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125.目覚め

「セレス……セレスぅ……」

「ルーナ、大丈夫。ここにいる」


 ……あれ、これは夢? それとも現実?


「セレス?」


 ふわふわとした頭。ぽかぽかと窓から差し込む太陽。

 これは、セレスだろうか。優しい声にほだされて、気分はとても良い。


「ここは……どこ?」

「ベッドの上」


 そうか……朝だ。私は今、夢から覚めたんだ。

 その声を頼りに、私は今セレスの膝の上で丸まっているということに気がつく。なんで私はいつのまにかセレスに膝枕をしてもらってるんだ?

 ……ちょっと、昨日から遡って考えよう。


 えっと、確か……昨日はセレスの住処にお邪魔して、なんかいろいろ持って帰ってきて……それから、えーと、なんだっけ?

 まだ上手く回らない頭を無理やり働かせながら、私は昨日あったことを思い出そうとしていた。


「ルーナ、うなされてた。悪い夢?」


 そんな思考を中断するかのように、セレスが私へそう問いかけた。

 確かに……なんだか長い時間を過ごしたような気がしなくもないけど、……うーん、えーと……あんまり思い出せないや。


 でも……ただひとつだけ言えることがある。


「悪い夢、ではなかった……かも」

「良かった。おはよう」


 寝ぼけ眼を手でぐりぐりとこすりながら、見上げたセレスの表情は、なんだか凄く懐かしく感じた。



「散々な目にあった……」


 アイラとセレスに左右の手をぎゅっと握られながら、私はトボトボと通りを歩いていた。

 私がここまでヘトヘトな理由は、あらゆる人間から滾々(こんこん)と説教をされたり、あるいは持ち帰ったものについて根掘り葉掘り聞かれたり、なんやかんやでずっと拘束されていたからだ。


「ルーナ、私たちから離れないでよ」

「わ、わかってるってば!」


 わかってるよ、アイラ。それは私が悪いんだけど……悪いんだけどさ!


 今日一日、アイラから何度も何度も、耳にタコができるくらいに言われた言葉だ。

 私のことを心配してくれるのは分かってる。私もアイラのことが好きだし、困らせてやろうなんて思ってない。


 でも、あのときのセレスをひと目見て、私は直感的についていかないといけないと思ったんだよ。セレスも私の大切な友達だし、彼女が抱えている悩みは解決してあげたい。

 いや、ただ洞窟に遊びに行っただけのような気もするけど……でも、セレスがそれを望んだのなら、私はそうしてあげるべきだと思った。

 実際、セレスの過去を――まだ全然詳しくは知らないけれど――少しだけ知るきっかけになったから後悔は全くしていない。もし同じことがもう一度あっても、私は同じ道を選んでいると思う。


 ……でもさ、でもさ! ちょっとだけ私の愚痴も聞いて欲しい!

 わかってるよ? セレスと私じゃ、騎士たちの間で扱いが違うってことは。

 でもね、私ばっかり怒られるのはなんかズルくない!? セレスが一番の元凶だというのに、私ばっかり捕まえられてさ!


「セレス、ずるい!」


 ……やり場のないもどかしさは、ここにぶつけておこう。


「?」


 不思議そうに首を傾げるセレスに、私はふうとため息をついた。

 まあ……なんだかんだいって、セレスの今の表情はどこか晴れ晴れとしている。

 少しでも元気になってくれたのなら、私の努力も無駄ではなかったということだろう。きっと。


「セレス、そういえば『師匠』ってどんな人だったの?」


 少し通りを進んだところで、私はふとセレスに質問をする。

 だがセレスは、ぱたりと足を止めた。


「何故、ルーナ知ってる?」

「え、それはだって、いや……あれ? どこで聞いたんだっけ」


 なんだか頭にずっと残っていた言葉なんだけど、そういえばどこで耳にしたんだろう?

 昨日今日の記憶を遡ってみたけど、セレスはそんなこと一言も言っていなかったような……。


「ルーナ?」

「な、なに!?」


 唸りながら考えていると、急にセレスが私の顔をぐいっと覗き込んできた。

 急接近するセレスの丸い顔。その突然の行動に思考を中断せざるを得ず、私は思わず後退りした。

 なにか言いたげに私に詰め寄るセレスに、がっちりと身構える私。しかし返って来たのは、拍子抜けする一言だった。


「かわいい」

「……え、なに」


 セレスはそれだけを口にして、また正面を向いた。

 えっ? 本当に言いたかったのはそれだけ?

 ……私には、セレスの行動が全然ワカラナイヨ。


 とはいえ面と向かって言われると、さすがに小っ恥ずかしいな。

 戸惑いながら顔を赤くする私をよそに、セレスは懐かしそうに空を見上げた。


「師匠は、すべて教えてくれた。魔法も、生き方も」

「その師匠って人、凄い人なんだね」

「師匠は――変だった」

「へ、変……?」


 流石に私も困惑せざるを得ない。

 セレスに変と言わしめるとは、よほど師匠は変な人なんだろうか。……あっ、いや、もしかしたらドラゴンかも。


「その師匠は今どこにいるの?」

「死んだ」


 あっけらかんと答えるセレスに、なんだか私は気まずくなった。

 そうだよね、セレスが魔法を教えてもらったなんて……何百年も前の大昔のことのはずだもんね。

 そこまで想像力が働かなかったことを少し後悔しつつ、私は素直に謝った。


「……それは、ごめん。悲しいこと聞いちゃった」

「いや……近くにいる」

「えっ、どっちなの! 近くにいるの!? 怖いよっ!」


 神妙な顔でとんでもないことを言い出したセレスに、私はデカい声でツッコむ。

 それって幽霊的なアレですか!? いくら師匠が変な人だからって、そんなのが現れたら夜眠れなくなっちゃうよ!


「……あっ、でもセレスがもう一度会いたいって言ってたのは、師匠のことなんだよね?」

「そう」

「それならきっと叶うよ」


 とはいえ、師匠はセレスの恩人である。当然、悪い人ではないのだろう。

 だから、まだ生きているのなら、私たちの近くにいるのなら、きっとその願いは叶うはずだ。なぜなら、流れ星に願ったのだから!


 ……幽霊みたいに出てくるのは、さすがに勘弁してほしいけど。


「それなら……嬉しい」


 私と繋ぐ手をぎゅうっと強く握りながら、静かにセレスは呟いた。

 もう時刻は夕方だ。日も落ちてきたし、そろそろ流れ星も見えるようになるだろう。数日に渡って続く星降祭、まだまだその勢いは衰えない。

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