


「あの時も……焦ってたな、と」


どの時だよと、無言で首をひねる俺。


「報告書をあの子に見られたことを、送られてきた手紙で本人から知らされた時ですね。すぐに話をと思っても、やるべきことが多すぎてすぐに来られず。普段自分が使っている転移魔法を使うにも、その日に限って魔力を相当使っていたこともあり。半分あの子に補助をと封蝋に仕掛けをして。あの子が魔力を通したらわかるはずが、頼んでおいた部下が送り忘れていたり。それでなくても遅くなったというのに…と焦れていたところに、やっと魔力の反応があり転移が出来て」


「…時間的にって意味で、か? 焦ったってのは」


「いえいえ、違いますよ。転移して、あの子の顔を見た瞬間…まだ何をどこまで知ったなど確認もしていなかったのに。報告書をあの子が読んだことで、これまでしてきたことに望んでいない変化が起きてしまうのでは? と思ってしまったこと。それと同時に、あの子自身に変化が起きてしまっていたら? と焦りました。そもそもで、ジュークさまのみが触れてよいとされる場所へ送ったはずの報告書です。どうして勝手に開けてしまったんだ! と叱らなければという、養父だった時の気持ちがよみがえってきたりもしましてね。どう叱ればいい? と自問自答する間もなく、ひどく冷たい目で見てしまったと思うんですよ。……冷静じゃなかったんです。らしくないですよね…」


あの時のことを思い出しながらか、延々と独り語りをしているクラン。


「無意識で魔力をのせて威圧してしまっていたことに気づいた時は、もう…」


まあ、冷静になれないくらいに動揺したってことだよな。このクランが。


回帰前の親子関係をすべて知ってるわけじゃないけど、クランなりに大事にしてたのがハッキリしたな。さっきの話も思い出せば、髪を結われるほどの近さだったようだし。まあ、アイツのおせっかいな性格がそういう行動に出た可能性も十分だけどな。


とりあえず、クランが冷静じゃなくなるとどうなるか理解できた。この機会に、覚えとこう。


「話せるわけないもんな。『クランはお前の義理とはいえ、父親だったんだぞ』って『親心の裏返しもあったと思うぞ』とかさ」


俺がそう呟くと、彼は苦笑いを浮かべて少しためらってから。


「………………言えませんよ、そんなこと」


と返してきた。


その表情を見て、これ以上はつっこまない方がよさそうだなと感じて。


「じゃ、どこまで話すか。話し合うか」


本題に入る。


「回帰の直接的な話は、まだ、しない。それはいいか?」


「はい」


「回帰前の記憶については、探りは?」


と聞くと、うーんと小さく唸ってから。


「探れますか? あの子、相手に」


クランが、どういう意味で言ってるのか。なんとなーくだけど、わかった。


「一応、な」


探るような会話をしたとしても、一筋縄ではいかなさそう。誘導に引っかかりそうで、逆に引っ張られる時もあるもんな。


「あの子相手なら、一応という言い方で合ってますね」


クランが苦笑を浮かべた。


「この件に関しては、申し訳ありませんがジュークさまにおまかせいたします」


「まあ、今のお前とアイツの関係性じゃ無理そうだもんな。まともに話をするの」


「ケンカにはならないと思いますが、上手いこと躱されそうで」


そういいながら、目尻を下げたクランを見て、しょうがないなと口角を上げた俺。


「俺が相手でも、躱してきそうだけどな。…まあ、お前が話をするよりも俺の方が口が滑るかどうかのb可能性の話かね」


「…まあ、そうでしょうかね」


互いに視線を合わせて、またアイツが消えた部屋へのドアを眺め。


「焦りたくねえけど、はやく…どうにかしたいな。いい加減」


「そうですね。回帰せずに、今生で終わりたいもんですね。はやく…そうできる目処を」


「…ああ、そうだな」


互いに何度も交わした話を繰り返して、一口分残っている紅茶が入ったティーカップを掲げて。


「まともな会話が出来ますように」


「…ふっ。セバスチャンが時々変な察しがよすぎるやつで、余計な口を出しませんように」


「…はは」


「はは」


それぞれに知っているアイツの姿を思い出して笑みを浮かべ、紅茶を飲み干した。



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