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104.帰還、そして再来

 砦に帰還した私は、いつものように惰眠を貪っていた。

 ぽかぽか陽気で温められた屋根の上は、お昼寝に最適。最近のお気に入りというわけだ。お昼ご飯を食べた後はいつもここと決めている。


「ふあぁ~――……」


 大きなあくびをして、私はころりと屋根の上で転がった。上を向いた瞬間、強い日差しが目を刺すように照りつけ、私は思わず目を細める。

 さんさんと照りつける太陽、どこまでも澄み渡る青空、そしてその空を駆け抜ける1体のドラゴン……――えっ、ドラゴン!?


 私は思わず、がばっと飛び起きた。


「――ヴァル?」


 その真っ赤なウロコには、見覚えしかなかった。それは、エストラーダの赤竜ことヴァルの姿であった。

 うーむ、実のところ、まだエストラーダを離れてから2週間ほどしか経っていない。というかそもそも、ヴァルにはこの場所すらも教えていない。来たいなんて一言も言ってなかったはずなのに、それなのに何故、ヴァルはここに……?


 居ても立っても居られなくなった私は、屋根をふわっと滑空する。

 これは緊急事態だ。とにかく……隊長さんに報告だ!

 ある程度初速が出たところで、グライダーよろしく勢いそのまま窓へ突入。風を巻き上げながら隊長さんの部屋へと駆け込んだ。



 ルルちゃんと手をつなぎながら街を歩いていたら、ばったりとエミルとルカに遭遇した。久しぶりに会う2人はとても元気そうで、その笑顔が見れたことに私も嬉しくなる。


「おう、ルーナじゃねえか!」

「久しぶりだね」


 なぜここに来たのかといえば……隊長さんにヴァルの目撃情報を伝えたとき、なぜだか「街へ行ってみるといい」と言われたからだ。その含みのある言い方が少し気になったけど、私はその提案を素直に受け入れた。

 詳しくは分からないけど、なにか手がかりがあるのだろう。


 ……ということを思い出した私は、顔を真面目モードに切り替える。

 そして、2人に対し神妙な面持ちのままで尋ねた。


「あのさ……ドラゴン見なかった?」

「今見てるけど」

「そうじゃなくて、真っ赤なドラゴン! 見なかった?」


 私のことじゃなくて、ヴァルのことだよっ。確かに私もドラゴンだけど!

 私は尻尾を地面に向けてペシペシと叩きつけつつそう訂正するが、……それにルカは大きなため息をついて呆れたようにしていた。


「はぁ、お前知らねえのかよ」

「なんのこと?」

「……ルル騎士、ルーナを連れていってもいいですか?」

「大丈夫ですよー」


 えっと、なぜそれを私じゃなくてルルちゃんに聞くの? 別に私もそのつもりだったからいいけどさ。

 どうやら……ルカは何かを知っているみたい。だがルカは、それとなく仄めかすような態度を取りつつ、肝心なことは全然教えてくれなかった。


「見れば分かるって」

「教えてよ!」


 そんなやり取りを繰り広げつつ、ルカは私の腕を引っ張る。エミルもその後に続き、私たち3人は街を走り抜けた。


「――こっちってルカのおうちの方だよね? それが赤竜と関係があるの?」

「まあまあいいから。それに、親父がお前と会いたいって」


 相変わらずはぐらかすルカに辟易としつつ。

 そうして連れてこられたのは、彼の家だった。……が、前来た時とは全然雰囲気が違った。


 ルカのおうちは、スイーツ屋さんだ。お父さんが有名な菓子職人で、最近一家でこの地に引っ越して店を開くつもりだったのだとか。

 しかし、あの例の赤竜騒動で物流が止まったために、お菓子の材料が手に入らず、オープンはずっと延期。それでお店には閑古鳥が鳴いていた……はずだった。


「お店、開いたんだね」

「そうだぞ。お前のおかげだ!」


 だが今のルカのお家には、なんと行列ができていた。店の外まで列が伸びていて、いち、にー、さん……大体10人くらいのお客さんが外にまで列を作っていた。

 私がこの前遊びに行ったときとは大違いだ。南のルートが再び使えるようになったおかげで、ようやく材料も手に入ったのだろう。おめでたいことだ。


 私は素直にそのことを喜びつつ、私はルカに連れられてお店の中へ。中からはふわりと甘い香りが漂ってきて、お昼ご飯を食べたばかりなのにお腹が空いてきちゃう。甘味は別腹ってことよ。


 ただ……こことヴァルにどういう関係があるのか。

 ――その答えは、お客さんの合間を縫い、店内に入ったところでようやく分かった。


「おじゃましまーす……ってヴァル!?」

「おっ、ルーナ! ついに私と勝負しに来たのか?」


 なぜだか……カウンターの奥にいるヴァルと目が合った。

 真っ赤な髪は後ろで結び、黒を基調とした高級感のあるエプロンと帽子を身に着けている。だが角と尻尾が思いっきり見えていて、彼女がドラゴンであることは一目で分かる。


「……勝負はしないよ。それよりヴァル、なんでここにいるの?」

「聞いて驚くな。なんとここで人の仕事を手伝うと、お金? ってやつが貰えんだ」

「も、もしかしてお仕事してるの?」

「そう、それだ。『いらっしゃいませー』って言うヤツだ」


 私は驚愕して、そのままその場に固まった。

 ……あのヴァルが、人の仕事を? まさかそんなわけ。ヴァルは別に人間が好きそうなタイプじゃないはずだ。


 私は信じられない気持ちになったが、当のヴァルは意外にも上手く仕事をしていた。臆することなく次々とやってくるお客さんを接客し、商品の受け渡しまでやっている。


「イチゴタルトを2つください」

「どれだか分かんねえよ。指さして教えてくれ」

「あっ……えっと、これを2つ」

「2つだな、いいぞ」


 なんだかフランクすぎる接客な気もするけど、持ち前の人柄と活気ある性格もあってか、お客さんは大して気にしていない様子だ。


 というか、ヴァルはドラゴンだよ? 角と尻尾もちゃんとあるんだよ?

 お客さんもそれを全然不思議と思っていない感じだし、私がいない間にこの街はどうなっちゃったの……?


 そんな私の困惑を背に、ヴァルは卒なくタルトをショーケースから取り出すと、袋に入れてお客さんに手渡した。代金をもらうところまでバッチリだ。


「うちの新しい店員だぞ」


 い、いやこれ……本当に店員さんじゃん。

 ルカの自慢げな表情に、私はただ頭を抱えるしかできなかった。

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