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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
第四章:A級許可証所持者『シグマ』

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第94話:工房の主

「さあ、見せろ。今すぐ見せろ」


 そう言いながら急かす樹は、今にも服を脱がしかねない勢いで冬へと迫る。


「ひっ! ちょっ! 見せますから待ってください!」


 ほんの数時間前に自宅で松に組み伏せられた恐怖を思い出しながら、自身の両手の全ての指についた指輪、肘と手首の中間辺りに装着されていた機械と、補助として隠し持っていた糸をすべてを外して机に置いた。


「この指輪から糸を出すのですね。てっきり、あの三人娘との誓いの指輪と思ってましたよ」


 姫も初めて見る冬の糸のカラクリに興味が出たようだ。


 スズにも上げてないのになぜ二人にも……


 なんて思ったし、十本全てに指輪つけているのだから、十人に指輪をあげていることに、とか言いたかったが、もう、周りのハーレム話にツッコミをいれても無駄だろうと諦めて説明を促す樹に見せていく。


「この機械に糸が内蔵してあります。その機械から指輪に糸を通します」

「この指輪から出るときに発射式になっているのか。興味深い」


 樹が片方の機械と指輪を装着し、具合を確かめるようにじろじろと見ている。


「指輪から出た糸を、指で操るのですが……」

「難しいな」


 樹が誰もいない場所を狙って糸を射出する。射出された糸はへなへなと飛び、地面にぽとりと落ちた。


「なるほど。だから貴方は地面に糸を放つのですね」


 糸を前に飛ばそうとすると、樹が行ったように簡単に落ちる。

 勢いをつけて投げないと全く意味がないのである。


 まずは地面に射出。床に垂らしておいて、そこから指を器用に動かして少しずつ指定の位置まで進ませ、勢いよく引くことで切り裂く芸当。


 ある一定の位置から持ち上げたり、角度をつけて曲げたりできるのは、冬が培った技術(ふしぎちゃんぱわー)である。


 勿論、扱いに慣れた冬なら、地面に垂らさずそのまま糸を射出して自由自在に操ることもできる。


「熟練が必要そうだな」

「これは他の糸でも使えるのですか?」

「目下練習中ですが、近いうちに」


 今はピアノ線――鋼線を使っているが、それは強度もあって重みも少なからずあるので、投げやすく、切れやすく、動かしやすい。


 これを毛糸でやろうとすると、樹が飛ばしたとき以上にへなへなになるのだが――


「型式を使って、強度をあげれば、何でも使えると思います」


 ――『縛』の型で強度を高め、『流』の型で滑らかに自在に動かせるように。そして、『焔』の型で、『疾』の型で切れ味と鋭さをもたす。


 そんなことを冬は考えていた。


 だがそれも――


「許可証を失った今は、もう意味ないんですけどね」


 思わず自虐的に笑みを浮かべてしまう。


「まあ、そこはどうでもいいな」

「どうでもいいですね」


 そんな冬に、二人は辛口だった。


「しかし……素晴らしい技術だな」

「あ、ありがとうございます」

「やはり、見せるべきか。……おいっ! 起きろっ!」

「「……は?」」


 いきなり誰かを呼ぶように叫んだ樹に、姫と冬はきょとんとしてしまう。


「……なにー? あたい昨日徹夜だったんだけど……」


 その樹の声に反応する声が二階から。


 まさか、他にも人が、と、二人は警戒する。

 冬はすぐに机に置かれた糸を。

 姫はすぐに牛刀を発現する。


「いいから早くしろっ! 凄いものが見え――? な、なんだ女狐っ、その武器はっ! ぉおぉいっ! 凄いの見れるぞっ!」


 姫の突如現れた牛刀に、樹の興奮が覚めてくれない。


 そして、部屋の端にあった階段から。

 こつこつと、降りてくる音が。


「さっき凄い音して起こされてやっと眠れたのに……」


 階段を下りて現れたのは、まだ若い少女。


 身だしなみにさほど興味がないのか、それとも寝起きだからか、髪は短くぼさぼさに爆発し、明らかに下着をつけてないタンクトップ姿と下部も下着一着だけ身につけた、眠そうな少女だ。


