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80.特大ホームラン

 はじめ、セレスの行動には戸惑ったが、私にはすぐにその意図を理解できた。

 突如輝き出すセレスの体。真っ白な光が辺りを支配し――やがて現れたのは、真っ黒な竜――神竜セレスティアだった。


 巨大な流線型の身体。金色の美しい瞳が、赤竜を真っ直ぐに睨みつけた。

 赤竜はブレスの発射を一旦中断し、セレスのことを観察しはじめた。


 その一部始終を見た私は、まずセレスの大きさに驚いた。

 目の前にどんと鎮座する漆黒の体躯は、とても……大きかった。赤竜も間近で見るとすごく大きく見えたけど、セレスのほうが一回りか二回り大きいのだ。

 というか……セレスって、こんなにおっきかったんだね。改めて見て、そう実感する。


「セレス、がんばれ!」


 見惚れてしまいそうなほどの神秘的な姿に、思わず私は叫ぶ。

 その声が届いたかは分からないけれど、セレスはゆっくりと赤竜に歩みよった。


 セレスと面と向かい合った赤竜。一瞬、狼狽したようにも見えたが――やけに好戦的な赤竜は、そのまま翼を揺らして空へと舞い上がる。セレスもそれに呼応するかのように赤竜へ向けて飛び始めた。

 翼が往復するたびに地上には強風が起き、砂埃がぶわっと巻き上げられる。


 空中にフィールドを移した2体のドラゴンは、一定の距離をおき、面と向かって睨み合っていた。

 このままやはり持久戦が始まるのかと思ったが、先に仕掛けたのは赤竜の方だった。セレスに対して、口を大きく開いて威嚇する。


 ……いや、これは威嚇じゃない。攻撃だ。


 赤竜の口に魔力が集まっているのが、肌で感じ取れる。

 さっきとおんなじ、ブレスの予備動作だ。喰らえばひとまりもないけど……何故だかセレスは避けようとしなかった。

 馬鹿正直に真正面から向かい合うセレス。赤竜は大きな口を開け、その溜めた魔力を放出しようとしていた。


「逃げないと!」


 そんな私の叫びも虚しく、赤竜の口からは真っ赤な業火がぶわぁぁーっと吐き出された。案の定、セレスの体は飲み込まれ、上半身が炎に包まれてしまった。


「セレス――っ!!!」


 空が真っ赤に染まる。地上からでも熱を感じるほどの強い炎。赤竜のブレスは、それほどまでに強力だった。火だるまとなったセレスの体が、宙にただ浮かんでいる。

 私は唖然としながら空を見上げ、セレスの無事をただ祈った。


「だめだよ、セレス……!」


 私の消え入るような声は、騎士たちの足音と声によってかき消された。



「ねえルーナ、アレ!」

 

 やがて炎は消え、再び青い空が戻ってきた。

 そんなときに、アイラが驚いたように声を上げる。


 ――そこには、何事もなかったかのように滞空するセレスの姿があった。

 セレスは……無事だったのだ。真っ黒な鎧のようなウロコには傷一つないし、セレス自身も平気そうな顔をしていた。

 凄まじいセレスの防御力。……どうやら杞憂だったようだ。


 そういえば、私のブレス攻撃も一度弾かれたことがあったっけ。


 セレスは赤竜をまっすぐに見据え、ただ睨みつける。その風格と静けさに赤竜も一瞬困惑の様相を見せるが、気を取り直した赤竜は再びブレスの準備をする。

 一発目がダメなら、二発目だ。そう言わんばかりに、赤竜はセレスに向けて口を開いていた。


 口元に集中する魔力。これは……さっきよりも大きい。焼き尽くそうとする気だ。

 防がれてしまったから、より強力なブレスをお見舞いするということなのか。

 だが対するセレスはやはり動かなかった。空中に静止して、赤竜の様子を伺っている。


 また炎を体で受けるつもりなのだろうか。

 そう思った瞬間――突然、セレスは動いた。


「あっ!!!」


 目にも止まらぬ動きで、赤竜に急接近したセレス。その急加速たるや、一瞬その姿を見失うほどだった。

 そして赤竜の間合いに入り込んだセレス。突然敵が目の前に現れた形となった赤竜にとっては、おそらく想定外の出来事だっただろう。赤竜はビクリと体を震わせ、目を見開いて驚く。


 赤竜はパニックになって、咄嗟にブレスを発射する。

 発せられた真っ赤な炎の塊。しかし、素早く動くセレスにそれが命中することはなかった。




 ボコン!!


 そんな鈍い音が響くと、赤竜は意味のわからないくらい吹き飛ばされた。これは比喩でもなんでもなくて、本当に遠くに吹き飛ばされたのだ。

 セレスが何をしたのかというと、空中でぐるんと体を回転させて、尻尾を赤竜に叩きつけた。最小の動きから繰り出されたその回転エネルギーは、赤竜を無効化させるのに十分だった。


 これは……特大ホームランだよ。やばい。

 赤竜は綺麗な放物線を描きながら、穏やかな海へと真っ逆さまに墜落していった。真っ白な水しぶきが高く上がるが、いかんせん墜落地点が遠すぎて、その落下音は聞こえなかった。


 圧勝。まるで赤子の手をひねるかのような戦いだった。

 そんなセレスの活躍を、私たちはただ呆然と見つめるしか無かった。


「ねえ、ルーナ」

「……どうしたの?」


 その一部始終を見届けたアイラが、私に話しかける。

 すごく深刻そうな表情だったので、続く言葉に私も真剣に耳を傾ける。


「セレスって……神竜セレスティアだったの……!?」


 ……まって、アイラ。

 それって、知らなかったっけ!?

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