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ラダミーア五路侵攻

 460.2.11〜

 アノザフ郡の奪還からおよそ三ヶ月…


 ノルテニアは17歳になったが、忙しく領内を駆けまわっていた。先日にはラダミーア王シヤルに唆されて反乱を起こした叔父のソーロ・ゼラム・サウゼンスを撃破し、ソーロを強制的に隠居させて従兄弟のユアン・ロウタス・サウゼンスを公爵家の当主に代えている。

 シヤルはノルテニア不在のうちにサウゼンス地方に様々な工作を仕掛け、ノルテニアの王即位に不満を持つ家門には巧妙に謀反を唆し、虚実入り混じった流言も広めて鉱石売買にも3割の手数料をかけたり、輸出入を制限するなどしてそれの効率を上げ、サウゼンス家臣団を徐々に疑心暗鬼に陥れてった。

 ノルテニアが戻り、外交交渉で抗議されてもシヤルはシラを切っていたものの、ついにノルテニアの我慢の限界が訪れてしまい、宣戦布告されてしまう。

 シヤルは突然の宣戦布告にかぶりをふっていたが、すぐに迎撃態勢を整え、地の利を生かしてサウゼンス軍を迎撃した。

 しかし、ノルテニアも無策で宣戦布告しておらず、密かにラダミーアと不仲なヴィンヘキル地方と北方辺境に根回ししていた。ラダミーア領に攻め入ったのはサウゼンス軍のみではなく、ヴィンヘキル地方からノスロー軍の狂笑将軍ヌウロタ・クシャゼリア率いる五百とバハカルン軍からスルタガ・ジギムン将軍率いる四百とカキャボから老練な将として勇名を馳せるマチェット・シュゼーリン率いる千人余がラダミーア領に侵入し、更に北から北方辺境異民族が戦争での漁夫の利を狙ってラダミーア領で一番実りのあるラダード郡に襲いかかる素振りを見せており、シヤルは戦力を分散せざるを得なかった。

 

 460.3.23〜4.2


 シヤルは用意していた切り札を順に切っていき、前々から進めて返答を保留していたカキャボの謀将バウロ・カリオスと重臣サエフィ家との婚姻を成立させ、バウロに重臣の娘であるミーア・サエフィを送り、カキャボ東部の主であるカリオス家と同盟してバハカルン軍の背後を脅かし、虚報を流してスルタガ・ジギムン将軍を撤退させ、ノスロー軍にはその背後の大勢力であるタスダンに燃料提供の約束に高品質のミスリルインゴットを送って同盟を延長。

 タスダン軍にノスローの背後を襲ってもらい、ヌウロタ・クシャゼリアを撤退させようとしたが、挟撃の報にヌウロタは「グハハハハ!ラダミーアめ笑止な!その程度の小細工で儂が退くとでも思うたか!」と笑い飛ばし、部下達が不安がっているとヌウロタは「国許には倅を置いておる、あれは軍神じゃ!タスダンが一万の軍勢で来てもビクともせぬわ!」と豪快に言い切り、部下達は迷いを捨て去ってヌウロタに追従。ヌウロタ率いる「笑う狂戦士」隊が狂った様に笑いながら突撃してきた。心底暴れるのを楽しんでいるヌウロタと笑う狂戦士隊にラダミーア勢は恐慌状態に陥り、まともにやり合っては甚大な被害が出るのは必定としてラダミーア勢はムトンの城に退却し、そこに籠城してヌウロタが素面に戻るまで耐えた。

 野戦で一気に蹴散らして帰るつもりだったのか、攻城兵器を持ってきていなかったヌウロタは二日程で城攻めを諦める。

 ヌウロタが諦めるタイミングでラダミーア勢は夜襲を決行したが、夜襲されて喜び暴れたヌウロタ達によって撃退された。

 陣払いしたヌウロタ達はムトンの城の周りに点在する村まで後退して二日程駐屯し、軍資金と兵糧の一部を迷惑料にと支払ってラダミーア名物の滋養強壮料理を食した。

 村の住人達は里帰りしてきたヌウロタ達を歓迎し、ヌウロタ達は積もる話もそこそこにしてノスローへと引き上げた。


460.3.18〜3.22


 ノルテニアに対してはガミダラ山脈にある迷路型砦にて迎撃する策を採用し、サウゼンス軍を迎撃して粘った。

 先の会戦と五路侵攻に慎重になったシヤルはしっかりと防備を固めて堅実に迎撃し、サウゼンス軍の挑発に対しては先の会戦で奪ったサウゼンス軍の旗を振って罵ったが、ノルテニアは「味方が既にあんなところにいるぞ!遅れるな!」と言い、士気が凄まじく上がったサウゼンス軍は猛攻を仕掛けた。


