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137.森の中(2)

 この辺りは、別に魔物が多いわけじゃない。もちろん深くに行けば危険度は上がるが、たかが知れている……というのは、騎士のみんながよく言う話だ。


 まぁ……私はそうは思わないけどね!

 未だにオオカミに追われた日のことを夢で見るし。


「足跡が無くなっているな」


 グリズリーとみられる足跡は、川沿いにまで続いていた。比較的小さい川だけど、流れに沿ってころころとした丸い石が積み重なっていた。

 容易に足跡がつく土の地面とは違い、ここだと痕跡が残りにくい。


 私は地面をくまなく観察する班長さんに話しかけた。


「うーむ、どうするの?」

「仕方ない、引き返すしかないな」

「そうなんだ……困ったね」


 せっかくここまできて足止めか、とちょっと残念な気持ちになる。


「いや、そうでもないぞ。奴の移動経路や生息域はある程度把握できた。

 元より俺たちの目標は討伐ではなく、調査だ」

「そっか!」


 班長さんにそう言われ、私は当初の目的を思い出した。たしかに今日の目的は、討伐じゃなくて調査だった。姿が見つけられなくても、目標はある程度達成したということだ。

 事実、騎士たちはただ足跡を闇雲に追ってきたわけじゃなくて、道中いろんな記録を取っていた。


「とにかく、今日のところは一旦戻るぞ」

「班長、報告です!」


 班長がそう呼びかけたとき、突如騎士の1人が焦ったような表情でやってきた。


「どうした?」

「ルシアンが、……見当たりません!」

「何っ!?」 


 その報告に、班長の顔が驚愕に染まる。

 私も班長も、そしてこの場にいる全員が、思わず周囲を見回した。


 ……そこには、先程まで居たはずのルシアンが居なかった。


「彼を見たものは!?」

「……………………」


 騎士たちは、何も言わなかった。誰も、私も含めて、ルシアンが消えたことに今の今まで気が付かなかったのだ。


「ここに到着したときには間違いなくいました!」

「なら……まだ近くにいるな」


 また別の騎士の1人の報告に、班長は考え込むような仕草をした。私も同じく、この河原にルシアンが来ていたのは見た。

 いつ居なくなったのかは分からないけど、ここに到着してまだ10分も経っていない。ってことは、いなくなったのはこの10分以内だ。


「ルーナ、頼めるか……?」

「もちろんだよ!」


 いくらルシアンだとしても、流石に私だって心配だ。道に迷ったりしただけならまだしも、魔物に捕まったとかなら洒落にならない。

 すぐに探し出さないと。私は班長さんの指示を受けてすぐ、びゅんと翼をはためかせた。

 

「もし迷子になったら、伝えた通り回収地点に戻るんだぞ?」

「分かってるよ! 行ってくるっ!!」


 そんなに心配しなくても大丈夫だよ。むしろ空のほうが視界も広いし、街がどっちの方向にあるのかも把握してる。

 そんなことよりも、ルシアンがどこにいるかだ。

 ……問題は、森の中は探しづらいということ。覆い尽くす葉っぱは、もはや屋根だ。地上の様子を探るにはしっかりと目を凝らさないといけない。


「川がこっちにあるから……手前側を探せば良いんだよね……?」


 おそらくルシアンは川を超えていない。

 いやもちろん可能性の話だけど、森の中へ向かった確率が高いだろう。他の騎士たちも私と同じように考えており、森の中を中心に捜索をはじめるようだ。


「待ってて、ルシアン。絶対に見つけるから……!」



 木々の上スレスレを旋回しつつ、じっと地上に目を凝らす。だが彼の姿は見当たらない。


「あっちだ!」

「分かった、行ってみる!」


 どうやら地上の部隊がルシアンのものとおぼしき足跡を発見したようで、私にもその情報を共有してくれた。

 私は縦横無尽に空を駆け巡りながら、ルシアンがそこにいないか、森の中をくまなく探していく。「どこにいるのー!」と大声で呼びかけながら。


 すると――森のある一角でバサバサと鳥が大量に飛び立った。


「ルシアンっ!!」


 直感的に、私はその出来事がルシアンによるものではないかと思った。

 場所はそれほど離れていない。私なら十数秒でたどり着けるくらいの地点だ。


 みんなに報告しようかとも思ったけど、一刻を争うような状況の可能性もある。今の私なら……魔物相手にもそれなりに戦えるはずだから。

 私は脇目も振らず、その地点に向けて全速力で飛び立った。

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