表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/160

55.王家(3)

 それからしばらくして、私とセレスは部屋に戻った。

 外へ遊びに行く気分にもなれず、かといって、じっとしているのも何だか違う気がして、結局部屋の中でアイラと遊ぶことにした。

 砦で過ごしているときと何ら変わらないけど、これはこれで悪くない過ごし方だ。


 はじめはおしゃべりをしていたけど、今はアイラに本の読み聞かせをしてもらっている。

 ちなみに内容は、勇者が強大な敵に立ち向かうという超王道の英雄譚。王都に来る前からちょっとずつ読んでもらってたやつで、もうすぐクライマックスだ。

 最後の敵である魔王との直接対決の直前。一番アツくなるところだ!


「――長い長い戦いの末、勇者は死にました。おしまい」

「えっ」


 唐突な結末に、私は驚きの声をあげる。


 ……えっ、勇者死んじゃったよ!?

 そんな打ち切りみたいな終わり方なの?

 思いもよらぬバッドエンドで、私は文字通りひっくり返った。


「ルーナ、人の命は儚い」


 セレスがそんなことを言ってきたけど、そういう話じゃないと思うな……。

 一番この中で儚いのは、私のワクワクしていた心だと思う。返してほしい。


 そんなモヤモヤする終わり方に悶々としていると、ふと扉の外からバタバタと騒音が聞こえた。


「なによ……?」


 アイラが怪訝な顔をしながら、ドアの方へと向かう。

 ガチャリと扉を開け、外の様子を確認しようとすると、そのバタバタという音はより一層大きくなった。


「いけません殿下!」

「お待ち下さい!」


 それは騎士の声だった。

 誰かを引き止めるような声に、ただならない雰囲気を感じたが――やがて、その怒号を向けられていた当人が現れる。


「レ、オ……王子……!」


 それは他でもないレオ王子だった。やや乱れた服装から、ここに来るまでに一悶着あったことが窺える。

 私と王子との間に挟まったアイラは、驚愕した様子で「王子!?」と私と彼を交互に見ていた。


 そんなレオ王子は、その可愛らしい顔に見合わない、非常に切迫したような表情で私を見つめた。

 そして、名前を呼びながら私にゆっくりと近づこうとしていた。


「ルーナ様!」


 私は数時間前のトラウマを思い起こし、思わず後ずさる。

 騎士たちも止めようとしてくれているが、相手が王子なので、どうにも完全には制止できないでいるようだ。

 アイラも遠くにいて、助けもなければ隠れる場所もない私は、諦めからか思わず目を瞑った。

 お願い、こないでっ……!




 そして数秒後。目を開くとそこには、セレスが立ちふさがっていた。


「近づくな、人間」


 私を守るように両手を広げたセレスの後ろ姿に、私は深く安堵した。

 セレスの重たい声にレオ王子は、自分のした行動の浅慮さにようやく気がついたのか、ハッとしたような表情を浮かべて、ゆっくりと私から離れた。これによって王子との一定の距離が確保され、私の体から少しだけ緊張がほぐれた。


「すみ、ません……」


 視線を背け、つまるような謝罪をするレオ王子。

 何かを抱えたような重たい表情に、私は思わず息を呑んだ。


「――何をしている?」


 そんな時、レオ王子の背後から更に聞こえてきたのは、よく見知った隊長さんの声だった。

 隊長さんはレオ王子を見るやいなや、彼に対して鋭く尋ねた。言葉遣いは丁寧だったものの、そのトーンはとても厳しいもので、決して王族に対しての礼節を弁えているようには聞こえなかった。


 その様子に私は少し焦ったけど、レオ王子はそんなことは気にしない様子で、隊長さんの方へ向き直った。


「殿下、ここには立ち入らないという約束だった筈ですが?」

「も、申し訳、ございません……ですがっ」


 レオ王子は素直に謝罪を述べた後、さらに何かを言おうとしたが、


「ルーナが怖がっています。王宮の方にお戻りください」


 その途中でバッサリと言葉を重ねた。

 その剣幕に思わず口を噤んだレオ王子。彼は諦めたようにすごすごと部屋から立ち去ろうとしていた。何か言いたげだったのは、誰の目からも明らかだった。

 だから私はその後ろ姿を見て、思わず叫んだ。


「隊長さん、話だけでも!」


 レオ王子は、私になにかを伝えようとしている。

 もちろん、私はレオ王子のことがまだ怖いけれど、一方で悪い人じゃなさそうだとも思う。

 だからせめて、話を聞いてあげるだけでも。

 そのくらいなら、別に出来ると思うんだ……!


「……分かった」


 隊長さんは渋々といった様子で、レオ王子に道を開けた。

 彼は先程とあまり変わらない、緊張した面持ちで私に正対する。


「ルーナ様、僕は――」

「ちょっと待って!」


 レオ王子は相変わらず私と距離を詰めようとしたので、それを大声で制止する。

 またぴくりと体を震わせた王子。私は彼に対して、一つ質問を投げかける。


「昨日、私のこと誘拐しようとした?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=292859426&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