第三話
予定通り学校が終わり部活に所属していない三人は下駄箱に集合した。ウキウキした少年のような無邪気な表情のキキョウと絶望に満ち溢れた表情のアヤメとワクワクが隠しきれてなくて口角が少し上がっているヒガンの三人のグループは周りから見たら情報量が多いだろう。
「ほんとにすぐ行ってすぐ帰るからね…。」
と怯えながら言うアヤメに、キキョウは意地悪に
「誰が一番長くいれるか勝負するか?ww」
と発言した。
「見つかったらまずいだろうし長居はしたくないかなぁ。」
と別の観点からのヒガンの発言を聞いたキキョウは
「確かに見つかったらめんどくさいな…。」
と返事をし、アヤメはほっと息をついた。が、行くことに変わりはないことを思い出しまた絶望の表情へと変えた。
神社を囲う門は意外と低く、三人とも頑張れば乗り越えられてしまうようなものだった。特に針のようなものもなく、難なく門を超えた三人は恐怖というよりも不思議な表情を浮かべた。そこには石細工にしてはあまりにも精巧にできている一つの像があったのだ。どうやらこの神社はこの像を祀っているらしい。ヤンチャなキキョウは
「な~んだこんなんしかないのかよ~。つまんね~。」
と口走った。想像していた恐怖を遥かに下回ったアヤメも
「私こんな物のために今日一日中怯えてたの?!損した~!」
と言った。ヒガンは何も言う事はなく、期待外れだ、という表情を見せていた。落胆している三人の周りからいきなりガサガサッという音が聞こえた。高い草に囲まれた神社であるため、小動物くらいいるだろうという想定はできるが、もしこれが人だとしたら…?学校に通報されてしまう!そう思ったキキョウはヒソヒソ声で
「おい、一旦出ようぜ!」
といって三人は退散した。
翌日、キキョウとアヤメとヒガンは学校で昨日の感想を言い合っていた。
「なんかお化けとか出るかと思ってたんだけどな~。期待外れだったな~。」
とキキョウは悲しそうにつぶやく。
「まあああいう類の話って迷信がほとんどだよね。魔物とかも見たことないし…。」
とヒガンが答える。
「確かに~。あんな話で怖がる人なんて馬鹿だよね!」
とアヤメは自分の事を棚に上げた発言をする。
「…あれ?そういえば昨日ハンカチ洗濯に出してない…。のに制服にない…?」
とアヤメがポケットを探り出す。
「昨日神社で落としたんじゃね?」
とキキョウが訊いてみる。
「うわ、絶対そうだ。帰りまた行かなきゃ…。」
とアヤメが言うと、
「俺もついていこうか…?さすがに一人じゃ何かあったら危ないだろ…。」
とキキョウが珍しく優しさを見せると
「何?キキョウのくせにそんなこと言うなんて気持ち悪いよなんかwwでもありがとう。ひとりで行けるから!別に怖くなんかないし!!」
とアヤメは返す。
そうして放課後を迎えることになった。
…
私はアヤメ。14歳のどこにでもいる中学二年生。ちょっと風の魔法が使えるくらいだけど魔物なんて迷信だし使い道がない。そんなことより聞いてよ!昨日キキョウとヒガンと入っちゃいけない神社に肝試ししにいったんだけどね、そこでハンカチを落としちゃったの~!ほんとに最悪…。あのハンカチは去年の私の誕生日にキキョウが買ってくれたものなのに…。あいつって普段はおちゃらけててふざけたことしか言わないし私の事なんて絶対ただの友達としか思ってないんだろうし!ほんと最悪…。今日私がハンカチを神社に取りに行くって言ったら珍しく「俺も行こうか?」とか言い出してさ。ホントバカみたい!私の気持ちに気づいてないくせにああいう事言うからずるいんだよね…!ってグチグチ言ってたら神社についちゃった。は~。二人の前では怖くないって言ったけど実はちょっとまだ怖いんだよね。雰囲気が結構出てて私は苦手。さ~て早く探して帰ろう…。ん…?またガサガサ言ってるよ…。もう勘弁してよ…。…え…?オオカミ…?しかも何匹いるの…?!…ああ、私まだキキョウに自分の気持ちも伝えてないのに…。ほんとに最悪…。
…
なんだかんだで心配になってアヤメの後をついてきたキキョウは驚愕の光景を目の当たりにすることになる。門の向こうでアヤメが無数のオオカミに食べられているのだ。キキョウは腰が抜けてしまった。
「アヤメ…?いやアヤメじゃない可能性も…。」
ショックで現実逃避までしてしまっている。
キキョウは一匹のオオカミと目が合った。キキョウは恐怖に駆られてそのまま走って家まで逃げ帰ってしまった。