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75.盗み聞き

「オレの家遊びに来いよ!」


 明くる日、そんなルカの提案に私は「行きたい!」と目を輝かせて答えた。

 最近はルカ、エミル、私の3人で遊ぶことが多い。もちろん、他にも友達はたくさんできたのだけれど、やっぱりこのメンバーが一番気が合う、ような気がする。

 ちなみにいうと、やはりセレスは私たちを傍から見守っていることが多い。


「ルーナ、今日はすごくご機嫌だね」

「ふふ、そうかなー?」


 と、はぐらかして見せたけど、私の尻尾がもぞもぞと動いているのは、誰の目から見ても明らかだろう。

 私たちは目抜き通りを離れ、少し奥まったところの地区まで来ていた。


「ここだ」


 じゃじゃーん、という効果音が似合いそうなくらいに、ドヤ顔で紹介するルカ。

 そこは――なにかのお店屋さんだった。


「……実はオレの親父、王都でも有名な菓子職人なんだよ」

「ってことは、スイーツ屋なの?」

「そうだ、めちゃくちゃ美味しいんだぜ」


 胸を張って父を誇るルカに、私はほっこりとした視線を送るが……それよりも、ひとつだけ気になることがあった。


「お店閉まってない?」

「ああ……実はオレたち家族は、この街で店を開くつって、ちょうど半年前にここに越してきたばかりなんだ。でも、南方からの材料が全く入ってこないとかなんとかで、全然オープンできないんだよなー。親父もこだわってないで、その辺で売ってるヤツで代用したらいいのに」


 ふーむ。

 どうやら、まだオープンしていないようだ。どうりで静かなわけだ。


「まあ立ち話はこの辺にして、中に入ろうぜ」

「そうだね」


 ルカの言葉にエミルが同意する。私はというと、少し離れたところで私に付き添っているライルとルルちゃんに「行ってくる!」と伝えた。

 ……ルルちゃんから、手で作った大きな丸が返ってきた。かわいいよ、ルルちゃん!


 そんなこんなで、オープン前のスイーツ屋さんに入ることになった私たち。ちょっとドキドキというか……人のお家に行くのすら初めてだから、なんだか緊張しちゃうね。

 

「ここがお店の部分で、オレたちは2階に住んでる。んで、こっちがオレの部屋」

「ほへー」


 1階が店舗部分、2階が住居。1階にはショーケースやら棚がおいてあって、いかにもスイーツ屋さんって感じだけど、一方で商品はなんにもないので、少し寂しい感じがする。

 その店舗部分から横に逸れると、L字に曲がった階段が見えた。そこが住居スペースに続いているようだ。


 ルカに案内されて階段を上ろうとしたところ、がらんどうだった店内の方から突然男の人の声が掛かった。


「なんだ、騒がしくして」

「あっ、親父。友達が遊びに来てるんだ! エミルと、こっちがルーナ」


 ガタイが良くて、その髪色はルカとそっくり。この人こそルカのお父さんで、このお店の店主だという。

 ルカはそんなお父さんに対して、私たちを紹介する。エミルは面識があるようで、私もそれにならってペコリと頭を下げておいた。


「…………ルカ、ちょっと来なさい。2人は上に」


 ルカのお父さんは……なんというか、すごく無愛想な感じだった。私と目が合ったのにも関わらず、目を逸らそうとしたのが気になった。シャイ、なのかな……?


「あーごめんごめん、2人は上に行っててくれ。エミルならオレの部屋しってるだろ?」

「うん、大丈夫」


 そう言って、ルカはお父さんに連れられてお店の奥へと行ってしまった。

 ……まあ、いいか。家族だし何か話でもあるのだろう。私はエミルに案内してもらって、2階にあるルカの部屋へと向かうのだった。




「ルカ……遅い」

「そうだね……」


 10分ほど経ったが、ルカが戻ってこない。エミルと雑談をして待っていたが……それにしてはちょっと時間がかかり過ぎだ。


「私がちょっと様子を見てくるよ!」

「え、それはダメじゃない……?」

「へーき、へーき」


 私はぽんと胸を叩いて言った。

 エミルは少し心配そうな表情をしていたが、ちょっとだけ様子を見に行くだけ。別になにも変なことをしようってわけじゃない。

 私はすっと立ち上がると、ドアを開けて廊下の方に出た。


 そして、ゆっくり静かに階段を下りると……ルカとルカのお父さんの話し声が聞こえてきた。

 ……なんだか、口論してる?


「ルーナはオレの友達なんだって。ずっと言ってるだろ?」

「あの子と関わるのはやめなさい。ドラゴンと関わると碌なことがない。ヤツらは魔物と一緒なんだ」

「ルーナはいい子なんだって! オレたちとおんなじだよ!」

「違う、ヤツは人間に化けてるんだ。そうやって、俺達に紛れ込んで、何かを企んでいるに違いない!」

「な、なんてこというんだ親父――って、あ」


 そんな口論? に聞き耳を立てていたところ、ふとこちらを見たルカと目が合った。そのルカの呆けた声に、ルカのお父さんもこちらに振り向いた。

 ふたりともなんだかバツの悪そうな顔をしていたので、私はすっと隠れた。


 ……やべ、気まずい。


 こんなときは、戦略的撤退というのが賢い選択だよね!

 私は何も見なかったことにして、再びルカの部屋へと逃げるように帰るのだった。



「ルーナ、ごめん」

「大丈夫。べつに私怒ってないし」

「……ルーナ、お前本当に気にしてなさそうだな」


 数分後、部屋に戻ってきたルカ。

 彼は部屋に入るやいなや、私に対して頭を下げた。

 ――とはいっても、私は別に怒る気にはなれなかった。盗み聞きをしたのはこっちだし……差し引きでトントンってことにしてほしい。


「でもなんで、ルカのお父さんはドラゴンを嫌ってるの?」

「あー……それがな、さっき話した『店をオープンできない理由』ってのが、ドラゴンが理由だからなんだよ」


 私はこてりと頭を傾げた。


「南のエストラーダ地方ってとこで、今ドラゴンが暴れてるらしいんだ。それで材料が入ってこなくなった上に、親父の友達や懇意にしている商人が怪我をしたらしいとかなんとか」

「それは大変だね……」

「そうなんだ。……でも、ルーナは関係ないだろ? 少し前に、森でエミルを助けたのもお前だし。だから、悪いヤツじゃないってずっと説明しているんだけど……」

「ルーナ、あの時はありがとう」


 話題に出たエミルは、少し照れたようにお礼を言ってきた。私は「どういたしまして」と笑顔で返しておいた。


 ……さて、どうしたものか。

 確かにルカのお父さんの気持ちもよく分かる。ドラゴンのせいで、自分の商売を台無しにされ、見知った人を傷つけられたとなると、私に良くない印象を抱くのも納得だ。

 むしろ――ルカは大事な友達だし、そのお父さんの悩みも助けてあげたいんだけど……。


「うーん、ちょっと隊長さんに相談してみるね」

「おう、助かるよ」


 今の私には、これくらいしかできない。でも隊長さんなら……それなりに騎士団の中では偉いみたいだし、少しでもなにか出来るかもしれない。


「これでルーナが解決しちまったら、さすがの親父も謝らないといけないよな!」


 冗談めかしていうルカに、私は「まかせてよ!」と被せるように冗談で言い返すのだった。


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