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転生女子、プロデュース業ビギニング

作者: 安堂深栖

転生先の異世界で、幼い魔法の使い手トーマと出会いました。

トーマに転生者疑惑を確認するが…



ローゼッタ侯爵の令嬢メアリーズローズは王都に住んでいる。

メアリーズローズ───メイの父、ローゼッタ候は王国の法律顧問だ。


ローゼッタ家は、王家ではなく王国の為に働く。


為政者を選挙で選出する、選挙君主制の王国では数年単位で王家と名乗る家が変わる。

小国連合体が一つの王国になった時に、均衡を保つため

今は消滅した小国の有力勢力が王位継承権を獲得したからだった。

ゆえに、どの王家の治世の時代でも、王国専属での法律顧問が必要となった。


ローゼッタ家は法律家を多く輩出する一族である。

職業上の秘密が多く、しかもどれも極めて重い。

その為、領地を持たないが私兵の所有も認められている。


そんなローゼッタ家には『事情がある人物』が逗留する事がある。

事情で庇護を求める人々の為、ローゼッタ家は数多くのタウンハウスを所持していた。




 ◇




トーマは自分を預かってくれたローゼッタ家の令嬢メイに、

自身が魔法と呼ぶ術を一生懸命教えていた。

魔法が使えそうなメイに、魔法の練習相手になって欲しいからだ。


「タスクを指定したら発動条件になるトリガーを設定します。

 それで魔法の完成です。」

「タスクとトリガー」

「はいっ!タスクとトリガーです。」


トーマは魔法の使用が認められている、世界でも稀な地域で生を受けた。

生地のコルティナは魔獣が自然発生する危険地帯なので、

トーマの父、コルティナ辺境伯を筆頭に、討伐して他領へ拡散しないように封じ込めているからだ。


でも、トーマが魔法を使えるようになって、まだ一年も経っていない。

一般的には幼児と言われる歳なので、危険地帯に住んでいると知ったのも最近だ。


そんなトーマを一族は離籍しようとしている。

虐待とか不仲とかではなく、

一族は、トーマの能力ではコルティナで生きていけないだろうと思っているからだ。




 ◇




メイは困っていた。

王国は一部地域を除いて、魔法使用を制限している。

魔法を発動する方法を秘匿して、人類が緩やかに魔法を放棄している時代だからだ。


「全てじゃないですが、魔力を生成する事が出来る人はいます。

 メイさんも魔力を持っています。

 魔力は電k、えっと、エネルギーなので、

 そのエネルギーの方向性を具現化したい事に向けて使用すればいいのです。

 だから……」

「トーマ君、ちょっと待ってね。」


魔法発動方法なんて、これは()()()()()()()()()()だわ。

いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が正しい認識かも。


メイはトーマに魔法の使い手だと話してはいけないと説明した。

今いる王都では特にだ。


いくら国単位で魔法の放棄を推進しても、使用する為に発達した技術だから人類は簡単に手放せない。

いつの時代でも禁止基準を模索し、同時に禁止基準を搔い潜る方法を模索する。

合法、非合法問わずだ。


トーマの出自を知れば、一族から離籍されようが価値を見出す人間は幾らでもいる。

コルティナ出身者ではなく、コルティナの血族だから付加価値は幾らでもつく。

コルティナ家がローゼッタ家を頼ったのは()()だった。


もし、魔力が無くても黒髪銀目で約束された美貌がある。

これはトーマには教えなかったが。



「えっ?……そんな………

 ぼくは、僕はせっかく頑張って習得したのに───」


『練習しないと、忘れてしまいます……』と、しょんぼりする。


かわいい。


メイはほっこりする。

