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リサ・ガスター・ヴェル・エルダーランド その6

 それから数日後。

 軍団長は言葉の通り、乳房収納魔法の早期の実用化のために王国軍による開発の支援を求める上申書を提出した。

 先日の練習試合を見学していた者たちによって乳房収納魔法の劇的な効果は王国軍首脳部にも伝わっており、またフェリシアが自分の母である国王に働きかけたこともあって、異例といえる速さで軍による支援が決定された。

 これまで乳房収納魔法の研究は基本的にリサとアガサの二人で行われてきたが、王国軍による支援の結果、塔に所属する多数の研究者がこの研究に関与することとなった。

 リサもアガサも優秀な研究者だが、それでも魔法及び魔導具に関するあらゆることに精通している訳ではない。

 それに対して塔所属の研究者たちはそれぞれが多種多様な事柄に詳しく、そんな彼らが関与したことによって、実用化への課題であった魔法の継続時間と魔導具の価格は、研究が二人だけで行われていた頃とは比較にならない速さで改善されていった。

 そして二人が共同研究を始めてから四年が経過した頃、王国軍は乳房収納魔法の導入を正式に決定した。

 それからさらに半年後に乳房収納魔法は実際に導入されたが、その直後から魔獣討伐において劇的な効果を示し、乳房収納魔法は王国内のみならず国外にまで広く知れ渡った。

 中でも剣士として復活したフェリシアが、ダンジョンでの魔物討伐において巨大な地竜を、彼女の双丘に宿る膨大な魔力と両手剣と神業のごとき剣技によって一太刀で斬り倒したことは、乳房収納魔法の効果の凄まじさを示すと共に、フェリシアを王国一の剣士の座へと押し上げた。


 そうして更に月日は流れ、二人が共同研究を始めてから五年が経過した頃。


「今まで長らくお世話になりました」

「お世話になったのはこちらの方よ。

 でも、明日からこの部屋にアガサがいないと思うと、何だか少し寂しいわね」


 ある日の午後、塔のリサの居室で二人はそんな会話を交わしていた。

 乳房収納魔法の研究は引き続き行われていたが、丸五年の経過を機に二人は共同研究体制の解消を決め、アガサはリサの研究室にあった自分の荷物を引き払うことにしたのだ。


「しかしながら、結局五年間もアガサを乳房収納魔法に専念させることになってしまったのね。

 何だか申し訳ないわ」

「いえいえ。

 共同研究を始めるときにも言いましたけど、収納魔法の研究に携わっている身として、乳房収納魔法の研究に関われたことはとても誇らしいことです。

 私にとっては充実して楽しい五年間でした。

 それに術者以外が亜空間にアクセスできることもわかりましたし」


 共同研究を始めた際、二人がまず最初に行ったことは


"そもそも連続した物体の一部だけを亜空間に収納することは可能なのか?”


 ということの検証であった。

 もしこれが不可能であったなら、その時点で乳房収納魔法の構想は破綻してしまう。

 幸いにして比較的短い試行錯誤でこれが可能であることはわかり、そのためいきなりの構想破綻は免れたのだが、その後研究を進めていくうちに二人はこう考えるにいたったのだ。


"連続した物体の一部だけを亜空間に収納できるのなら、亜空間と現実の空間は何らかの意味で繋がっているのではないか?"


 そして、その後さらに検証を進めた二人は


"亜空間と現実空間は通常の意味では隔絶しているが、双方の間には何らかの魔法的な繋がりがある"


 との結論に至るのだが、そこからアガサは更にこう考えた。


"そもそも亜空間と現実空間の間に魔法的な繋がりがあるからこそ、術者が亜空間にアクセスできるのではないか。

 ならば、術者以外がアクセスできてもおかしくないはずだ"


 そうして確信を持つに至ったアガサは、乳房収納魔法の研究の合間を利用して具体的なアクセス方法を探し続けた。

 その努力はなかなか実を結ばなかったが、乳房収納魔法が王国軍に正式に導入されて二人が共同研究の終了を考え始めた頃、アガサは遂に術者以外による亜空間へのアクセスに成功した。

 もっとも現状では、アクセスに成功した直後に亜空間が不安定になり消滅してしまうため、実用には程遠い状況である。

 それでも可能であることを示しただけでも、研究としては大きな進歩といえるだろう。


「これで希望を持って、亜空間への術者以外のアクセスの研究を続けていけますよ」

「そうね。

 アガサには本当にお世話になったんだもの。

 今度は私がアガサの研究を手伝う番だわ。

 流石に亜空間への術者以外のアクセスの研究に専念というわけにはいかないけど、できる限りのことはさせてもらうつもりよ」

「その際はよろしくお願いします」


 そんな会話を交わす二人だった。


 ちなみに。

 アガサはその後、亜空間への術者以外のアクセスの研究を地道ながら着実に進めていき、長い年月を要したものの遂に実用化へとたどり着き、この世界における物流に革命ともいえる変化をもたらした。

 晩年自らの研究者人生を振り返ったアガサは、乳房収納魔法と亜空間へのアクセスの改良の二つを自身の最大の業績であるとした上で、前者の研究への参加の機会と後者の研究のきっかけとなるアイデアを与えてくれたリサに、深い感謝を示した。


 そして月日は過ぎ行き──。


お読みいただきありがとうございました。

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