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【かわいい】突然ドラゴンに生まれ変わったけど、騎士たちがみんなご飯をくれて幸せです!【天才】  作者: しゅう
第6章 新しい春

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145.船室(2)

 ごきゅごきゅと喉を鳴らしながら、差し出された水を勢いよく流し込む。


「どうだ?」

「……………………」


 確かに、喉がカラカラに渇いていたから、この水はすごく美味しかった。

 でも、そんなことを答える義理なんてない。私はただただ何も言わず、ルシアンのことをじっと睨みつけた。


「なんだよ、俺のことが嫌いか?」

「……………………」

「おい、こっち向けよ」


 ケラケラと笑うルシアンに、私はまたそっぽを向いた。

 なんで……私に構うんだ。私はルシアンのことなんて許すつもりはないし、仲良くするつもりもない。

 だが彼は私に向かって、一向に話しかけることをやめない。しつこく話しかけたり、指を鳴らしたり。でも私は相変わらず、なにも応えなかった。


 そんな毅然とした態度にウンザリしたのか、ルシアンは一度肩を竦めた。そして、上の方――おそらく甲板へと登っていった。

 ようやくどこかへ行ったかと安心したのも束の間、彼は平べったいなにかを手にして、再び現れた。


「ほら、食えよ。クソガキ」


 それはお皿だった。彼は、私の手前の床に、ごとりとお皿を置いた。

 皿に盛られていたのは、茶色と緑の中間くらいの色の豆の煮物だった。これが味付けなのだろうか、ほんのりとスパイシーな匂いを放っている。今まで見たことのない、異国風の料理だ。


「今さら優しくしても、絶対に許してあげない!」

「手厳しいな」


 こんな食事ごときで私を懐柔しようだなんて、そうはいかないんだから!

 だがすぐに、


 ……私のお腹からは、ぐぅ~と重低音が鳴り響いた。


「……お腹空いてんじゃねえか」

「う、うるさいっ!」

「まあいいが……何も入ってねえから、さっさと食え。飢え死にされると困る」


 再び私の前でしゃがみ込むルシアン。

 とはいえ私も……文句は言ってられないくらいには、お腹が空いているのも事実。くっ、悔しいけれど、ここは彼の施しを受けることにしよう。


「……(ほど)いて。食べられない」


 しかし、両手両足を縛られた私には、皿を握ることすらできない。これじゃ食べられない。私はルシアンに、縛っているロープを解くように要求した。


「放すわけねえだろ、馬鹿か。

 お前はドラゴンだろ。畜生らしく、手を使わずに食えよ」


 ルシアンは私を嘲りながら、皿を私の目の前に押し出した。板材の上をすっと滑るように移動したお皿は、私の足に軽く当たって停止した。


「犬のあんたが、それを言うの――」

「……もう一度その言葉を言ってみろ。後悔することになるぞ」


 急に立ち上がったルシアンは、私の髪をぎゅっと掴む。そして私の顔に自分の顔を近づけたかと思うと、キッと私を睨みつけた。その凄まじい気迫に、思わず私の喉からひゅっと音が鳴る。