いや、違うそうじゃない。


この子、めちゃくちゃ喋るわ。

三歳か四歳だったような気がするけど。


まだ十歳にも満たないメイも子供だけど、これはなんだ。


メイの説明への理解度。

言葉のチョイス。


これはアレだな。アレに間違いないはず。

メイは結論付けた。


「トーマ君。キミは転生者かな?」


銀色の瞳を大きく見開いてトーマは言った。


「………テンセイシャってなんですか?」




 ◇




トーマは寝ている。

お昼寝の時間だからだ。

電池が切れたように話の途中で寝た。幼児はすぐに寝る。

いつの時代でも女性で転生し続けたメイは、幼児の生活を知っている。


メイは異世界転生者だ。

転生プロを自認する程に、地球で数多の転生を経験した。

前世の日本で百歳大往生を達成し、メイの第一部は完結した。

ついには異世界まで進出しているからだ。


「転生者は知らないか───」


トーマは転生者が分からなかった。

多分、転生者と言う名詞を知らないだけだろう。

例えば、その言葉を使うカルチャーに触れていないとかで。


メイは齢六十を過ぎて、サブカルの洗礼を受けたから知っている。

子育てが終わり、趣味を見つけて心豊かな老後を過ごそうと、楽しい事を探して色々と手を出し

行き着いた場所がサブカルだった。


孫を隠れ蓑にコミケにも行ったし、そこで取材も受けた。

ウケる。


そんなメイは、トーマが魔法の練習をしたい心境を察している心算だ。

トーマはコルティナ一族に残りたいと言っていた。


ただ、コルティナ家がトーマの離籍を視野に入れているのも理解できる。


トーマは住んでいたコルティナ家のコロニーで、新種の魔獣に襲撃されたからだ。


王都に住んでいるメイは詳しくないが、魔獣は多種確認されており

【新種】と言われるのは生体構成が判明していないか、討伐方法が確立されていない場合だ。


コルティナ辺境伯率いるコルティナ一族は『トライアンドエラー』で魔獣を解析し、

その【解析結果】がコルティナ領の大きな産業になっている。


そんなコルティナ家のコロニーで、トーマは新種の小型魔獣に襲撃された。

その時トーマは、その小型魔獣を単独(ソロ)で行動不能にしたらしい。


鷲掴みにして。


そこまでだったら『超つえぇぇぇッ!OH!ヘラクレス!!!』と、メイは心中で唸ったが、

魔獣は行動不能になる直前まで、トーマの生体魔力を吸収しようとして

トーマの両手に酷い火傷を負わせた。

後遺症や痕は残っていないし、トーマもケガ自体を覚えていないそうだ。


だが、こんな幼児が怪我をしたら、親は泣く。

いや誰が怪我をしてもツラいが、我が子ならもっとツラい。


一族はトーマに魔獣教育を施したが、研究者に向いていると決断したらしい。

身を護る術が無くてはコルティナ領では生きていけない。

コルティナ一族はトーマの生存率が高い方を選択したいのだ。




 ◇




メイはトーマの魔法教室を思い返した。


「僕の魔法は他の人と違うそうです。僕しか認識できない魔力を使用するからです。

 えっと、ある種類の魔力の塊を、情報を保存するサーバと名付けて具現化しました。」

「サーバ」

「はい、あと、名前をストレージとかにして保存するデーt…

 情報を分けています。」


前世で聞いたワードが並ぶ。


「スキャン…透視した情報をデータに構成してサーバへほぞn……、

 例えばコルティナの未到達地帯の情報を透視してサーバ保存、

 保存したサーバのデータをコピぺして地図を作ります。」

「突然のコピペ」

「?…こぴーあんどぺーすと。」


うん、絶対異世界転生者。


ただメイの見立てでは、トーマは絶賛混乱中の様子だ。

父からの又聞だが、最近まで魔法も魔獣の存在も知らなかったらしい。

おそらく

『ヨーロッパ辺りに生まれ変わったと思ったら、魔法?

