第二話
なんとか間に合った二人は汗だくで席についた。もう夏休み前でセミの声が暑さを一層感じさせるような時期だった。
「なんか毎日走って登校してるからか私体型維持できてる気がするわ…。」
アヤメは疲れ果てて無理やりポジティブな方向に思考を捻じ曲げていた。
「全部俺のおかげだな!感謝しろよアヤメ!」
キキョウは生意気な顔でアヤメにそう告げた。するとアヤメが優しくキキョウの頭をはたいた。
「バカ!」
アヤメはそう言うとタオルで汗を拭き一時間目の準備をした。キキョウはいい感じに濡れ感をまとったアヤメのボブヘアーに見惚れていた。
「何?また何かバカなこと企んでるの?」
とアヤメがキキョウに問うとキキョウは魂がストンと元の位置に戻ったかのようにハッとしてすぐに目を逸らした。席が隣なので目を逸らしたところですぐ話せる距離である。しかしアヤメは何も気にせずに授業の準備を進めた。
一時間目は社会だった。中学二年生のこの時期は歴史を学んでいる。
「ここの神社ね~、教科書にも書いてあるけどここからめちゃくちゃ近いのよね~…。夕方から夜にかけてとんでもない魔物がでるって噂なのよ。見たことある人は知ってるかもしれないけど結構厳つい門があるのはそういう理由があるからなの。ここね、辛夷神社と言います。100年くらい前にできたんだって~。テスト出すつもりだから!覚えとくんだよ~。」
社会の教科担任であり、キキョウとアヤメのクラス担任でもあるナズナが淡々と授業を進めていく。
するとキキョウがまた悪そうな顔をしてアヤメに声をかける。
「なあ、放課後ここ二人で行かね?」
「え、怖いよ…。というか寄り道だめでしょ!私は行きたくない!」
と真面目な性格を見せるアヤメに、キキョウは返事をする。
「怖いから行きたくないだけだろwwじゃあヒガンもつれていこうぜ。」
とキキョウは仲間を増やす提案をした。ヒガンはキキョウの幼馴染で、父母の顔も知らない、姉のフリージアに育てられた内気な男の子だ。
「ヒガンは絶対行きたくないって言うと思うよ…。人選ミスだねキキョウ☆」
とドヤ顔で返すアヤメに予想外の言葉が飛んでくる。
「ちょっと行ってみたいかも…。」
「「え?」」
アヤメはもちろん提案してきたキキョウまで感嘆の声を漏らしてしまう。ヒガンは内気ではあるが意外と肝が据わっている。
「よ、よし!じゃあ放課後三人でいくの決定な!アヤメ逃げるなよ!!」
キキョウが無理やり予定を確定させる。
「え~!ほんとにやだー!!」
アヤメが駄々をこねる。
「そこうるさいんだけど~!授業中に友達と話すとか青春すぎて私が嫉妬するからやめなさい!」
と謎の理由でナズナに怒られた三人は真面目に授業を聞くことになった。