 だけど私も、こんな脅しには屈さない……。若干顔が引き攣るのを我慢しながら、私は真っ直ぐとルシアンの目を見据え続けた。

 一瞬の緊張。だがそれは、普段より何倍にも長く感じる時間だった。船体が軋む音だけが聞こえ、ドクドクと心臓が高鳴るのが感じられる。

 そんな長い長い睨み合いに、先に決着をつけたのはルシアンの方だった、


「はぁ……四の五の言わずに食え。これは、俺達の食事と同じだ。口に合うかは知らんが、少なくとも変なものを食べさせようってわけじゃない」

「……これを解いてくれたら」

「駄目だ。早く食べろ」


 どかりと、また私の前に座り込んだルシアンは、手で手繰り寄せた皿を私の目の前に持ってくる。

 ……もういい、わかった。そこまで言うなら、食べてあげる。

 私は言われた通りに、前かがみになり皿に顔を近づける。想像していたよりも何倍も食べづらく、ぽろぽろと食べ物がこぼれてしまったが、私は気にせず豆を貪る。


「ハハハ、傑作だな! 味はどうだ、美味いか?」

「……………………」


 正面からはルシアンの笑い声。ドラゴンの時は普通のはずなのに、人間体の今はとても屈辱的に感じる。

 ――だけど、大丈夫。やってることは変わらない。

 そうやって頭で言い聞かせながら、私は豆をずるずると音を立てて食べ続けた。


 ……悔しいけど、味はそこそこ美味しかった。


「いい子だ。綺麗に食べたな」

「これで満足?」


 ぺろりと顔についた汁を舌ですくい取る。

 ひと粒も残さずに完食してやったのは、こんなことくらいじゃ屈しないというアピールのつもりだ。

 私は皿を体で押しやり、ルシアンの元へと返した。

 私は負けない。泣いたりもしない。絶対に屈しないんだ。


「ああ、もちろん、満足だ」

「なら、向こうに行って。私は顔も見たくないの!」

「そう固いこと言うなよ。まだ向こうに着くまで時間がかかるんだ、お話でもしようぜ」


 ゆらゆらと揺れる船室。冷たくあしらっているはずなのに、ルシアンはなぜだか私のもとを離れようとしなかった。

 彼は、ドカリと私の前に座り込む。向かい合うような形となり、不覚にも目が合う。なんだか……あの時の敵対的な雰囲気と違い、妙に馴れ馴れしいのが逆に怖い。


「なんの話をするつもり? 私のどこが嫌いか、とか?」

「……もしかしてお前、気にしてたのか?」


 ルシアンは目を点にした。

 そんな反応が返ってくるとは思わなくて、私は少し焦ってしまう。


「別に気にしてたわけじゃない。私は、その……みんなと仲良くしてほしかっただけなの!」

「これは傑作だ。まるでお花畑みてえな頭ん中だな。そんなことができたら、この世界に争いなんて無えよ」

「そんなことない! 少なくとも、ルシアンが来るまで砦は平和だったもん」

「……俺が喧嘩ばかりしてたのはわざとだよ」


 逆に今度は私の方が驚いた。


「わざと……なの?」

「ああ、そうだ。その方が、お前を攫うために都合が良かった」


 えっと……私を誘拐することのために、喧嘩をしてたってこと?

 よく分からない、どういうことなの?


「俺の役割は情報収集だ。お前んとこの騎士隊に潜入して、お前のことや、お前の周りの人間のことを調べる。そして、得た情報をあの馬鹿どもに知らせるんだ」


 ルシアンは上を指差した。おそらくは、この天井板を一枚隔てたところにいる、仲間の男たちのことを指しているのだろう。

 要はスパイ。私に狙いを定め、私たちの大切な空間に潜り込んでいたというわけだ。


「それが、何か関係あるの?」

「関係大ありだ。お前のことを調べるには、当然お前に張り付いていないといけない。だがあくまで俺は、決行の日が来るまでは騎士の一員だ。仕事をサボってお前のことをずっと監視していたら、それこそ怪まれるだろ?」


 ルシアンは、食べ終わって空になった皿を手に取った。


「――そこで、俺は『嫌な新人』を演じたんだよ。上官にも、同僚にも、俺は等しく歯向かった。そうして孤立することで、俺はお前の行動を調べるための自由を手に入れたというわけだ。どうせ、奴らとは二度と会うことも無いからな。」

「……………………」

「どうだ、驚いたか?」


 私は唖然とした。すべて、ルシアンの掌の上で転がされていたということなの?

 喧嘩したり、悪口を言われたり……それで私が思い悩み、苦しんだあの瞬間も、すべてこの小細工のせい?


「あの調査任務のとき、俺が抜け駆けしたのもその一環だ。あわよくばお前をそのまま攫って、逃げ出すつもりでもあったな。

 ……クソデカい熊に遭遇したのは想定外だったが」

「みんなを危険に晒したのも、わざとだったってこと!?」

「人聞きが悪いな。俺だって、上の考えた稚拙な作戦をこなすので精一杯なんだよ」


 ルシアンは、吐き捨てるように言った。


「だが抗えない。俺は案外、上には忠実なんだよ」

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