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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
第三章:B級への道

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第72話:紅蓮浄土 1


「さて、と。大体わかったかな?」


 バスケットコートのあるその体育館ほどの広さの部屋に、走り疲れきって床に倒れこんだ冬と、それ以上に動いていたのに疲れた様相を見せないにこにこ笑顔の弓がいた。


「流石に……110点も取られたら否応なしにわかりますよ……」

「君も最後に2点とったじゃないか。あの動きはよかったよ」


 いや、それもそうだが、今はそんな話で分かったかと聞かれたわけではないと冬は疲れきった上半身を起こして弓を見た。


「この動き……いずれも、型式を使っているってことですね」


 常に動き続けるその俊敏な動き。

 その動きは、普通の人が起こせる範囲を超えた動きだ。

 あまりの早さに、目に止まらない動きといえばいいのか、結局は目が慣れても最後まで姿を捉えることはできなかった。

 一瞬の静止等は見ることはできたが、それこそ、弓が手加減をしている証拠であるとさえ思える。


 『疾』の型で動きを補強し。


 一度抜かれたと思ってそちらに動き、ロールして目の前に動いて反対側へと向かうその動きも『疾』の型を使って起こした動きではあるが、冬に起きたその後の足のもつれは、地に足を縛られているようだった。


 『縛』の型で地に縛り付けてもつれさせ。


 最後にセンターコートから、無理な体勢での矢のようなロングシュート。

 あの後も何度か行われた狙い定められたそれは、いくら見えていたとしても、あまりの速球に、捉えられることはできなかった。


 『焔』の型で純粋な腕力を強化して、バスケットボールを野球のボールのように高速で投げる。


「分かったようでなによりだよ」


 超常的な動きにさえ見えるこれが型式の力なのだと理解した。

 『流』の型は見ていない気もしたが、弓の疲れていないその様子に、自己治癒力を高めているのであればそれも納得できた。

 言われてみれば、上位所持者である姫に遊ばれた時も姫は疲れていないように見えたが、『流』の型を使用していたのだと冬は考察する。


「とはいってもね。日常的に使うなんてことは滅多にないんだけどね」

「……でも、弓さんは……今も使ってますよね?」

「おや? よく分かったね」


 何度も何度も目の前で見せ付けられたその力。

 弓をよく見てみると、うっすらと違和感を感じる程度ではあるが、力の行使がされている雰囲気を感じ取った。

 途中から弓の体から溢れる力が、一定の間隔で流れていく気配を感じ、それを先読みしてみたところ、反撃に転じることが出来たことを思い出す。


「君は空間把握能力――イメージに長けているんだろうね。そうなると……」


 それは奇しくも。

 冬は力を欲して鍛えた、空間把握能力があったからこそ気づけた微量な気配だった。

 弓も、まだ型式を使えない冬に自分の力を先読みされてボールを取られると思っていなかったので、その瞬間の動きには賞賛したのだった。その後は力を更に使って圧倒的なまでに冬を翻弄したのはまた別の話だ。


「では。この力はどのようにして、覚えるのでしょうか」


 気配のように感じることはできる。

 だが、それが自分がどのように会得すればいいのかは分からない。

 現に今も、見えたからといって、その力は冬が使えるとは到底思えない代物だった。


「簡単だよ。一度見てみる、食らってみる」

「……は?」

「単純なんだよ? だって、この型式ってさ――」


 そう目の前で、先程と変わらない笑顔を見せていた弓が、ひゅっと、そこにいなかったかのように目の前から消えた。


「――使われたら、普通、死ぬんだよ」


 ぴとり。と、

 背後から銀色の鈍い光が首元に添えられていた。


 瞬きさえしていないにも関わらず、目の前から瞬時に消えたと思えば、背後で刃を向けてくる弓に、その声に。

 一瞬で、自分は殺されてしまう程の力の差があるということを理解してしまった。


「使われたら最後。生き残れない。……当たり前でしょ。殺人許可証所持者の専売特許だよ? 誰でも使えたら裏世界はもっと混乱するし、表世界に会得者が出ちゃったら何でも出来ちゃうでしょ」


 すっと、刃が離れていき、息が止まっていたことに気づいて、一気に肺が酸素を求めだした。


「一撃必殺。この型式を覚えるには、一度食らって、生き残ればいいんだよ」

「そ……それだけ?」

「それだけ。見たり、食らったりして生き残っていれば。その後は自然に覚える土台ができる。君は……きっかけがあればすぐに会得できる領域まで自身を高めていたみたいだけど」