 これは夢をみているのか??』みたいな心境ではないか。


なぜならトーマが睡眠から覚めたら、睡眠前の出来事を忘れている事があるからだ。

幼児あるあるだが。





 ◇




「魔法のぶっ放し(ブッパ)以外で、一番したい魔法の練習ってどれかしら?」


数日後、

王都に住んでいる限り、コルティナのように魔法を使えない事を納得した様子をみて、

メイはトーマに聞いた。


「ぶっ放しが出来ないんだったら、ぷろg…組み立てて発動する練習をしたいです。」


話を聞いてみると、トーマの魔法とは困った時にプログr…臨機応変に組み立てているようで、

発動のスピードや応用力を身につけたいらしい。


「タイマーを掛けるみたいにして、何かを起こす魔法を組み立てる事は出来る?」

「……どんな事ですか?」


『例えばね───』

メイはトーマにお願いしてみた。




 ◇




リヒターは王子だ。

現在、リヒターの兄が王太子だからリヒターの肩書も王子だからだ。

歳の離れた兄は次代のリーダーとして職務についている。


だが、この王国の君主は選挙制だ。

どんなに優秀でも、王位継承権を持つ家や選挙権を持つ有力者次第で

コロッっと引っ繰り返る。


実際、今の王とリヒターは親子ではない。

今の王の子息はリヒターの兄に王太子選挙で負けたからだ。

だからリヒターも王子の肩書がいつまであるか分らない。


そんなリヒターの憧れは王太子である兄……ではない。

先代王の弟君だった大公殿下だ。


そして、今日は王城で憧れの大公殿下とお会い出来るはずだった。



「えっ?大公殿下は来ないの?」

「はい、体調を崩されたようです。」


『そんなぁ……』と、リヒターはがっかりした。


でも、大公殿下にお会い出来なかったが、別の良い事があった。


ローゼッタ候が令嬢のメアリーズローズを連れて登城したからだ。

令嬢のメイは小動物のような愛らしさを持つ少女だ。

リヒターは王位には興味がないが、メイと結婚出来るなら頑張ってもいいかもと思っている。


「メイ様、それは?」

「はい、ちょっとしたクロスに刺繍をしてみました。」


一緒に登城した令嬢はメイの顔見知りだったようだ。

メイは小さめのテーブルクロスを持参したらしい。

料理が映えるようにと、クリーム色の布地に刺繍のクローバーが散らされた可憐なクロスだった。


はにかむようなメイの表情は稚い。



「今日は王城のスイーツが食べられるって、父に連れてきてもらいましたから。」


メイの言葉にリヒターは焦った。

そういえば、今日と同じ顔触れで───


それは二か月前の事だった。




 ◇




その日もローゼッタ候がメイを連れて登城した。

王国では、まだ十歳に満たない子息令嬢を数人づつ、日替わりで登城させる決まりがあった。

強制とまでいかないが、未来の王家の縁付など、人脈を広げる目的で

いつのまにか慣例となった決まり事だった。


そして、そんな日は持て成しも兼ねて、王宮のシェフ達が腕によりをかけてちょっとした

茶話会が用意されていた。


その日はメイが大好きな苺の入ったクロカンブッシュだった。

小さなシューを積み上げたスイーツだ。


メイはシューは置いといて、苺が大好きなのだ。


「ローゼッタ嬢、苺が入ったシューは別に用意していますよ」と、パティシエに教えてもらい

ウッキウキで応接室に入った。

前回登城した時、メイはとある子息の我儘に巻き込まれて、貴重なスイーツタイムのお預けを食らったからだ。

その子息はマナーを覚えるまで出禁になっている。



先に居たのはリヒターだけだった。


「ごきげんよう、リヒター殿下」

「やあ。……」


『ゴクリ…』と、何かを飲み込んで挨拶を返してきたリヒター。


そしてメイの用意された席には、なぜか空になった皿が残っていた。


空になった皿とは、何かが乗っていた痕跡があった皿だ。



なんだこれは。



「リヒター殿下」

「なんだい?メアリーズローズ嬢?」


「こ の お皿 は な ん で す の?」

メイは一語一語区切って聞いた。

苺だけに。


「───サァ?」


リヒターは顔を逸らして答えた。

メイに用意されていたクロカンブッシュを味見して、うっかり全部食べてしまったのだ。



