第83話:女子会 2
前回のあらすじ
姉暴露。
冬達、貞操の危機。
冬の自宅の寝室。
その部屋は、驚きと、叫びの後に訪れた沈黙に支配されていた。
「よろしくねー」
その沈黙を破るのは、沈黙を作り出したピュアだ。
「え、だ、だって。冬ちゃんって、お姉さん探してるって」
「だから私も驚いてるんだってばぁ!」
「そ、そうですよね。だったら確かに、水無月先輩の驚きもわかりますし、先輩がなんで気づいてないのかと……」
「だからさっきからおかしいって言ってるんだよぅ!」
やっと状況を理解した二人に、責める様に言うスズを見て、美保が和美より先に気づいて動き出す。
「だったら、早く先輩に伝えてあげないとっ!」
リビングへと向かおうとして――
「だから、それをしないで欲しいのよー」
――雪に、その動きを止められた。
「ど、どうしてですか? 先輩はあんなにもお姉さんを探して……」
「美保ちゃん。多分、何かあるんだよ」
今の状況を冷静に判断する和美が、雪と同じく美保を止める。
「雪さん、教えてください。なんでこんなこと……」
スズも、なぜこんなことをしなければならないのか、雪から聞いて、納得できなければそのまま冬に伝えるつもりでいた。
「ん~? 貴方達が、裏世界を舐めてるからよー」
返ってきた答えは、到底納得が出来るものでもない。
三人は裏世界を知らないのだ。
辛うじて知っていると言える和美でさえ、裏世界へ行ったこともなければ、殺しが蔓延する世界だと言葉でしか理解していない。
冬や松、瑠璃。そしてピュアもシグマも。
この三人以外のそこにいる殺人許可証所持者達は、その許可証の通り、殺人を経験しているということさえ、実際に見ているわけでもない為理解しているわけでもない。
あくまで、彼女達は、『一般人』なのだ。
「さっきから言ってるけど。私はS級殺人許可証所持者。つまり、裏世界でもっとも強いとされている人。であれば、私のことを疎ましく思う人もいれば、殺したいと思っている人もいるってこと」
「でも……だったら、一緒に……」
「あのねぇ……スズちゃん? 私だって、やっと見つけた弟だよ?」
その言葉に、スズは、冬だけのことを考え、雪のことを何一つ考えずに発言していたことに気づく。
「会いたくなかったわけじゃないんだよ?」
雪も、冬を探していたのだった。
裏世界で実力者となった雪。
周りに頼れる仲間もでき、いざ唯一の肉親である弟を探そうとしたが、なぜか冬の情報が見つからなかったのだ。
それもそのはずである。
冬は、枢機卿にハッキングできるほどの能力を持っている。
自分自身で経歴等の改竄も、消し去ることも可能だ。
「もぅ、ほんっと、大変だったんだから」
両親に売られてから。
たまたま、今は旦那となった常立春ことシグマが、気まぐれに雪を購入したことで自由が出来たものの、まだ売られて間もない時は力もなく、探すことさえ出来ず。
自分のように売られている可能性の高い弟を、必死に探し保護しようとしても、何も情報が出てこないし、その情報さえも調べることができない。
出来ることは、毎日のように奴隷市場に通っては弟が売られていないか確認し、もし売られていたらシグマに自分と同じように競り落としてもらい、その市場そのものを壊してもらおうと思う日々。
まったく売りに出されないことに、安心していいのかどうか分からず。
表世界へ戻るために力を養い、死んでいるのではないかと、裏世界で自分の命を狙う輩に八つ当たりする日々。
冬を探す為に都合のいい殺人許可証を手に入れ、表世界で冬を探しても見つからず、気づけば誰よりも高みへと上ってしまい、更に仕事に忙殺される毎日。
もし死んでしまっていたら私はどうしたらいいのかと、弟について不安を吐露すると、ある日を境になぜかニヤニヤする現旦那。
何かあると思い、最後の手段として枢機卿をとっちめてみたら、実は自分と同じく殺人許可証所持者になってました。なんて、そりゃ分かるわけがないと、知っていたシグマを折檻する毎日。
意外と強情な枢機卿に、やっと居場所が特定できたので弟のことを調べていくと、周りには可愛い女の子もいれば、スズという《《誰よりもよく知っている》》女の子と付き合いだして。
《《危険に晒される可能性》》が高くなってきたことに気づいて、スズに自分の正体を枢機卿経由で伝えて。
ちょっと挨拶がてらに顔を見に行こうと思ったら、今度は旦那が凄腕の情報屋に狙われれる始末。
シグマの情報が漏れれば、必然と雪の情報も漏れてしまう。
それは、雪がシグマと共に複数人で今行っている仕事に影響を与えることなので、必死に隠し通すために色々画策。
逃げ切ったと思えば、今度は同業者であり友人である水原姫に拉致られて、更には『紅蓮』にも連れて行かれてまた行方を晦まし。
戻ってきたことを感知した為聞いてみれば、どうやら型式を覚えていたと言う。
そうなると、ラムダとしては《《アレ》》が起きるのだから、これは祝わないとと、一年越しにやっと出会うことができたのだ。
で、来てみたら、妙に人はいるし、一般人もいるし。
元々正体を明かす気はなかったので『幻惑』を使って隠していたのに、なぜかスズには『幻惑』が効かず、驚いている様からこりゃまずいと思い――
――今に至る。
そんな苦労をしていたなんて、三人は知る由はないが、少しはこちらのことも考えてみて欲しいとも思わなくもない、雪である。
「雪さん……ごめんなさい」
「いいのよー。お姉ちゃんは弟がこんなにも可愛い子達に囲まれてるってことが嬉しいからー」
そういうと、雪は三人の頭を満遍なくにへらと笑いながら撫で始めた。
妙に温かみのあるその撫で方に、兄妹のいない三人は、この人は本当に姉なんだ、という想いが出てくる。
「だからね。私はずっと危険な状況だから。冬と姉弟だって知られると、冬も危険な目に遭うし、貴方たちも、バイト先の子達にも被害がでちゃうかもしれないの。だから、まだ教えちゃだめなのよー」
皆のことを考えて自分の正体を隠す。
……一部、嘘ついちゃってるけど。
なんて思う雪とは違い、三人娘は、そんな雪に、辛い気持ちでいっぱいだった。
自分達は、やはり冬の枷になってしまっている。と認識してしまうほどに。
「あ。でも。冬が上位ランクに来たし、皆の事守れるくらいに強くなることが出来たら、教えるつもりだよ?」
「それは、どの程度ですか……?」
近づくことが出来たなら。
それを皆で手伝ってあげればいい。
強くなる手伝いはできない。であれば、支えることくらいはできるかもしれない。
これから裏世界のことを知り、何か自分達でも冬の手助けができるのでないかと、三人は顔を見合わせ、互いの意志を確認して頷く。
「ん~? せめて私まで辿り着いたら? じゃないと死んじゃうよ? 私が相手にしてるのって、旦那でも死んじゃうかもしれないくらいすんごいからっ」
それは。
無理ということではないのかと、思わず三人は思ってしまった。
そんな三人を、雪は楽しそうににこにこと見つめていると――
「……おや? おやおやおや~? ふふふ~ん」
「「いきなり何!?」」
――雪は、誰かが家の前に来ていることに気づいた。