 座ったまま振り返って背後にいる弓を驚きながら見る。


「君の場合はよく見えていた。普通は流れなんか見えないんだよ。だから後は、きっかけだったのさ。これで、僕とのバスケを通じて四つの型を君は会得できるようになった」


 そう言われても、やはり体に何かの変化があったとは到底思えなかった。

 その気配が何なのかさえ、冬には理解できない。


「後は、実践あるのみだね」

「実践……?」


 背後にいた弓は、ゆっくりと歩きながら冬の前まで来ると、手を差し出してきた。


「君は『指に火を灯す』とイメージすればできるはずだよ」


 手を取り立ち上がった冬の前で、弓は人差し指を立てた。


 人差し指ではなく、弓の体の中心部から力のような流れを感じとった。

 あくまでそれは気配の流れではあるが、その小さな流れは、体の中心部から腕を通って指先へと流れていき、弓の指先からぽんっと火を灯す。


「こんな風にね?」


 あまりにもあっさりと。

 目の前で起きたその現象に、冬はやはり信じることができない。

 だが、不変絆といい、姫といい、弓といい。こうも何度も見させられると、それが自分にも起こせてしまうのではないかと錯覚してしまう。

 ふっと火を消して、「ほら、やってみなよ」と急かす弓に習い、冬も人差し指を立てて力を込めてみた。


 冬の人差し指は、ただぴんっと力が入って真っ直ぐ伸びるだけで、何も変化は起きない。


「力を込めるのではなくて、そこに自身のイメージを乗せるんだよ」


 イメージ。

 今度は先ほど力を込めた時のように。力ではなく、イメージを乗せていく。

 自然と、指先に意識が集中されていき、体の中心部に火をイメージして、その火を指先に集めるように火を灯すということだけを考える。


「いい感じだね。あ、自分が燃えるなんて意識しちゃだめだよ?」


 そんな余裕はない。と思わず口に出しそうになったが、弓が言うように指先が少し熱くなった気がして更に集中していく。



 燃える。

 指先だけに集まるように。



 小さな火を。

 ライターの火を思い出しながら、自分の手をライターだとイメージしていく。


 しばらくすると、冬の体内で力が生まれ、体の中で蠢いていく。その力をゆっくりと指先へ流し込んでいく。


 やがて、

 じじっと。

 焦げるような音が聞こえた。


「……出ました」


 冬の人差し指の頂点に、火が灯った。

 それはかなり小さな火だ。

 言ってしまえば、指先が光っているかのような、その程度の小さな火。


「ほら、出来た」


 気を抜くとすぐに消えてしまいそうなその火。実際に、気を抜いたらすぐに消えた自身の指から漏れ出ていたその火は、熱くはないが人体から発火していることが不思議だった。


「これは……なんです、か?」


 信じられない。

 冬はそんな気持ちに支配された。

 弓がいくらその土台を作ってくれる為に見せてくれていたとしても、その自身の指から出たそれは、明らかに火だった。


「君が産み出した火だよ」

「いえ。それは……」


 分かっているのだが、分かっていない。

 自分の身からでたそれに、説明を渇望する。

 薄い紙でも乗せればそれこそ燃えてしまうような、煙草を押し付ければ煙だして吸うことだってできそうな。幻覚でもないことは冬自身が理解できてしまっていた。


「パイロキネシスって知ってるかい?」

「……火を発生させる能力のことですか?」


 その言葉は知っていた。

 人体発火現象や、火を操る特殊な能力を持つ人の力として、小説や漫画等でみたことがあった冬は、その力を思い出してみる。


「人体発火現象がパイロキネシス能力者の暴走した力だってのはファンタジー的にあるけども、実際にそれで事故は起きたこともあるんだよ」

「……それが、この力、と?」

「そう。もし、その力を自在に操ることが出来たとしたら。いくらでも火事を起こせちゃうね」


 そういう問題ではない気がすると冬は弓の言葉に呆れた。

 だが、そうだとしたら。


「……だから、先程、自分が燃えるイメージはするな、と?」

「正解」


 何をやらせているのかと絶叫しそうになった。前もって言ってくれないと、それこそ死んでしまうじゃないかとさえ。


 弓が自分のことをイメージ力が高いと評価していたことを思い出す。

 火を出す時に体内で火をイメージしたが、自分が燃えるイメージをしていたらそれこそ人体発火していたのではないかと思い、今更ながらに恐ろしくなった。


 やはり、裏世界の人は何を考えているか分からないです……。


 そんな感想を弓に持ちつつ、冬の型式会得は続く。




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