――過去の想いを胸に――
プロローグがこのお話で終わります。
ほのぼのは終わり、次から試験が始まる――と、いいなぁ……(?
大好きな姉がいなくなった。
いつも通り、低血圧な姉を起こしに部屋に入ると、姉はそこにいなかった。
近くの高等学校に通う姉は、いつだって眠いそうだ。
起こすのはいつも僕の役目で。
起こした時に姉さんがぎゅっと抱きついてきて、「おはよう」って言ってくれるのが何より僕は好きだった。
平日ならまだしも、休日でも起こさないと眠り姫のように寝続けている姉だ。
そんないつも眠いと言っていたが姉が、自分で起きるはずがない。
僕は不思議に思い、父と母に聞いてみた。
二人はしばらく、僕から目を背け。
まるで、僕が二人に対して、言い難いことを聞いたようだった。
僕は、同じ質問をくり返す。
「ねえ、お姉ちゃんは?」
しばらくして母が急に泣き崩れ、フローリングの床に座り込む。
「冬。お姉ちゃんの事は忘れなさい。もう、会えないんだよ」
父の口からそんな言葉が出る。
まだ小さかった僕は、その意味がわからなかった。
姉さんはいつか帰ってくる。
そう思い待ち続けた。
でも、姉さんは帰ってこない。
帰ってくるはずがないのだ。
なぜなら、姉さんは
この親に、売られたのだから。
姉さんを探す毎日。
どれだけ探しても見つからない姉さんを、必死に探した。
時には人の多い駅前で「探しています」と写真つきのチラシを配り。
時にはネットを駆使してアンダーグラウンドの世界へ迷い込みながら。
常に唯一の肉親である姉さんを探す毎日。
小学生から中学生の間の年月は、僕の人生は姉さんを探し続けた毎日だった。
気づけば、周りに親族は誰もいなくなり、今は一人。
それでも僕は、姉さんを探し続けている。
姉さんがいなくなったあの時。
漠然と、感覚的に感じていたことを今にして考えてみる。
僕に、愛をもって接してくれた両親はいただろうか。と。
怒りに任せて常に姉さんを探す毎日の忙しさに考えることはすぐに止めてしまったが、姉さんの行方に心当たりがついて落ち着いた今なら、不思議に思える話だ。
姉さんを売った両親は、僕が姉さんを探している間、常に家にいた。
仕事をしているようにも見えない両親は、一体どこから生活するための生活費を手に入れていたのだろうか。
血が繋がっていなかったのではないかと思えるほどに、淡々と僕達二人の世話をしていたようにも思う。
だからこそ、姉さんがいなくなったあの日に流した涙は嘘だったのだろう。
それこそ、次に売る僕への情を誘うためのものだとさえ思える。
そんな、金のなる木である子供。
奴らの欲を解消できるだけの子供達。
姉さんは人当たりもよく、綺麗な人だった。
だからこそ、僕ではなく、姉さんを売ったのだろう。
さぞかし高く売れたに違いない。
そうでなければ、三人となったこの家が不自由なく裕福に暮らせるわけがないのだ。
そんなことに気づかず、姉さんによって作られた資金で生きてきたと知った僕が、せめて姉さんを見つける為に動こうとしたのも必然だったと思う。
……いや、ただ、姉さんに会いたかっただけかもしれない。
そして、僕が売れないと気づいた親が、僕の前から姿を消したのもまた必然だった。
いつかは自分も売られるのではないかと怯えた日々も、今では懐かしく思う。
奴らは、僕が彼等を売る手配をしていた僕に気づいたのかもしれない。
姉さんと同じ目に合って、自分達が何をしたのか分かればいいとさえ思っていたのに、あの二人は忽然と姿を消した。
自分ではばれないようにしていたつもりだったが、どこかでその情報が漏れたのかもしれない。腐っても、奴らは表の世界の人間ではなかったから。
表で人身売買は違法だ。
だが、それは表の世界であれば、だ。
あいつらは、裏世界に通じた小悪党で。
