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72 一手

翌日の放課後の図書室。


「撮ってきたよ」


「え?!もう?」


永瀬さんはさっそく自前のデジカメで写真を撮ったと言うのだが……果たして……


「お、すごいこれ……カメラ目線の真正面じゃん。どうやって撮ったの?」


写真1枚目は、カメラ目線なのかと思われるほど、黛の胸から上の写真がカメラに収められていた。


「へへー。秘密ー」


「秘密て……でも、うん、なかなかやるなぁ。ブレもないし完璧だよ」


「結局、4組の女子に頼んで撮ってもらったんだけどね」


「ちょッ!ユーリ、ネタバレいくないよ!」


「誰が撮ったとしても、方法は2人で考えたんだろ?じゃぁそれは立派な成果じゃないか。でも4組の人もよく撮ってくれたね」


「黛とは普段から一緒に写真撮ってるみたいだよ。もちろん、事情は話さないでって約束したし大丈夫だと思うよ」


「そうなんだ。左右の写真も……問題なさそうだね」


「うん!そっちは簡単だったから」


「ありがとう2人とも」


「私は何にもしてないわよ。4組の子に頭下げて頼んだのも美羽だし」


「そっか。ありがとね、永瀬さん」


「瑞穂ンや今被害にあっている子のためだもん」


そうだよな……

瑞穂の無念も晴らしたいけど、被害にあっている子がなるべく早く黛の魔の手から逃れられるようにしてあげたい。

この2人に対してのお礼はいずれしっかりとしよう。

 

しかしこれだけはっきりと撮れているならば、現像は必要なさそうだな。

俺は永瀬さんのデジカメの液晶画面を自分の携帯電話のカメラで撮影して、ユキノ先輩に写メとして送った。車の車種とナンバーは俺が昼休みに撮ったからそれも大丈夫だろう。



「ねぇ、佐伯」


永瀬さんは先に教室に戻ってしまい、残った峰岸さんが俺に声をかけてきた。


「何、峰岸さん……?」


「もう、こういうことあんまり美羽にさせないで」


「それは……そのつもりだよ」


「あの子、あんたが絡むと、きっとどんなことでも断らないと思う。だって……その……分かるでしょ?」


「……うん」

 

分かっている。

永瀬さんは今だに俺に対して好意を持っていてくれているということを。

ただ、最近永瀬さん元気なかったから何かしたいなと……浅はかかもしれないけど。


「ん。ならいい」


峰岸さんは、じゃ、と手を軽く振って図書室から出て行った。






 



『写真、確認したよ。ありがと』


「いえ、ここからはユキノ先輩頼りです。申し訳ないですけどよろしくお願いします」


『まーかせてー。私、こういう探偵みたいなこと大好き!』


本当に大丈夫だろうか……急に不安になってきた。


俺は写メをユキノ先輩に送り、その写真を見たユキノ先輩が黛を車で尾行することにした。

なんと、レンタカーを借りてくれたそうだ。万が一自分の車がバレてしまったことを考えてのことだそうだ。

一体いくらかかったのか聞いていないが、「金ならある」の一言で何も言えなくなってしまった。





そして

尾行を始めてちょうど4日目のことだった――







「おつー。お、ちゃんとキャップかぶって顔バレしないようにして来たねショウタロくん」


「お疲れ様ですユキノ先輩。まぁ、念のため」


ユキノ先輩から、黛がある女性を車に乗せてホテルに車で入って行ったところまで尾行したとのことで、出入り口が正面に見えるこの場所で待機していると連絡があった。

俺は万が一顔バレしないようにと目深に帽子をかぶって来たのだ。


「ちょうどホテルに入ってから2時間半ってとこね」


「うわ……マジですか。寒い中何時間もすみません、ありがとうございます」


「いいんだよ、こういうの、ちょっと楽しい。それにこれ見て……じゃーん!」


ユキノ先輩はおもむろに鞄から黒くゴツい物体を取り出した。


「おおッ…一眼レフ!買ったんですか?」


「前から欲しかったからちょうど良かったんだよね。まぁ、私たちの時代の物と比べたら画素数とか性能はかなり落ちるけど、これで十分」


そう話すユキノ先輩。

正直よく分からないけど本人が楽しそうにしているからそれでいいのかな。永瀬さんや峰岸さんにもそうだけど、周りのみんなに借りをたくさん作ってしまった。


「しかしびっくりだね。本当にホテルに入っていくとは。どこにも寄らずに直行だわ。本当に教師なのかって思うよ」


「そういう人種です。理解しようとしちゃダメです」


俺はそういう人間たちと嫌というほど関わってきたからな……




15分くらいだろうか……

俺はホテルの車が出入りする場所を双眼鏡で眺めていた。すると中から車のライトがチラチラと光って出てくるのが分かった。


「来たよ。アレかもしれない」


ユキノ先輩はなかなかのお値段であると思われる望遠レンズを構えて、パシャパシャと連写し始めた。


「ビンゴ!オラー!撮りまくっどー!!」


カシャカシャと小気味良いカメラの連写音が車内に響く。

俺は黛よりも助手席に座っている女子に集中することにした。

見えてきた女子の人相。

メガネ……

小柄……


「あれは……」


見たことのある子だ。

どこで見た……?


「ショウタロくんの知ってる女子だった?」


黛の車が見えなくなるまで連写し続けているユキノ先輩が聞く。


「同じ高校の子であることは間違いないとは思うのですが……」


絶対に見たことがある。

でも名前は分からない。瑞穂より若いということであれば、1年生なのだろうが。


「後で写真をください。永瀬さんや峰岸さんなら知ってるかも」


「ん、その方がいい。ふぅ〜い。撮った撮った。これは良い画が撮れたんじゃないかなー」


カメラを確認するユキノ先輩。

ニマニマが止まらない様子だ。


「ほら、バッチリ!コレすごない?!これは誰がどう言おうとホテルから生徒と出てくる黛だよ!」


「本当だ……引きで取れてるし、寄ったら本人たちだって分かりますね」


「よっしゃー!さぁ黛がどんな顔するか!楽しみだねえ」


「いや、まだです。言い逃れができないようにもっと工夫が必要ですよ」


いいぞ!この写真は必ず大きな一手になる!



お読みくださりありがとうございます!

良い点悪い点、何でもよいのですが感想をいただけると今度の作話の励みになります。

これからもどうぞよろしくお願いします^_^

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