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第5話:裏世界への入り口

ここより本編が始まります。

裏世界でどのような出会いと戦いが彼に待ち受けているのか少しずつ更新してまいります。


 都内某所。

 そこでは大々的に殺人許可証試験の取得試験が開始されていた。


 試験内容としては秘密にされているものの、表の国家試験として発表されている限り、受験する門は広く開け放たれている。


 殺人許可証という仰々しく怖そうな名の証明書の取得に、興味本位の者もいれば、本当に手に入れようと赴く者もいる。


 そんな名前とは裏腹に、第一次試験は筆記テストだった。

 某所のビルの中に集められた受験者何百という人は、複数のフロアに分けられ高校受験や大学受験のように在り来たりの机と椅子が置かれた指定の席につかされ、テスト用紙を配られる。


 配られた用紙に書かれたことはなんてことはない。一般常識について書かれた、マークシートのテストだ。


 別の用紙に小難しい問題がずらっと書かれていて、興味本位で受けた受験者はテストを見た瞬間に、こんなものかと鷹を括ってすらすらとマークシートにチェックをつけていく。本気で手に入れようとする人も、その問題にほっとし、次々に問題を解いていっているようだ。



 だが、これは、罠だ。



 そもそもが、裏世界という秩序のない世界で、一般教養の知識等は必要がない。

 あればそれでいい程度であり、表の教養は全く持って通用しない世界なのだから。


 ここで受ける受験者は、すでに篩いにかけられた受験者のみが集められている。

 興味本位の者であったり、理由があって本気で取得しようと考えているが、力がなく裏世界ではすぐに淘汰されるだろうと、事前に判断された者だけが集まった、落ちこぼれに対する形だけの試験だ。


 だが、そんな篩いにかけられた者にも、チャンスは与えられている。

 マークシートのある一定の規則の文字を並べ替えていくと、本来の受験場所の住所が表示される仕組みだ。


 これに気づけるか、が、彼等にとっての最終選択となる。


 それに気づけば途中退室も許されているのだが、それに気づかずのうのうとテストを受けている者は、テスト終了後に別の部屋へと通されることになっている。


 その別の部屋に通された愚か者は、後ほど活用されることになるが、それはまだ、この結果とは違う別の話だ。





 和美と今度デートをする約束をした次の日。

 首都圏内に有数のビル郡が立ち並ぶ場所に、冬はいた。



 平日の大通りを行き交う会社員に気づかれないよう、ビルとビルの間をすり抜けて、ビル街の中にぽつんとある古びた民家の前に行き着く。

 年代のかかったその民家は、言ってしまえば、「昔から駄菓子を売っていそう」と伝えれば浮かぶであろう外観だ。


 実際、駄菓子は販売されている。冬は店内に入って駄菓子を一つ手に取った。


 比較的若い男性がレジ裏に座っていることから、店員であろうと判断した冬は、レジに出した駄菓子とポケットから出した案内状を見せると、更に奥へと進むように案内され、男性の横を通り過ぎて奥へと進んでいく。



