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39.新たな出会い

 私は訝しげにその女の子を見つめた。

 彼女も、全くの無表情で私のことをじっと見つめ返していて……にらめっこかな?

 でも私はなんだか、喉元に何かが引っかかっているような感触を覚えた。

 あの子、どこかで見たことがあるような……。


 そんなことを考えていると、その女の子がこちらへと走ってきた。歳は……中学生くらい? 前世の私よりも何歳か下くらいだろう。


「……………………」

「ど、どうしたの?」


 その女の子は、私と隊長の前で立ち止まると、無言で私たちのことを凝視してきた。


「何故……助けたのに、私を攻撃した?」

「こ、こうげき?」


 女の子はようやく口を開いたかと思うと、悲しそうな声で私にそう言った。

 攻撃!? ……なっ、なんのことでしょうか?

 見に覚えのない嫌疑を掛けられた私は、逆に彼女に対して質問を投げかける。


「私たち、どこかで会ったっけ……?」


 私がそう聞き返すと、彼女は突然ずんと暗くなって落ち込んだ。表情は変わらないのに、すごく分かりやすい。


「覚えて、ない……?」

「えっとー……」


 これ、もしかして、気まずいやつ……?

 以前に出会ったことがあるような物言いに、私はうんうんと脳みそをフル回転させて、記憶の隅から隅まで遡る。

 騎士の中にはこんな子はいないし……というか、騎士団の人たちが知らないって言ってるんだから、誰かの関係者って線もないよね。

 それに街の人とは、私会ったことがないし。それか今日の領主邸にいた人のうちの誰か?


 ……いや、全然思い出せないよ!

 手詰まりとなった私は、その女の子の顔をよくよく見つめた。サラサラで艷やかな黒色の髪、私の瞳とおんなじ金色の瞳。うーん、やっぱりどこかで見たことがあるような……。


「……ごめん、わかんない」


 私は白旗を揚げた。この子には申し訳ないけど、この女の子と会った記憶が一つたりとも無いのだ。

 申し訳無さそうに私が言うと、その女の子は必死にアピールするように身振り手振りをして教えてくれた。


「私、あなたと同じ、ドラゴン。さっき会った」

「あの、襲ってきたおっきなドラゴン?」


 あの崖の近くで襲ってきたあのドラゴン。黒色のウロコに、金色の瞳。……確かに、その二点に限れば似ている……と言えなくもない。

 でもこの子は人間で、あのドラゴンはドラゴンなのだ。そんな不可思議なことあるはずがない。

 隊長さんも同じことを思ったらしく、不思議そうに私を見つめてきたが――私だって聞きたいよ!


「すまないルーナ。俺にも分かるように説明してくれるか?」

「わ、私もわかんない……」


 そう私がしどろもどろしていると、女の子は少しだけ語気を強めて話す。


「襲ってない。私、オオカミから助けた」


 そう言った女の子は、なんというか必死そうにアピールをしている様子だった。

 その言葉を聞いて、私はとても重要なことに気がついた。……なんでこの子は、私とエミルがオオカミに襲われていたことを知っているの?


「待って、ほんとにドラゴンなの?」

「そう」


 私がそう問いかけると、その女の子は一つ頷き、あるものを見せた。

 ……それはいつの間にか生えていた、頭の上の角とウロコの生えた尻尾。それは女の子の身体のサイズに合わせて縮小されてはいるものの、明らかに人間にはあり得ないパーツだった。

 どういう原理かわからないけど、少なくとも彼女が人間ではないことは明らかだった。


 この子が本当にあのドラゴンだとしたら…………って、いやいや、あれ助けてくれてたの!?

 私死ぬかと思ったよ!? あんな巨体が目の前に来たら、絶対に食べられるって思うじゃん!


「これは……報告事項が増えたな」


 困ったように頭を押さえる隊長さんに、「私もだよ!」とエールを心の中で送っておいた。

 この子があの巨大なドラゴンだなんて……私だってまだ信じられないよ!





 騎士たちが撤収作業を終えると――結局、隊長の判断によりこの女の子は砦で保護することとなった。彼女が何故だか私についてくることを希望したため、このようなことになった。別に敵意とかは無いし大丈夫なのかな……。断る理由も無いので、私は隊長さんに「大丈夫だよ」と伝えた。


 でも……この子、本当にドラゴンなんだよね……?

 彼女をどれだけ観察しても、普通の人間の女の子と変わりがないように見える。彼女になんの目的があるのかは分からないけど……でも私という言葉を喋れるドラゴンもいることだし(普通ドラゴンは喋れないらしい)、細かいことは考えないでおこう。


 馬車に乗り込んで帰路へつくなか、私はその女の子にいくつか質問を投げかけた。


「なまえは?」

「名前……」


 私がそう尋ねると、彼女は少しうーんと考えて答えた。


「名前はない。でも人間からは、セレスティアと呼ばれていた」

「そういうものなの?」

「そう。少し前の話」


 その”呼ばれていた”という遠回しな言い方が気になった。ドラゴンは名前がないのが普通なのか、それとも彼女になにか特殊な過去があるのか。ただどちらにせよ、深掘りするのは少し憚られるし、折角彼女がそう言ったのだから、『セレスティア』が暫定的にこの子の名前だということにしよう。

 ……でも”セレスティア”って少し長いよね。もっと短くて、呼びやすい名前……。


「セレスって呼んでもいい?」


 思いついた名前を私は彼女に提案する。

 すると、彼女は少しだけ微笑んでうんと頷いた。


「いい名前」

「良かった、……じゃあこれからセレスね!」


 よかった! 受け入れてもらえたみたいで、ほっとしたよ。

 セレスはその名前が余程気に入ったようで、私に対して「名前、呼んで」と要求をしてきた。

 それに応えて「セレス」と呼んであげると、彼女は「うん」と一言だけ呟いて満足そうにしていた。……なにこの時間?


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