「おい!なんでそうなるのだ!?防げぇぇ!」


 慌てふためいたシヤルはすぐに防戦の命を下し、ラダミーア勢は懸命に防衛した。

 サウゼンス軍将兵にはシヤルが振った自軍の旗は味方部隊が本隊を出し抜いて戦功を独り占めしていると映っていた。

 サウゼンス将兵は「独り占めなんかさせんぞ!ふざけんなぁぁ!!」と怒号を鳴り響かせながら砦の壁を強引によじ登り…

「抜け駆け野郎!!早く門を開けやがれぇぇぇ!!」と怒号混じりに砦の門を力攻めした。

 シヤルはこれらの怒号に対して「この馬鹿どもがぁぁ!!」と怒鳴りながら防戦を指揮しており、砦の将兵は「勝手に勘違いするんじゃねぇぇ!サウゼンスの馬鹿野郎!」と怒鳴りながら奮戦していた。

 サウゼンス軍の怒りは凄まじく、疲れも眠気も忘れて砦を三日三晩攻め続ける程であったが、ラダミーア軍将兵もサウゼンス軍に対する怒りが凄まじく、こちらも一人一人が獅子奮迅の戦いぶりを見せた。

 城壁から突き落とされても突き落とされても受け身をとって何度でもよじ登ってくるサウゼンス軍将兵、攀じ登ってくるサウゼンス軍将兵をヤクザキックで蹴り落とし、岩で殴って落とすラダミーア軍将兵。

 どでかい丸太を持って何度も砦の門に突っ込むサウゼンス軍将兵、砦の門を裏側で補修しながら死守するラダミーア軍将兵…。


 サウゼンス軍の丸三日の猛攻に晒された砦はほぼ廃墟となり、シヤルはノルテニアに対して「冗談の通じない奴は何をしでかすかわからん…!」と声を枯らしながらぼやき、砦を放棄して防衛線を下げた。

 砦で奮戦していたラダミーア軍将兵は力を使い果たして満身創痍だったが、それはサウゼンス軍将兵も同じであり、後退するラダミーア軍を追撃出来なかったという。


 460.4.1〜4.3


 ノスローの背後を襲ったタスダン軍三千はノスロー南部のノールハイトの砦付近でヌウロタの息子であるラガナット率いる二百人の防衛部隊を捉え、攻撃を仕掛ける。積極的に奮戦して剣が折れた為にラガナットは敵が深追いする様にわざと動揺して逃げ去る。タスダンの強者達はラガナットを若僧と侮り追撃して誘引され、砦に通じる道で一番狭い山道に誘い込まれる。

 途中でラガナット達を見失ったタスダン勢だが、小勢がぶつかっては逃げ去るので勢いのままに進んでいき、登り坂の先にあるであろう砦に向かっていく。タスダン軍の陣形は狭い山道に従って長蛇の列の形状になっており、動きは極度に鈍くなっていた。

 タスダン勢が緩やかな登り坂に差し掛かり、タスダン勢の視界に映ったのは…縄で縛られた巨木の丸太の縦列であり、タスダン兵が叫んだと同時に巨木の丸太の縄が切られ、巨木の丸太が物凄い勢いで滑り落ちる。

 慌てて退避しようとする先頭に対し、先が見えない中後列は文句を言って先の部隊を押し出しながら進む。

 地響きが伝わった頃には既に遅く、巨木の丸太と横列を組んだ丸太はタスダン勢を跳ね飛ばし、蹂躙しながら滑り落ちていき、兵達は丸太を避けようとして林に退避したり、木に当たって軌道が変わった丸太に薙ぎ払われて吹き飛ばされたり転がったりして麓の雪原まで転がり落ちて雪だるまになったり、踏み潰されたりして餌食になるが、それだけでは終わらなかった。

 山陰に伏せていたノスローの伏兵がタスダン軍の頭上から油玉と火付石の石礫を射掛け、油玉が割れてできた小さな油溜まりに火花が飛んで引火すると、油が染み込んでいた巨木の丸太や他の丸太にも引火して枯れ木にも引火。火に包まれたタスダン兵は逃げ惑った。

