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119.大切なもの(3)

「似合ってる」

「素敵ですわ、ルーナ」

「やったー!」


 せっかくだし、ってことでセレスから預かったティアラをつけてみた。こんなお姫様が身につけるような豪華なティアラ、私なんかが着けて大丈夫なのかと不安になったけど、案外好評だったので良かった。

 単純だから、お世辞でも褒められると嬉しくなっちゃうね!


「でもセレス、本当に私が持ってていいの?」


 私は怪訝な表情で確認した。

 流石にこれが高級品なのは私でも分かる。ぱっと見たときの作りもいいし、使われている技巧や装飾の数々は明らかに最高級品。

 それに……セレスの口ぶりからすると、これは彼女の大切なものの筈だ。


「いい。私は、ルーナに持ってほしい」

「でも、なんで私なの?」

「ルーナに、見て欲しい。お願い、持って」

「わ、分かった。そこまで言うなら……」


 セレスが頑なにそう言うものだから、私は押し切られるようにティアラをぎゅっと大切に抱えた。


「でも、普段は着けないからね」

「えっ……」

「当たり前でしょ! 私はお姫様じゃないもん」


 セレスは当惑したような顔だったので、私は思わずツッコんだ。

 私はお姫様でもなんでもないのに私生活から装着していたら、もはやそれはコスプレの域だよ!

 こんなの……ライルに笑われる自信しかない。


「ルーナ、今だけ。お願い」

「まあ、今だけなら……」


 セレスはなぜだか私に身につけるよう、強くお願いをしてきたけど……まあセレスがそう言うのなら仕方がない。ちょっとばかし着けるくらいなら、別に悪い気分はしないし。

 一度外したティアラを再び頭に戻したところで、私はとあることを思い出した。


「そういえば、セレスの願い事は何だったの?」


 私の問いかけに、セレスはようやく重たい口を開いた。


「もう一度、会いたい。――それが私の願い」



「おい……行っちまったな」

「飛んでっちゃった……」


 エミルとルカは、困惑したまま互いに見つめ合って呟いた。突如現れた巨大な黒竜、その背中に飛び乗って遥か彼方へと飛び立っていったルーナとクリスティーナ。

 その影はみるみるうちに小さくなり、やがて森の方へと消えていった。

 この状況を2人はどうすることもできず、ただ地上から唖然と見送るしかできなかった。


「ねえ君たち、あの子たちがどこに行ったか知ってる!?」

「アイラさん……僕たちは何も」

「ああ、俺もびっくりして何がなんだか」


 声を掛けたのは、女性騎士のアイラ。ルーナやセレスの”保護者”として、同伴しているところをよく見る。直接話したことは数回しかないが、お互いに顔見知りではある。

 そんなアイラは焦りとも怒りとも言い難い、非常に鬼気迫った表情をして2人に迫っていた。


 だが案の定、エミルもルカも彼女たちの事情なんて知るわけもなく――というか、セレスの独断である以上知る由もないのだが――目的地に繋がる手がかりは見つからなかった。


「そうよね……ありがとう」


 笑顔で言ったアイラだったが、眉間にシワが寄っているのは隠せていない。


「今日はもう遅い。お前らはそろそろ家に帰るんだ」

「分かった!」

「いい返事だな。頼んだぞ」


 騎士のライルは、そう2人に呼びかけた。ライルはこの街の出身であるため、顔はよく知られている。面倒見の良い兄のような存在だろうか。一緒に遊びに混ざったりするなど、子ども達からも人気がある。

