1. ルディア・オレオール
今回はルディアの独白。物語は次回から始まります。
父と母の喪が明けて一月が経った。
けれども私は、今日も黒衣を纏う。
黒いレースがあしらわれたブラウスに、シンプルな黒いワンピース。
黒いストッキング、黒い靴。黒いレースの手袋。あまりかぶらないけど外出用の帽子も黒くて、黒いレースと黒薔薇の飾りがついている。
おまけに長く伸ばした髪も光を吸うような黒だから、遠めに見たら影法師みたい。
黒くないのは靴やベルトの金の金具と、母譲りの白い肌、そして父譲りの青い瞳だけ。
私はいつの間にか「黒薔薇のルディア」なんてニックネームで呼ばれるようになった。
私の名前はルディア・オレオール。
誇り高きオレオール家当主ロデリアン・オレオールとその妻メリサ・オレオールとの間に生を受けた第一子。
父と母を流行り病で亡くした今、私が父の守りたかったものを守らなくてはならない。
医者にしつこく頼み込んでようやく会うことができた病床の父はかつての姿からは遠くかけ離れた姿をしていた。
それでも父は私を見つけて微笑んだ。
「こんな危ないところに来るなんて、悪い子だ。」
って言いながら。
私が父の乾いて骨張った手を握ると、父は思いの外強い力で握り返してきた。そして言う。
「私はもう長くない。」
私は「そんなこと言わないで」って返したけど、父の言葉をはっきり否定することはできなかった。
「ルディア」
父は元気なときと同じ深い青の瞳で、私の顔をまっすぐに見つめる。
「はい」
私は声の震えを抑えきれない。
「私は、私にできるのは、おまえに頼むことだけだ。」
父はしっかりした声で言った。
「なんでも聞きます。」
私は一言も聞き逃すまいと必死に耳を研ぎ澄まして、握った父の手を小さくゆすった。
「おまえばかりに重荷を負わせること、とてもすまないと思っている」
父はためらっているようだった。
私が「いいえ」と首を振っても、父はしばらく口ごもっていた。
けれどもそのうち、やっと決心がついたように私の目をもう一度しっかり見て言った。
「ルディア、どうかライアンとともに生きてくれ。ライアンを守れとは言わない。ただ、私の、私たちの亡き後、姉弟二人で助け合って生きていってほしい。」
私は何度も頷いた。
「もちろんです。当たり前じゃないですか!」
そして笑顔を作る。
「任せてください、お父様。私たちはきっと幸せになりますから。」
父の手をぎゅっと握った。
「幸せ……幸せか。……そうだな、幸せ。」
父は遠い目をして、「幸せ」という言葉をかみしめるように口を動かしていた。
「無理は、するなよ。」
父の視線がふいに私に帰ってくる。
「幸せは、いつだってすぐ傍にあるものだ。それに気がつかない者に、本当の幸せは訪れない。」
私は大きく頷いた。
「肝に銘じます。」
父はやつれた顔で微笑んだ。
そのとき、私はそれまで感じなかった悲しみが胸の底からせり上がってくるのを感じた。
父が死んでしまう。
この笑顔も消えてしまう。
今こうしているうちにも父の命の灯がふっと消えてしまうのではないかと強い不安に襲われた。
「少し、疲れたよ。」
父はそう言って瞼を閉じた。
「っ……」
私は何も言えなかった。ただ父の温かい手を握りしめる。父は握り返してこない。
医者が私を立ち上がらせて父の脈を測った。
「お眠りになっています。」
そう言うのを聞いて、私は詰めていた息を吐いた。
父が亡くなったのは、それから三日後のことだった。
父はああ言ったけれど、私はライアンを守る。
まだ十歳のライアン。
いずれオレオールを背負って立つ、私の唯一の弟。
六歳のときに初めて母の胸に抱かれたライアンに会ったとき胸に起こったあの不思議な感じを、今でも忘れない。
私にとっては今のライアンもあのときのライアンも変わらない。
私がライアンを守る。そして幸せにする。
たとえこの身を投げ打ってでも。
読んでくださりありがとうございます。
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自分語りほど作者の自己満足になりやすいものはないと思います。
書いてる側は楽しいんですけどね……