第64話:悪だくみ
前回までのあらすじ
和美、美保、一年の間に裏世界に入り込んでいた。
「話を戻すけど」
店内の片付けをしてないことに、香月店長に叱られて去っていく三人の背中を見ながら、楽しそうに笑顔を向ける瑠璃がまた話を戻しだす。
「……どうやら、僕達のそれぞれの目的に進展がありそうでね」
目的。
瑠璃が言ったその言葉に、松と冬は瑠璃を真剣に見る。
「わいらの目的ってことは……」
「そう。僕たちの目的は、似てるでしょ?」
「それが、これから起きる何かに?」
「うん。……今度、大きな仕事がある」
冬と松は、気持ち瑠璃へと近づいた。
「大規模な殲滅任務があるんだけど、それが特殊な場所で行われるみたいでね」
「任務? どんなんや」
「いえ、その前に。その場所が関係しているってことですか?」
「どちらかって言うと……目的に近しい情報が得られるかもしれないってことかな」
「ほぅ……」
「君たちの目的。まだ変わってないよね?」
冬達の目的――
「僕は、売られてしまった姉を探すためです」
冬は、『姉を探す』という目的の為に裏世界へと身を落とした。
それは今も変わらず。スズも皆も協力して探してくれていることに感謝をしている。
そして。
冬が皆に自分の目的を伝えた一年前。
瑠璃と松がどうして殺人許可証所持者となったのか、話を聞いていた。
「わいは、家族が死んだ真相を知る為。後、復讐やな」
松は、表世界に何不自由なく暮らす、平凡な一般家庭の家の出だった。
ある日家に帰ると、家族全員が惨殺されているという状況に見舞われ、松自身も意識不明の重体となって生死の境を彷徨ったらしい。
らしい、と、断言できていないことには理由もある。
松自身、目を覚ました時に記憶の大半を失い、自分に家族がいることさえ忘れてしまっていたからだ。
家族全員にかけられていた莫大な生命保険によって自分には家族がいたと認識できる程度の記憶しかなかった。と冬は聞いている。
ある日。なぜ、家族は揃って殺されることになったのか、自分が生き残ったことに意味はあるのかと考えるようになった。
行き着いた先は、全世界の全ての情報を網羅していると噂されていた、裏世界。
そして、裏世界の許可証協会が有する、枢機卿に行き着いた。
枢機卿なら、家族の死について、何か知っている可能性がある。
なぜ、松がそこまで必死になって知りたがっているのかにも、もちろん理由はあった。
人から聞く、家族構成。
父と母、姉と弟と自分。
ありきたりな家族構成でもある中で、焼死体として発見されたこともあり、誰が誰かは分からないまま、墓の中で彼等は眠っている。
その数は、三人。
自分以外にもう一人、誰かが生き残っているのだ。
だからこそ、松は、生き残ったその家族が、家族を死に追いやった犯人ではないかと考え、真相を知りたがっていたのだった。
「……話を聞きましたけど、まだそうと決まったわけでは……」
「い~や。間違いないで。絶対にそうに決まっとる。それ言うなら、冬。あんさんも、自分が売られたわけやないのに親に報復しようとしてるのも変やで?」
「……それは、そうですね……」
冬のもう一つの目的。
これはスズには伝えていないが、松と瑠璃には伝えていた。
『姉を売った、親に報復すること』
すでに冬の元から逃げた親である。自身の身を守ったことで終わらせてもよかったのだが、それでは姉が可哀想だ。
だからこそ、姉に代わって、親に報復する。
それが、冬のもう一つの目的である。
「そいや、瑠璃は――」
「僕は、行方不明の兄を探すため、だね」
瑠璃は生まれも裏世界で、住居も裏世界にある。
物心付く頃にはそこに捨てられていたと瑠璃は冬達に話していた。
そんな瑠璃には、兄がいた。裏世界では珍しい、血の繋がった兄だ。
裏世界では、血縁同士が生き残るために殺しあうことも多く、家族とあらゆる意味で離れ離れになることも多い。あらゆるベクトルに通じた力が、ある一定数なければ生き残れない世界である。それは、金であったり、純粋な力であったり、能力であったり様々である。
そんななか、物心付く頃というからには、まだまだ小さな子供であった家族二人で生き残り続けていたのは、奇跡に近い。
だからこそ、情が深く、兄を探していたのだった。
塵芥の猛者に溢れかえる裏世界で、たった二人で生き続けていたからこそ、瑠璃は許可証試験のときに、他の追随を許さないほどの成績で許可証を取得し、そして前代未聞のB級殺人許可証からのスタートだったのだと、その話を聞いて冬は納得していた。