 ◇



「前に登城した時はイチゴのクロカンブッシュでした。」


メイの声にハッと我に返ったリヒター。


「申し訳ございません、今日は苺はございませんが…」

「良いんですの。リクエストに応えて頂いただけでも。」


前回の事情を知っている執事がフォローするように答えた。

ほら、メイは優しい。と、メイの返答にリヒターは安心する。

そして『リクエストとはなんだ?』と疑問が沸いた。




出てきたのはクロカンブッシュだった。


「このクロスをお使いください」


メイがお手製のクロスを広げる。


クロスの上に乗ったクロカンブッシュをサーブしてもらう直前


「苺のクロカンブッシュは、どなたが召し上がられたのかしら?」


メイが小声で言った。



『───サァ?』と、リヒターは答えた。




 ◇




「そのクロスは何ですか?」


トーマの疑問に答えるメイ。


「例えば直前に嘘をついた状態で、このクロスの上にのった食べ物を食べると、

 ロシアンルーレットになって、しかも当たる魔法って出来る?」


メイの提案は、やけにピンポイントな内容だったが


『すごく具体的で出来ます!』と、トーマはすぐに組み立てた。




 ◇




「うわっ!す、酸っぱい!!」


強烈に酸っぱいクリームがリヒターの口の中に広がる。


『なんだよこれぇ』酸っぱいクリームに激しくムセる。

執事のロッチナが驚き、リヒターの介抱をしながら指示を出す。


「おい、毒見はどうした」

「問題なかったようです」

「美味しいですよ?」

「…えぇ、とっても。口直しにいかが?」


メイが毒見のように半分に切ったシューを取り分ける。


『メイが半分くれた!』とリヒターは食いついたが、もう半分のシューが乗った皿は流れるように執事へ渡される。


「うわっ!!辛っ!!!」


今度は痛いような刺激にリヒターは見舞われる。


「えっ?」

「ニオイはしません…おい、毒見役」

「いや、甘いです。なっ?」

「ハイ。普通に美味しいです。」

「えっ?」

「えっ?」


何度も毒見したシューを食べても、リヒターの分だけが色んなマズい味のシューになり

茶話会は終わった。


今回、メイは同席した伯爵令嬢のシャロンとお友達になった。

メイ曰く『こんなに辛抱強い子はいない』だった。


その後『どうぞ、お使いください』と、メイはクロスを置いて行ったので

リヒターは『きっとプレゼントだ』と、ドキドキしながら毎食クロスを使用した。


「なんだ、アスパラガスがガシガシだ」

「ポテトが生焼け」

「……このパスタの貝、ジャリジャリする」

「ステーキが冷たい」


食事の中の具材が一つだけオカシイのは三日間続いた。





 ◇




「トーマ君、素晴らしいわぁ」

「できてましたか!」

「えぇ、それに魔法の継続期間も絶妙よ」

「よかったです。おなかがすくのはツラいですから……」


メイの要望にトーマは

・対象者が一人前と認識した食事の場合は食材が一つだけロシアン。

 それはその食事の中で一番好物。

 (苦手だと克服しにくくなるから)


・一回の魔法発動の有効継続期間は、三日間のロシアンチャレンジ。


・チャレンジ期間中にクロスの前で嘘を吐き続けると期間延長。

 嘘を吐かなければ終了。


・チャレンジ期間中にクロスを使用しなければチャレンジ終了。


以上の縛りを加えた。


「そうね。成長期はツラいわね」


トーマはメイが実験台になってくれたのかと疑っている。


メイが『女の子って大変なの。ダイエットとか』と言っていたからだ。

でもダイエットで食事制限は危険だから、メイが考え直してくれればいいと思ったのだ。


「うんどうだったら、ぼくはメイさんといっしょにがんばります!」


魔法は魔力調整が難しい事と、トーマは魔力調整が苦手だからと何度も組み立てていたから

おそらくトーマは疲労していて眠そうだ。


今日のトーマはちょっと子供っぽい日だわと、メイは微笑んだ。






閲覧頂きありがとうございました。

楽しんで頂けたら幸いです。

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