 再び砦から巨木の丸太が切り落とされ、燃え盛る巨木の丸太に激突。次の瞬間にはそれにも引火して密集状態だったタスダン軍は二つ目の燃え盛る巨木の丸太に跳ね飛ばされ、激突の時に吹っ飛んできた燃え盛る丸太に薙ぎ払われ、火事に巻き込まれて混乱した。

 更にノスロー勢は鎮火の為に砦付近にある積雪の裂け目を目印に横列に並んだノスロー勢が一斉に飛び跳ねると、雪崩が発生し、タスダン軍の中軍は雪崩に呑まれて山の麓まで流されていった。

 タスダン軍先陣と中軍が騒然とする最中、雪崩に乗ってタスダン軍の背後に回り込んだラガナットと二十人の戦士が本隊を急襲したのでタスダン軍はますます混乱した。


 ラガナットとヌウロタが直々に鍛えた若き狂戦士達がタスダン軍の本隊を散々に掻き回し、タスダン軍の総大将ベルサはラガナットの巨剣に得物の大斧を弾き飛ばされて雪道を滑り落ちながら逃げ回り、ラガナットは雑兵のソリを使ってしつこく追撃。ベルサは逃げながら弓矢を放つがラガナットに全てキャッチされ、おかえしとばかりにラガナットは専用のミスリルの剛弓を展開。本能的に危機を察したベルサはソリを加速させるが、ラガナットの滑雪術は達人級であり、全く振り切れない。ベルサを捉えたラガナットは直感で矢を放つ。

 ラガナットの怪力で振り絞られたミスリルの剛弓から放たれた鋼の矢は幾多の木の枝を掻い潜りながらベルサに向かい、ベルサの右肩に命中してベルサはソリから吹き飛ばされて転がり落ちる。ラガナットがベルサにとどめを刺そうとした瞬間にベルサの部下達がラガナット達の前に現れ、ラガナット達は一撃でベルサの部下達の得物ごと身体を弾き飛ばした為に狙いが外れてベルサにトドメを刺し損ねた。

 ベルサの肩に深々と刺さった矢を遠目で確認したラガナットは追撃を取りやめて退却し、ベルサは部下達に担がれて退避していった。


 この戦いでタスダン軍は八百近い大打撃を被り、総大将ベルサもラガナットの強弓による矢傷が深刻。主だった将兵も悉くが怪我や火傷を負い、やむなくタスダン軍は副将の判断で退却する。

 ベルサは一命を取り留めたものの、激怒した国王に散々罵倒されて無能の意味である「ムーノン」の姓を名乗ることを強要され、敗戦の責任を取る形で棒罰三十回の後に将軍職と官位を剥奪されて謹慎処分とされ、二年は戦場に出る事は出来なかった。謹慎中…ベルサ・ムーノンは恥晒しとして家族に縁を切られ、周囲から「無能将軍」と馬鹿にされ続けたが、共に戦った同僚や部下達が庇い、精一杯励まし、面倒を見たのでベルサはなんとか再起できたという。


460.3.21〜3.24


 スルタガ・ジギムン将軍はバウロ・カリオスの計略に嵌って退路を断たれ、ラダミーア軍とカキャボ伏兵の挟撃にあって手傷を負い、命からがらバハカルンへと帰っていった。

 バウロの変心を伝え聞いたマチェットは妻の進言に従ってカキャボに引き返し、バウロはこれを追撃したがマチェットの対策を見て思いとどまり、追撃を中止して引き返した。


 460.3.25〜4.9


 ガミダラ山脈第一の砦を落としたサウゼンス軍は続いてガミダラ山脈第二の砦の攻略に取り掛かるが、予想以上の難路に進軍が鈍る。険阻なガミダラ山脈に設けられた数々の砦は天然の迷路と堅牢な自然の城壁に守られた…謂わば山脈全体が難攻不落の城であり、サウゼンス軍が突破したのは謂わば城門の一つでしかなく、奥に入った砦こそがガミダラ山脈が難攻不落と云われる所以であった。

先の猛攻で疲労の残るサウゼンス軍は難路で更に体力を削られ、疲労困憊で第二の砦の攻略は難しいと判断したノルテニアは第一の砦まで後退してそこに駐屯し、休息しつつ砦を補修した。

 サウゼンス軍の疲弊を見てとったシヤルは得意の夜襲に打って出たが、籠城戦の妙手であるノルテニアによって予測・対応されて防がれ、互いに深追いしなかったので互いに損害を与えられなかった。夜襲名人と呼ばれたシヤルが唯一夜襲が空振りに終わった一戦だった。

