表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/160

12.愛しのおやつ

「すげぇ、ホンモノのドラゴンだ」

「ウロコって噂通りめちゃくちゃ硬いんだなあ」

「お前意外とかわいいな」


 ……これはどういう状況でしょうか。


「うわっ、ひんやりしてるぞ!」

「尻尾長ぇ……」

「ちっこいな、まだ子供か?」


 私の周りには……人、人、人。それも、全員が全員コワモテの男たちばかりだ。

 そのコワモテの男たちが、よってたかって私に触れたり話しかけたりしながら、観察をしている。控えめに言ってすごく怖い。悪意がないということだけはわかるのだけど、……やっぱり怖いもんは怖い。


「あの、よろしくおねがいします……」

「喋れるのか!!」

「すげーな」

「声かわいいな」


 私が一言しゃべると、歓声が上がった。

 私を取り囲んでいるのは、砦の騎士たちだ。お昼の休憩時間に食堂に連れて行ってもらったのだが、席についた途端この有様だ。

 みんな食事そっちのけで私を見ようとしている。私を中心に人だかりができているくらいだ。

 

 私を取り囲む騎士たちは、大体が筋骨隆々で、とても顔が怖い。

 アイラやライルは華奢な方だが、この中でこの体格なのは少数派なようで、他の人達は揃いも揃って筋肉モリモリのゴツゴツの肉体だ。訓練の賜物だろう。

 みんな格好から、かろうじて騎士であることがわかるけども、顔だけ見ればゴロツキだ。見た目で判断するのは良くないけど……良くないけどさ、皆さんちょっと顔が近い!

 私は目をうるうるさせながら、近くを通りかかったアイラに助けを求めた。


「あ、アイラ……! たすけて……」

「ねえみんな、ルーナが怯えてるでしょ! 自分の席に戻って」


 声を張り上げて、私を取り囲む騎士たちを律するアイラ。

 私はその隙に椅子から飛び降りて、するすると男たちの足の間を抜ける。そしてアイラの体をよじ登ると、胸のあたりにすとんと収まった。


「あぁ……逃げちゃったよ」

「めちゃくちゃ懐いてるじゃねえか」

「よく見つけたよな、ドラゴンなんて」

「俺の見た目がもっと怖くなければなぁ……」


 騎士たちは私とアイラにそんな言葉をかけながら、しぶしぶといった様子で自分の席へと戻っていった。

 ふう、やっと落ち着くことができる。私達は適当に目の前のあいてる席につく。

 アイラはカタンと机に料理の乗ったトレーを置いた。その上には色とりどりの料理が並んでいる。いい匂いだ。


「ごめんねルーナ。顔は怖いけど、悪い人たちじゃないから」


 ……それはなんとなくわかる。みんなに何の悪意がないのも、本当は勇敢で優しい騎士であることも。

 でも見た目がなあ、どうしても怖いんだよ。みんな犯罪者顔ばかり。

 私基準で怖くないのは、アイラにライルに隊長に…………っと、あれは?


「アイラ、あの女の子は?」


 私の目に留まったのは、食堂の隅っこの机でひっそりと食事をとる一人の黒髪の女性騎士。

 この広い食堂の中、見回しても一人でご飯を食べているのは、彼女のみだ。


「ああ……あの子はルルちゃん。つい最近ここに来たばかりの新入りだね」

「ひとりなの?」

「そうだね……まあ、まだ馴染めていないんじゃないかな。私も出来るだけ声を掛けてるんだけど」

「うーん、人見知りなのかな」


 よくよく聞くとこの砦には、アイラとルル以外の女性はいないらしい。超がつくほど男だらけのむさ苦しい所だ。騎士たちみんな優しくて仲がいいらしいけど……彼女にとって馴染みづらい環境でもあるのだろう。


「多分ね。すごくいい子なんだけどね」

「――お前も最初あんな感じだったじゃねえか」


 ふと背後から声がかかる。聞き覚えのある声色だ。


「げっ、ライル」

「なんだ、俺のことが嫌いか? ルーナ様?」


 ふっと鼻で笑いながら、私の頭を軽く撫でるライル。

 私はそんなふうにおちょくってくるライルを一蹴する。


「好きじゃない」

「あーあ。ならこれはお預けだな」


 するとライルは、ポケットから茶色い物体を取り出した。

 見覚えのある、香ばしい香りを放つ細長い物体。……そう、私の好きなジャーキー!


「ら……ライルのこと、嫌いじゃないよ?」

「さては、隊長に餌付けされまくったな?」


 正解です……な、何故分かった。

 隊長は騎士たちにとっても厳しいけど、私に対してはとても優しい。

 私がドアの前で佇んでいると「開けられないのか?」って言って開けてくれるし、隊長の部屋でゴロゴロしていたらそれを見かねてふわふわのカーペットを置いてくれたし、なによりおやつを沢山くれる。


「おやつで機嫌を取ろうとしない。ルーナもご飯の前におやつは食べないの」


 そんなやり取りを繰り広げていると、間に入ったアイラがジャーキーを取り上げる。

 あぁ……私の愛しのおやつが……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=292859426&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