その裏世界に姉さんは売られたと分かった僕が、あの親を裏世界にアクセスし同じことをしようとして、また今も裏の世界へと足を踏み入れようとしているのだから笑える話だ。
蛙の子は蛙という言葉があるが、まさにそれではないだろうかと思えてしまう。
とはいえ、色々調べていくうちに知ったことは、彼等は僕の実の親ではない。
僕も姉さんも、彼等にどこかから連れてこられた孤児だった。
本当の親がどこかにいるのかもしれないが、それは深い場所を調べても、見つけ出すことはできなかった。
僕は物心付いたときにはすでに傍に二人がいたから分からないが、姉さんなら知っているかもしれない。
彼等は、表世界から裏世界へ、人を売って利益を得る『運送屋』という仕事をしていた。
ごく稀にある神隠しや行方不明者の類は、運送屋が裏世界へ流しているからこそ起きているのも少なからずあるようだ。
だからこそ、僕らを売ることには何も躊躇はないのだろうし、どこかから連れてきた子供であれば痛くもない。
他にも大勢の人を、裏世界へ送り込んでいたことも分かっている。
その裏世界へ送り込まれた中の一人が、姉さんだ。
「……嫌な夢……見ましたね」
今日から始まる僕の一大イベント。
そんなイベント前に見た過去の夢。
自分の目的の再確認と、まだ裏世界へと逃げ込んだまま戻ってこない彼等への復讐心が再燃した。
裏世界へ行く目的は二つ。
姉さんを売り、逃げるように消えた親であった存在へ、売れなかった子供の片割れが他の売られた子供達のためにも天罰を与えること。
売られた姉さんを探しだし、助けること。
僕は今日のために購入した服に袖を通した。
普段着なら誰もこの国では日常的に着ていないであろう中国風の黒い服と、自分の顔が見られないように自作で用意した、鍔が広く長い黒い帽子。
これから裏世界で生きることになったら、この姿で生きていこうと決めた、裏世界だけでの僕の姿。
顔を隠すだけなら仮面を付けるべきだったかもしれないけど、仮面なんて尚更怪しい人すぎて却下した。
これでも世間的に着ていると恥ずかしい格好だが、だからこそ、知り合いが見ても僕だとは誰も思わないだろう。
「さてと……行きますか」
裏世界へ行く方法。
姉さんのように『運送屋』に連れて行かれて家畜として連れて行かれる方法もあるが、それだと身動きが取れなくなる。
裏世界へ行くには、もっとも簡単で正規なルートがある。
行くなら、『権能』という、文句を言われない力を持って行くほうが動きやすい。
僕がこれから受ける、
『表』の国家資格。殺人許可証取得試験。
これを手に入れることが正規なルートだ。
独立国家として世界的に認められている裏世界。
裏国家最高機密組織『高天原』が表の世界から裏世界へと誘うために発足し、裏世界の均衡を護る為に作った許可証。
法律の通じない無法地帯。そんな中から殺人を許可される証明書を持つ者を輩出すれば更に混乱を極めてしまうからこそ、表から誘致することで均衡を保つ。
法として存在する、殺人許可証所持者。
これを手に入れ、裏世界へと向かい――
二つの目的を達することが、僕の、今の生きる目的だ。
冬がなぜ裏世界へ向かうのか。
明らかになってきたところで、プロローグが終わります。
動機が終わり……動機って書くと動悸ってでるのですが、この漢字を見ると動悸息切れと脳裏に浮かんでしまうのでそろそろ救心飲むべきなのか?と思ってしまう私。
なお、冬が目指す理由について、カクヨムさんのほうでは「理由が弱い」と診断を受けました。
例として、世界を救うとかあればもっといいのではないかというお話でした。
大丈夫です。世界救うために頑張るはず、ですよ? きっと。
そんなお話、これからも見たい、作者を応援したい、べ、別に応援したいわけじゃないんだからねっという方がいらっしゃいましたら★様を入れて頂けますと励みになります!