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6.窓の外と机の上

 翌日の朝。

 あの後私達はおんなじベッドで眠り、一夜を明かした。

 いや、最初は専用の寝床をつくってくれてたんだけど、気づいたら布団の中に潜り込んでたみたいなんだよね。布団の中はとってもあったかくて、自分でも思っている以上にぐっすり眠ってしまった。


「じゃあ私行ってくるから。大人しくしててよ」

「はーい」


 私はお行儀よくベッドの上に座り返事をする。

 その間もアイラは慌ただしく準備をしている。これから“仕事”に行くと言っていた。昨日の森で出会ったときと同じ服装だ。鎧を身につけ、腰には剣を据える。


「たぶん、昼すぎには帰ってくるから」

「わかった!」


 そう元気よく返事をすると、私はアイラを見送った。

 ――バタン、扉が閉められた。


「昼過ぎだからね」


 かと思えば、ドアが再び開かれて、アイラがそう名残惜しそうに言った。

 わかってるって! 私だって一人でお留守番くらいできるし!



 あの後、私はお昼寝をして時間を潰そうとしていた。が、アイラの布団の中でぐっすりと眠ったので、さすがに昼まで時間をつぶすことはできなかった。たぶんだけど、一時間くらいしか寝れなかったと思う。

 その後は、ごろごろとベッドで転がってみたり、布団の中に飛び込んで遊んだりしてみたけど。

 

 ……暇だ。

 ……めちゃくちゃ暇だ。

 

 分かっていたことだけど、この部屋には暇つぶしできるものがない。片付いてるのはいいことなんだけどさ。

 ふとベッドの縁に足をかけて、窓の外を見てみると、人の姿が見える。とりあえず、これを見て時間を潰そう。


「すごい……戦ってる……」


 窓の外では、剣を構えた人々がお互いに向き合って、バチンバチンと打ち合っていた。窓越しでもその気迫が伝わってくるくらいには、みんな本気だ。

 アイラも男の人たちに混じって戦っているのが見えた。かっこいい。

 

 昨日アイラに聞いたことだが、アイラは“騎士”という職業で、この地域一帯の治安を維持する仕事をしているらしい。警察官みたいな感じなのかな。今のこの打ち合いも訓練だ。

 そして私のいるこの建物が騎士たちの寮だ。アイラも実家を離れて、この地で生活しているのだとか。


「……目が合った?」


 じろじろと騎士たちの様子を眺めていると、その傍らに立つ一人の男の人と目が合ったような気がした。

 私の存在がバレたのでは、とドキリとしたが、すぐにその人は目の前の騎士たちに向き直った。


「気のせいだよね、たぶん」


 その人は、打ち合いをする騎士たちと違って白い制服を身に着けており、他より抜きん出て偉い人のように見えた。

 教官かな? ……まあ私には関係のない話だ。


「……飽きた」


 15分くらい経ったところで、私は飽きた。

 騎士たちの訓練がつまらない訳ではないけど、音もなくて、遠くから眺めるのはあまり迫力がない。


「ほっ、よっと」


 私は早々に窓から離れて、ベッドから飛び降りた。


「あの本、取れないかな」


 次に私が目をつけたのは本棚だった。本が読めれば、時間が潰せるのではないかと考えたからだ。

 まず私は、本棚の隣にある書机の上に乗ろうとした。


 はっ、とぉっ!


 椅子を足がかりにして、二段ジャンプの要領で机の上に飛び乗る。上には書類があったので、汚さないように慎重に歩く。――ふふ、この程度の高さなら、全然余裕ってもんよ。

 私は本棚を横から見つめる。問題は、本棚の本をどうやって取り出すかだ。


 とりあえず……飛び乗ってみよう。

 本棚の天板にはスペースがあって、ここに上手く乗ることができれば、目的は達成できるだろう。落ちても足から着地すれば、怪我するような高さじゃないしね。

 

 ……よっ、と。

 私は机から本棚に向かってジャンプをしてみた。


「あっやば」


 ――バサバサ。

 うまく着地はできた。上手く飛び乗ることができた。しかし、私が飛び乗った衝撃で、本が雪崩のように落下していったのだ。

 

 うんうん、まだ焦るときじゃない。

 というか目的の本を取り出すのには成功したし、結果オーライなのかも。

 ……いや、流石に出しすぎだ。下を見ると、十冊は山になっている。うーん、どうしたものか。

 まぁとりあえず、地面に降りよう。話はそれからだ。


 うー……よっと。

 私は机に飛び戻ろうとした。

 

「あっ」


 ――ガタン、バリン!!

 激しい音をたてて、陶器の割れる音が響いた。


 机の下を眺めると、“花瓶だったもの”が山積みの本へと降り注いでいるのが見えた。花瓶の中に入っていた水はというと、机の上を池にしたあと、滝のようになって本の山へと降り注いでいた。

 つまり、机の上の書類も、地面においた本の山も、どちらも水没させてしまった。


「……どうしよ」


 私は机の上と下の惨状を眺めながら、真っ白になってただ動けずにいた。



「ルーナただいま……って、どうしたのこれ!?」


 アイラの驚くような声が響き渡る。嗚呼……耳が痛い。


「ごめんなさい……」


 私はというと、ベッドの隅っこでうずくまりながら、惨状から目を背けていた。この体では片付けることもできないし、申し訳無さからこうするしかなかったのだ。

 しっぽはしゅんと垂れ下がり、目からは涙が零れ落ちそうだった。何回泣くんだ、ここに来てから。


 アイラは私の方にゆっくりと近づくと、優しく宥めるように言った。


「はぁ……。怪我がなくてよかった」

「………………怒ってないの?」


 私は思わず聞き返す。が、アイラは至極当然のように答えた。


「怒ってないわ」


 どうして、と思った。

 私は本の山に目を向けた。ビショビショになった本や書類たち、粉々になった花瓶。すべて私の所為で起こったことだ。なのに、どうして?


「その反応、わざとじゃないんでしょ? 片付ければ大丈夫だから」


 アイラはそう言ってくれた。その言葉にすくわれたような気がした。

 でもでも、アイラの物を壊してしまったことには変わりない。


「本、濡れちゃったし」

「乾かせば読める」

「書類もぐしょぐしょだし」

「また書けばいい」


 拾ってきてもらって、無理を言って寮に置いてもらっている立場なのに。申し訳なかった。

 謝っても本が棚に戻ったり、花瓶が元の形に戻ったりしないことなんて、とっくにわかりきっていた。でも、今の私にはこうするしかできないから、何度も謝った。


「……ごめんなさい」

「わかったわかった。お昼ごはんでも食べる?」


 そんな提案に、私のお腹から「ぐおおぉぉ……」と地響きのような音が鳴り響いた。私のお腹は、いつも正直だ。

 赤面する私に、アイラは笑いながらご飯を取りに、部屋の外へと出ていった。

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