「なぁにー……?」

「おい、見ろ! 凄いぞ!」


 凄いのはあなたが呼んだ女性の姿です。


 なんて思いながら、冬は唖然とした。


 下りてきた少女に、姫の牛刀を見てまだまだ興奮覚めない樹が大声で叫び続け、少女は煩そうに両耳に指を突っ込んでやっと部屋内を見た。


「……」

「は、初めまして」



 見て。



 固まる。


「き、き……」


 「見ちゃダメですよ」と、姫が冬の目を隠した。


 冬としては、


 見ちゃったし、今さら遅いし。

 牛刀の刃が目の前に来るし。


 切れ味良さそうな牛刀に、動いたら死にそうだと、命の危機を感じていると。


「客が来てるなら先に言えぇぇぇっ!」


 何とも恥ずかしそうな叫び声が部屋内に響き、突如二階から現れた少女は、また二階へと、どたどたと逆戻りしていった。


「お、おいっ!?……なんだ? こんな素晴らしいものが目の前にあるのに……」


 なぜ戻っていったのか心底分からないと、不思議そうにする樹に、


「天然ですか」

「天然ですね」


 何もかも無視な樹のマイペースっぷりに。


 武器マニア。


 と。思う二人。


「まあいい。女狐。それよく見せてくれ」


 ずずいと姫に不用意に近づいてきた樹に、姫が「近寄るな下郎」と腹部に強烈な蹴りが突き刺さり、やっと樹は静かになった。











「いやぁ。つまらんもの見せて申し訳なーい」


 少し恥ずかしそうに話す少女は、先程とは違い、しっかりと服を着直して冬達の前に座っている。

 ぼさぼさの髪はしっかりと纏められたショートカットに。

 服装はタンクトップを隠すように急いで羽織ったであろう男物の長コートに、薄緑のスカートと、若干チグハグな格好ではある。


「で? あんたらはうちに来たお客さんじゃないと?」


 落ち着いた所で自分達をこの工房に訪れた客だと勘違いした少女に、自分達が何者かを説明すると、少女は一つ一つ確認するように質問してきた。


「はい。樹君についてくるよう言われて」

「で? あたいの安眠を妨害した凄い音はあんた達の仕業、と?」

「まさか。私は降りかかる火の粉を払っただけですよ」


 払っただけではあんなことにはならないんですよ、水原さん……


 鍛冶屋組合が支配する区域の一角を吹き飛ばした張本人は適当なことを言った。


「で? さっき裏世界中に流れた極悪の指名手配犯?」

「う……はい」

「……いっくん」

「なんだ?」

「なんちゅう人連れてきてんのさっ!」


 樹の頭をこれでもかと盛大に叩くが、樹は全く動じず。


「それよりもこれを見ろ」


 そう言うと、自分の腕についたままの冬の武器を少女に見せた。妙にうきうきとしているが、そんなにその武器を少女に見せたいのかと、何だか面白いものを見つけて話したがる子供のように見えて面白かった。


「それよりもじゃないで――およ? これ、凄いギミックね」

「だろう?」

「ほほぅ。ここがこうなって……あー、なるほどー。こういう繋げ方ねー」


 かちゃかちゃと。


 目の前でぱかりと、何の躊躇もなくアジの開きのように開かれた自身の武器に、冬はどう言えばいいのか分からず。

 樹も、見せたらすぐに奪い取られて目の前で解体するとは思っていなかったのか、驚愕の表情を浮かべている。

 少女も、どうやら、樹と同じように武器マニアの類のようだった。


 かちゃかちゃと。


「よく作れたわねこれ」

「作ってはいないが」


 かちゃかちゃと。


「じゃあ最近よく見る遺跡からの発掘品? 難解な仕組みだから納得できるわね」

「いやそれも違――」

「この機構の公開だけで最低百万はかたいけど。いっくん、売るならこの『焔柱工房えんちゅうこうぼう』で特許とるよ」


 かちゃかちゃと。


「いや、売らないが、というか俺は売れないが」

「なんでよ。折角見つけてきたんだし、ちょっとはこの寂れた工房と、この工房の主の為に何かしようと思わないわけ?」


 売るとか、勝手に話が……。


 冬が、目の前で解体されて原型を残していない相棒を見て、これはもとの状態に戻るのだろうかと半泣きになる。


「それよりも。元に戻せるのか?」

「はぁ? 戻せるわけないじゃん。これ作った人天才ね。あたいには無理だわ」

「だそうだ。すまん、冬」

「僕の、相棒……」

「……」


 少女は、目の前の机にばらばらに置かれたそれを見てから、冬を見る。


「俺が作った訳でもないし、見つけたわけじゃないぞ?」


 ぐるりと、隣に座る樹を見ると、一気に汗を流しだした少女に、樹は冬を指差し言った。


「冬の所有物だ」


 樹の説明に。





「す……す……」



 冬を見て。



 固まり。




「すいませんでしたぁぁぁぁーっ!」




 許可証を剥奪され。

 裏世界が敵となり。


 そして今――


「相棒……」



 戦う武器さえ、半分失った。



武器さえ失う冬。

災難続きです。

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