 そんなライルも今回ばかりは呆れたような表情を隠せないでいた。騎士2人の様子を見て、エミルとルカはその苦労をなんとなく察した。


「おい、待て。お前は一緒に来るんだ」

「え、私かよ!?」


 なお、2人に混ざってしれっと帰宅しようとしていたヴァルは、ライルに腕をがっちり掴まれたことにより動けなくなった。

 長かった仕事もようやく終わり、街の定食屋に向かう気満々だった彼女は、そんなライルからの申し出に必死に抵抗する。


「赤竜、お前も友達だろ。協力してくれ」

「と、友達じゃねえって! なんでだよ、お前らで勝手にやれよ!」

「臨時収入が欲しいだろ。俺が交渉してやるよ」

「………………いやっ、私はその手には乗らないぞ! 第一、私はこれから飯を――」

「別に食堂を使えばいいだろ。誰も文句なんか言わねえよ」

「………………まあ、そこまで言うなら構わない」


 案の定というかなんというか。すぐに報酬で丸め込まれたヴァルは、結局騎士2人に同行することとなった。もはや買収である。

 今後、手にできるであろう臨時収入で皮算用をするヴァル。もはやそこにプライドなんぞ微塵もないようだ。


「おい、何をしてるんだ。行くぞ!」


 なんなら一番乗り気のヴァルを追いかけるように、アイラとライルは駆けていく。

 軽やかに砦の方へと駆ける一同の後ろ姿を眺めつつ、2人はもう一度見つめ合った。


「帰るか」

「うん」


 ようやく静かになった広場を背に、ライルに言われた通り、2人は帰路につくこととした。

 とはいえ、まだまだ街はお祭り騒ぎで喧騒に満ちている。明るく、活気に満ちた光景はとても新鮮だ。

 歓談の声、屋台から漂う美味しそうな香り、きらびやかに装飾された建物。そんな浮かれた雰囲気の中、突然ルカがエミルに対して質問を投げかける。


「お前……頑なに自分の願い事を言わなかったな」

「き、急にどうしたの」

「……………………」


 上ずった声で応えるエミル。平然を装った風だったが、ルカにはそれが何かを隠しているかのようにしか見えなかった。

 にやりと笑ったルカは、確信を持って告げる。


「お前さては、ルーナのことが――」

「あーあーあー!!」


 なにかを察したエミルは、急に大声を出してルカの声をかき消した。だがその態度は、ルカの導いた仮説を肯定しているようにしか見えない。


「はぁ……お前、そういうことかよ」

「お願い、ルカ!! 誰にも言わないで……」

「言うわけがないだろ。だが、ここ最近のお前を見てると丸わかりだぞ?」

「えっ……そうなの?」


 衝撃の事実が判明し、エミルは凍りついたように固まった。

 妙にルーナと喋っているときだけ、やけに嬉しそうにしているところとか。ルーナがボディタッチをしてきたときに、妙に挙動不審になるところとか。

 確信を得るまではいかないが、ルカはなんとなくは気がついていた。


「まあそれはいいけどよ。エミル……お前、やめとけ。

 あいつはドラゴンであって、人間じゃない。姿を真似ているだけで体の作りも違うし、我々と価値観も違う。友達なら問題ないだろうけど、そういう仲になるのは難しいぞ」

「……………………」


 ルカは真剣な表情で、エミルに対して忠告する。

 これは別に嫌がらせなどではない。むしろ、エミルのことを思っての優しさなのだ。


「それは分かってる。分かってるよ。

 でも、ルーナはなんだか違う気がするんだよ。優しくて元気で、隣にいるだけで楽しくなるというか……」

「まあ、お前がそう思うなら応援はするけどよ」

「……ありがとう」

「まあ気長にすることだ。アイツがそういうのに興味がなさそうなのは、お前が一番分かっているだろ?」

「うん、そうだね。なんだか悲しくなってきた」


 ルカは、エミルの肩をぽんと軽く叩いた。


「なあ肉串食うか? 俺が奢ってやるよ」

「……食べる」


 エミルは静かに頷いた。いつも以上にしゅんとしたその姿に、悪いことを聞いてしまったと少し反省するルカであった。

 綺羅びやかな流星、その勢いはおさまることはない。屋台で買う肉串は、とても美味しかった。

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