 ここが本来の受験会場だ。



 この国家試験の本会場は、普通の人には知らされることはなく、ある一定の条件を満たした受験者のみに、本来の会場を知らされている。

 一般的に表の国家試験として知られてはいるが、殺人を許可される証明書を取得するための試験であり、先のように受験会場に難なく入れること自体がおかしいのである。


 あくまで表ではなく、独立国家としての『裏』へ行くための国家試験であり、そんな簡単に取れるようであれば苦労はない。

 なぜなら、裏世界は、観光気分でいける場所ではないからだ。



 案内された奥へと進むと、重要文化財として登録されていそうな古い民家には似つかわしくない、何の変哲もないコンクリートのような灰色の壁が現れた。

 何の素材で出来ているのかさえ分からないその壁に、エレベータがある場合のお決まりの上下のボタンがある。


 冬は少し考えた後、下へ向かうボタンを押した。


 すーっと音もなく左右に壁が開き、円柱状の人が二、三人入れる程度の小さな部屋へと入り込む。


 壁が音もなく閉まると、その小部屋はゆっくりと落ちていく。

 エレベータがこのような古びた民家の奥にあることがおかしいのだが、先ほどのボタンは上に上昇するボタンがあった。


 あくまで民家である。

 外から見て、周りにビルはあるが、上昇できるような場所は、それこそ見えない何かがあれば上がれるのだろうが、何もなかったのは覚えている。


 上に上がるボタンを押してしまえばどうなっていたか。


 天井を見上げてみると、天井には鋼鉄と思われる針が幾重にも突き出されていた。

 じっと見つめていると、その針は先ほどと同じようにすーっと音もなく左右から現れた壁の向こうへと消えていく。


 恐らくは、上を押していれば、冬が今立っている床だけがあがり、そのまま勢いよく串刺しとなっていたのであろう。

 このような適時の状況判断も、許可証取得には必要なものであるという証拠である。



 冬はそのまま、先ほど開いた壁とは反対側へと向き、何もない場所をじっと見続ける。


 まだ試験の入り口に立ったに過ぎず、まだ始まってもいないのだ。

 だが、冬にとっては、裏世界に向かう目的の為の一歩を踏みしめることができた。

 ほんの少しの安堵のため息が冬の口から漏れる。


 どれだけ落ちていくのか。まるで地獄の底へと落ちていくかのような不安感が襲い始めてきた頃。



 目の前の何もない壁が透明になり景色が変わった。


 自分達の住む大地の下は空洞という説や、まるで異世界のような世界が広がっていると説を唱える者がいたが、ここはまさに後者であろう。


 そこに見えた景色は、地下とは思えない光景。

 煌びやかに黄金色に光り輝く世界だった。



 天井は明らかに土塊つちくれである。壊れることのない岩盤のようにごつごつとした硬そうな天井だ。

 その天井は、ライトのような辺りを照らす物がついているわけでもなく、岩盤そのものが光を出しているかのように、世界を常に光り輝かせている。


 その下に広がる世界は、自身の目に映る領域だけで言うなら、不思議な世界という言葉がまさにそれであろうという光景が広がっていた。


 どこまで広がっているのか分からない程の広大な世界。


 遥か遠くに見える、天井まで届きそうな大樹。エレベータは更に下へと降りていくが、それでもはっきりと全貌が見えない程に巨大な木である。

 その大樹の周りには森が広がり、自然と共に共存しているかのような世界だった。


 エレベータの最下層であろう場所を見ると、大樹へとまっすぐに、近未来を彷彿とさせるドーム状の通用口と思われる道が森林地帯の先まで続いているかのように伸び続け、通用口の左右には様々な家屋が乱立する。


 和風なものもあれば、西洋風の家屋もあり、統一性がまったくない。


 改築に改築を重ねているような、巨大なビルのように家屋がくっつけられた場所もあれば、貴族が住んでいそうな大きな屋敷もある。

 壁と思われる岩盤からにょきっと生える、ファンタジー世界にありそうな太い大木をくり貫き、まるで異世界のエルフでも住んでいそうな住居もあれば、ドーム状の通用口と同じく、近未来的な何の物質できているのか分からない家屋も所々に点在している。


 工場のようにもくもくと煙を出す工業用に使われているであろう企業用施設のような場所も一箇所に塊のように存在した。

 その中には、煮え滾る溶岩のように赤い光を出す大きな炉が丸出しとなっていて、まるで鍛冶屋のような家さえ見える。


 それら全てが、先の天井から永遠に神々しく光り輝き照らされ、まるで夜を知らない、異種族さえ住んでいそうな、桃源郷のよう。


 そんな世界を見た冬は、ここはまさに異世界だと感じていた。

 表とは違い、多種多様な文化を一纏めにした、独自の文化を築いている、独立国家。



「……これが、裏世界……」



 やっと見ることのできた、これから冬が取得して活躍するであろう世界の光景。


 そこへ――自身の目標に確実に一歩ずつ近づいていることに。現実味を帯びてきたことに、冬は目の前で見ている光景が最後の光景にならないよう、気を引き締めていく。


 やがて、再度透明だった壁が終わり、元の何もない壁へと変わった頃。

 エレベータはゆっくりと軽い上下の振動の後に止まり、冬が見ていた先が、音もなく左右に開いていく。


 その先は、先ほどの光輝く世界とは違い、薄暗く。


 百名程の同じく本来の受験者であろう人物達が、体育館程の広さの部屋で警戒しながらばらばらに立って、試験開始を待っていた――



これからも読みたい、続きを見たいという素晴らしい方がいらっしゃいましたら、ほら、下にお星様がいくつか並んでおりますよ。

☆をこう★にしてもらえるのなら、励みになります。

是非、よろしくお願い致します!


初日の更新はここまで。

明日から1日2話ずつ、9時と12時または18時あたりに更新できたらいいなぁって思ってます。

思ってます。はい。

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