0-プロローグ
アキス・ザルクは天才だった。あの時までは。
公爵家の次男として生まれ、五日後には二足歩行を習得。翌日には開脚後転を会得していた。そのフォームは完璧に近いものだった。
五歳になるまでに共通語の読み書き、基礎的な数学、歴史、地理、魔法学、薬学などの学問から、剣術、拳法、弓術、馬術、テーブルマナー、ベッドメイキング、お菓子作り、裁縫、煮込み料理なども習得。その神童っぷりは貴族の内でも評判になった。
六歳になると、史上最年少で王立学校に合格。他の年上の生徒たちを押しのけてトップの成績を収めた。
そうなると当然、ひがむ者が出てくるものだが、彼の場合はそうはならなかった。なぜなら、顔が良すぎたからである。
絹のように繊細で美しい黄金色の長い髪、宝石のように美しい碧色の瞳、鋭い切れ目、整った顔立ち、シミ一つ無い肌。アキスは女のみならず、男も魅了してしまうほどの美顔を持っていたのだ。
イケメンは正義、イケメンは全てを許される。六歳にして、アキスは学校内の恋を総なめにした。
王立学校にてアキスは学業に全力を注ぎ、座学だけでなく実技でも高く評価された。
剣術では学内どころか、兵士相手でも負けることはなかった。
馬術では馬を自分の体の一部のように扱い、しかもどんな暴れ馬でも手なずけてみせた。
弓術においても、的に百発百中。遠く離れた木から舞い落ちる木の葉を射抜くこともできた。
徒手空拳でも充分に強く、武装した相手でも素手でノックアウト。
王立学校は六年制であり、三年時からは二つの大きな道が用意されていた。
優れた剣術や強力な魔法を学んで己の力を高めるか、学問を研究するかだ。
兵を率いて戦場を馳せたり、魔物や敵国から民を守るのが役目の貴族は基本的に、前者の道を選ぶ。
公爵家の次男であるアキスもまた、その道に進むことを両親から期待されていた。両親は凡庸なアキスの兄ではなく、アキスに家を継がせようと考えていた。
しかしアキスは周囲の反対を押し切り、学問の道へと進んだ。
理由はいろいろあったようだが、一番大きかったのは、「興味があったから」だった。
アキスは真理学の分野に進んだ。
真理学とはその名の通り、この世の真理を探究し世界の成り立ちや構造を解き明かす学問である。
派閥によっては、神が創ったこの世界がいかに素晴らしいかを探究したりもするが、アキスはその方面には興味を示さなかった。
アキスは真理学の分野でも目覚ましい成果を上げ、学問の発展に大きく貢献した。
十二歳になり、王立学校を卒業したアキスは王立研究所で世界の真理を探究する道を選んだ。
彼の両親は家をアキスの兄に継がせることにし、アキスには自由な将来選択をさせることにした。
貴族の間でもアキスの評判はよく、家の株もかなり上がっていた。なのでアキスには、好きなことを好きなようにやらせていた方が家のためになると考えたのだ。
両親の思惑通り、王立研究所でもアキスは次々と成果を上げ、真理学を何十年分も前に進めた。
アキスが十六になった時、その躍進劇が王の耳に届いた。王は若くして華々しい成果を次々と上げる天才に会ってみたいと思った。
アキスは王宮に呼び出され、王に謁見。謁見の間にて彼が話した研究成果は専門的ながらわかりやすく噛み砕いて説明され、素人でも彼の優秀さを理解するに充分だった。
また、彼の美貌もその場にいた者たちを驚かせた。宮廷絵師でも描けないような美顔、男女問わず魅了する美しい声。
特に十四歳の第七王女ライネはアキスのことを気に入り、彼をお茶に誘った。それがきっかけで二人は親密な関係になり、婚約を結んだ。
王女であれば政略結婚のために利用されることもあるが、王はライネに特に甘く、アキスとの婚約を許した。もちろん、アキスの両親も王族との婚約を諸手を振って喜んだ。
結婚式はライネが十八歳になる二年後に予定された。
◆
アキスは十八歳になった時、とうとう世界の真理に到達した。
そして、狂った。
彼は美顔もさることながら、肉体も芸術品のように美しかった。
筋骨隆々だが、無骨な印象を一切受けない。筋肉の隆起と流線形が両立している。体中どこを取っても、黄金比が当てはまるだろう。まさに完成された肉体。まさに肉体的美の極致。
そんな肉体を一糸まとわず丸出しにした。
丸出しのまま手には槍を持ち、「評価お願い! ブックマークお願い! 感想も嬉しい! いや、ちょっと読んでくれるだけでも最高にうれしい!」と叫びながら街中を走り回った。
まとめ
人生順風満帆だったのに、急に発狂した