そして、弟がそうであるなら、その兄も。
圧倒的な強さを持ち得ていた。
そんな兄が、行方を晦ましたのには理由があるはず。と、瑠璃はそう考えている。
瑠璃からしてみると、自分程度の力の持ち主が、今もこうして生きているのだから、兄が死ぬわけがないと信じているのである。
「……考えないようにしてはいましたが。境遇は似てますよね」
「そやな。もしかして冬、あんさんがわいの家族の生き残りだったりしてな」
「そうだったら復讐の対象ですよ。それはないです」
「い~や、もしかしたらあんさん、わいの弟かもしれへんで?」
「「それこそない」」
三人が三人。
家族のために、裏世界へと身を落としていた。
あまりにも似ているその境遇に誓い合った一年前。
だが、協力して仕事をしながら情報を得ようとしているが、成果は思わしくなく。
なぜか、どこにも情報がないのだ。
冬も、以前見つけた姉の名前から、再度探そうとしたが、冬が探そうとしたからか、急にそれは見つからなくなり、八方塞がりの状況となっていた。
これは自分にも問題がある、と冬自身も思っていた。
以前見つけたとき、許可証所持者ともなっていないのに、冬は枢機卿にアクセスし、そして、枢機卿のデータの一部を破損させている。
その時に消失してしまったとしてもおかしくはない。
だからこそ、知っていそうな枢機卿に聞いてみたのだが……
『……あ゛?』
といわれる始末である。
瑠璃と松から聞く枢機卿は、大人しく従順に情報だけを渡してくれるそうなのだが、こと冬の枢機卿は冬には厳しい。
ツンでデレさんな枢機卿に、冬も手を焼いているのだが、時折スズと仲良く談話しているのを見ると何も言えなくなるのが辛いところである。
むしろ、スズと仲良くするのなら自分とも仲良くして欲しいと目下思っている冬であった。
とはいえ。
「僕らの探し人の全ての情報が、枢機卿さえ持っていないというのはおかしいよね」
冬の姉だけならまだわかるのだが、松と瑠璃のほうも、なぜか枢機卿は情報を持っていないのだった。
何か大きな力が動いている。そこに行き着くのは比較的早く。
それを知るためにはランクを上げる必要もあったのだが、すでに上位ランクとなった瑠璃でさえ、情報に辿り着けていない。
三人は、それぞれが探す家族が、裏世界に深く関わっているのではないかと疑っていた。
特に、枢機卿さえ黙らせることの出来る程の力を持っている、とさえ。
だからこそ、枢機卿に見つからないように、秘密裏に動く必要があり、このようにファミレスで密談をしているのだった。
幸いここには、裏世界でも有名だった情報屋と、その見習いのような新米もいる。
情報には事欠かない。
「で、どこやねん、そこ」
「その仕事の場所に、何かあるってことですね」
「……世界樹」
瑠璃は、裏世界の象徴である、大きな大樹の名を出した。
「……あそこには、裏世界の禁忌と、隠された情報があるのは間違いない。じゃなかったら、僕が許可を申請したときに断るわけはないからね」
「……月読、ですか?」
世界樹の管理者、『縛の主』。その主が過去に作った人体実験施設『月読機関』。
そこには、当時関わった裏世界の上位ランカーが口を閉ざす秘密があることはわかっていた。
何があったのか、何をしていたのか。
人体実験をしていた程度にしか情報がなく、その結果許可証協会により取り潰しになったという情報しかない、謎の機関。
「そう……今度、その場所に近しい場所に潜伏している、大きな殺し屋組織の殲滅任務がある」
そして、世界樹は現在。
管理者不在と言われるその近くは、許可証協会の名のもと、入ることができない不可侵の森と化している。
「……入るには、チャンスってとこやな」
「そういうこと。時期が来たら君達を僕の指揮下に配属するように動くから」
「……殲滅任務を無視して、そこに向かう、ですね」
許可証協会に上位ランカーが許可を得れば、ある一定の場所までは近づくことのできるその場所は、冬や松には辿りつけない場所であり、上位ランカーとなった瑠璃も、許可をまだ得られない場所であった。
「うん。皆で行こう。月読機関で何があったかも、知りたいでしょ?」
「その前に、何とかランクあげれたらのぅ」
「時間もないし難しいでしょ。条件満たしてないし。逆に条件を満たしたら二人ともB級にあがれそうだけどね」
少しずつ、前へと進める。
そう冬は感じるとともに。
まさに、和美が先程いった悪だくみであった。




