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第6話:試験開始


 人を殺しても罪にならないという魅力的な証明書のネームバリューに惹かれ、過去最高数の受験者――六百名の内五百名は、受かるはずもない選別を受け。


 裏世界からの、一時の『優しさ』の選別にかからなかった百名の中に選ばれ、冬はここにいた。




 冬のような何も取り得もない一般的な人物が、仮初めの受験会場に呼ばれなかったことには理由がある。


 冬の通う学園で冬自身は、授業も聞かず寝ていることがほとんどのため、やる気がないと周りから思われており、学園からはいわゆる落ちこぼれとして認識されている。


 運動音痴とも称されるお荷物の彼が、なぜそのような国家試験とついた試験の正しい会場を案内されていたかは簡単だ。


 皆の前では、猫を被っているからだ。


 本当は、運動神経抜群で頭も切れ、ほんの少し突出した能力を持っている。

 前日の、ファミレス前で和美達に見せた、陽炎のように消える力は、冬の突出した能力の一つだ。


 だが、そんな力は、本来の試験会場に集まった誰もが持ち得ている力である。


 この場にいる者が『力』と感じていたものは、一般的な『技能』であり、生きるためには当たり前の能力であり、表の世界では特殊な力として扱われるそれがなければ、生き抜くことができない過酷な世界。



 それが、裏世界の最低基準。


 その、最低基準を満たした百名が、この場に集められていた。


 許可証取得試験は、この百名で、今年は始められる。





 集まった百名から漂う異様な雰囲気に、冬はこれから何を行うのだろうと、喉を鳴らす。



 裏世界だ。その中でも、もっとも有名な許可証の試験だ。

 こんな猛者が集まることなど分かっていたことだ。


 自身が誰よりも力があると思っていた鼻をへし折られる気分を感じつつ、自分を奮い起たせながら一歩、エレベータから前へ進む。


 誰もいない場所を見つけ、壁を背にして立つと、警戒しながら、疎らに自由にしている受験者達を観察してみる。


 ほとんどの受験者は二十から三十歳台の年齢のように見える。

 よく見るとその中に女性も十名程いるようだ。

 四十歳台と思われる二名が今回もっとも年上だろう。少し離れた場所で屯してちらちらとこちらを窺っていた。

 冬と同じくらいの年齢と思われる少年達も数名程いるようだった。


 冬は自分以外の同年代がいることを心強く感じながら、今度は館内に目を向ける。


 目に見える範囲は、どこかから外の光が届いているのか、少しの明るさはあるが、奥は暗く、何も見えなかった。

 もしかすると更にその奥に受験者はいるかもしれないが、流石に遠すぎて見ることはできない。

 感じられないほどに気配を絶っているとしたら、かなり腕のたつ者だろう。


 気を引き締めるため、帽子を深く被り直す。


 四十歳台の二名は知り合いなのか会話をしているようだ。ひそひそと会話しているがよく聞こえない。


 ……聞いてみますか。何か情報があるかもしれないですし。


 二人の会話を聞くため、右腕の指をくいっと手繰るように動かした。

 冬の耳に、にやにやと笑いながら、こちらを見定めるように、周りに気づかれないよう受験者を指差して話している会話の内容が聞こえだした。


「(表が多そうだな)」

「(裏の人間が来ていないなら俺達にもチャンスはありそうだ。……特に、見てみろ。あの帽子の中国服の男……)」

「(ああ、さっき入ってきたやつだな? あの服、今日の為に新調したみたいだな。あれは駄目だ。試験開始したら狙って殺そう)」


 確かに初めて袖を通しましたが、殺すとは心外な。と、この試験の情報でもないかと聞いてみたものの、意外とどうでもいい話だったことに軽く落胆して指を再度動かした。

 あの二人に実力があったとしても、これからどんな試験があるのかさえ分からないのに殺すと言われて、素直に殺される冬ではない。


 殺しにかかってくるなら、逆に撃退させてもらいましょうと、二人の顔を脳内に焼き付けておく。


「さて」


 冬が聞き取りを止めてすぐ。

 奥の真っ暗な闇に光がぱっと灯った。


 そこには、男が一人いた。

 黒いスーツに身を包んだ短髪の初老の男だ。


「この度は、殺人許可証試験会場にお越し頂きありがとうございます」


 初老の男が受験生全員に向けてゆっくりとお辞儀をした。

 間もなく試験が開始されるのだと感じた冬は、辺りに違和感を感じて気配を辿ってみる。


「一年に一度。毎年、試験会場や試験日が変わるこの証明書は、世界で一番取得が困難な証明書。そのような試験にこれだけの人数が集まって頂き、嬉しく思います」


 違和感の正体は辺りを囲む人だ。

 どこにいるのかは分からない。ただ、敵意はないように感じた。

 どちらかと言うと、こちらを見定めるようなそんな気配。


「一年に一人か二人。それが、ここ何年かの合格人数ではありますが……さて、この中で今回はどれだけの数が残りますか、楽しみでございます」


 どうやら、目の前の初老の男は、試験官のようだった。


 ……そうなると、この周りの方も、試験官ということでしょうね。


 辺りの気配は受験者より多いわけでもなく、数人に一人程度が割り振られているようにも思える。


「では早速ではございますが。一次試験の説明を行わせていただきます」


 意外とあっさりと試験開始になるものだと、試験官の言葉に、これから開始する試験内容を聞き漏らさないよう集中していく。


説明もあっさりと。

試験は開始される。

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