 ノルテニアは二日の休息で体力が回復したとしてガミダラ山脈第二の砦に攻撃を仕掛けたが、ラダミーア勢は堅守に務め続けた為に一週間攻めても落とせなかった。

 互いに有効打を与えられないまま、戦いは膠着状態に陥り、兵糧が心許なくなったサウゼンス軍とラダミーア軍はほぼ同時に講和の使者を遣わし、ノルテニアは謝罪とそこそこ多額の賠償と交易関税撤廃を要求し、シヤルは代わりに砦の返還を講和条件を付けるか迷ったが、ノルテニアがしでかしそうな無茶を懸念して堪え、潮時と捉えて謝罪し賠償金を払い、交易関税を撤廃する事で講和を結び、ノスロー、バハカルン、カキャボとも講和を結んだ。

 

 北方辺境異民族はラダミーア勢二千と睨み合いをしていたが、サウゼンスとラダミーアが講和を結ぶと、シヤルから食料と家畜を分け与えられたので毛皮とケヘテリから奪った雑貨や宝石などと交易して去っていった。

 

 シヤルはノルテニアの力量侮り難しと見てこれ以上ノルテニアにちょっかいをかけるのは得策ではないと判断し、速やかに講和の条件を果たしてサウゼンスとの通商を再開。対ノスロー、対バハカルン、親カキャボ、親北方辺境に方針を転換する。

 ノルテニアはラダミーア南部の開拓を文官にして側近だったメニルと十数人の文官武官に任せ、ガミダラ山脈第一の砦の守備を籠城戦で活躍したウレムザ武官と三百の兵に任せてサウゼンスに戻った。


 460.4.18〜4.29


 凱旋したノルテニアはヤージカルからの仲介の使者を丁重に出迎えたが、既にラダミーアと講和した後だったので使者に詫び、戦で変化したサウゼンス王家の所領とラダミーア王家の所領を記して事の次第を説明すると、使者は穏やかに笑ってノルテニアを高く評価した。

 続いてヤージカル帝王の第三王女ルミエとの婚姻の時期について話し合い、ノルテニアはまだ時期尚早として延期を申し出たが、使者は穏やかな口調で「ほっほ、ノルテニア王は気が早う御座いますな、互いに気持ちが通じて互いに納得できる時期になれば返答なさってくだされば結構です」と言い、ノルテニアはやや赤面した。

 丸め込まれそうにはなったが、ノルテニアは交際を推し進める使者のペースに呑まれずに話を進め、国内が安定し次第交際を進めると返答し、使者は渋々ではあるが国内の状態を見てやむなしとして納得した。


 一方、ラダミーアに向かった使者はシヤルに五路侵攻に対する手腕の鮮やかさや余計な講和条件をつけなかった事を褒め、シヤルの才略を惜しんだ上でこれ以上サウゼンス王家と事を構えない様に釘を刺した。

 シヤルは内心憤怒していたが、ヤージカル帝国を敵に回すわけにはいかず、使者達を丁重に持て成し、ノルテニアと連絡をとりあって使者達を安全に送った。


 首都ヤージカルに戻った使者達は帝王に仲介する前に講和していた事やサウゼンス王家との婚姻の進行具合の他、ノルテニアとシヤルの人となりを報告し、帝王はノルテニアをギスヴァジャを制したダヤット、シヤルをラダミーア王家の始祖ラダンに準えて評価した。

 この後、ノルテニアは「小傑将」(傑将は若い頃のダヤットの別名で、小はその者に近い、または匹敵するという意味)の渾名が付き、シヤルは「小北辺君」(北辺君はラダンの通称で北方辺境に君臨した雄主という意味)の渾名が付いた。


 しかし、ノルテニアはその渾名に苦笑いし、シヤルは喜び半分、恥ずかしさ半分であったが、ケヘテリ王トラシェは領土が隣接しているが故にノルテニアをますます恐れ、フィルノスローの王太子のヤテリは「俺はその上をいく!」とノルテニアに敵愾心を募らせつつ興味を持ち、ギスヴァジャの王太子であるテヘズはノルテニアとシヤルを過大評価としており「ノルテニアはギスヴァジャ建国の功臣のサズルと同程度で始祖様に及ばない、シヤルはゴバルの良将ダズアムに匹敵するが、先祖のラダン様とは器量が違い過ぎて及ばない」とした。庶長子のトマシュはノルテニアを雑魚とし、シヤルをカスとした。

エティホ王はシヤルを「先の会戦では尻尾巻いて逃げたのにのう」と皮肉りつつも祝った。



 

 

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