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第454話:紅蓮となりて 2


 苦労坂を苦労なく上った弓の前に広がる光景。

 唐明大社。

 目の前に広がる境内に、弓はただただ感嘆の声をあげた。


 なぜなら。


「雪、ばかりで、埋まっているね」


 許可証を所持してから地方にも赴く弓である。

 豪雪地帯ともいえる場所にも赴き一面真っ白という雪原をみたこともある弓ではあるが、廃村だからであろうか、


 誰も来ることのない村の奥であるからこそ、

 人の手が入っていない小高い山の上であればこそ、


 積もりに積もった雪は境内を侵食し。境内だけに留まらず、拝殿の入口さえも雪で埋もれるこの状況に、流石に驚きを隠せなかった。

 誰かが一年に何度か来ているということから、少しは綺麗にされているのでは、なんて希望もあったものの、ここに至るまでに歩いてきた道がコンクリートで固められた道に雪がなく、左右に雪の壁ともいえる雪が腰辺りまで積もっていたからこそ、誰かがこの大社も清掃――この場合は雪かきをしてくれているのだろうと思ったのだが、その思いは、今そんなありがたいことはない、ということを物語る。

 なまじ、ここまでくる道や苦労坂と呼ばれる階段は雪に埋もれていなかったから境内もきっと雪がないはず、と思っていたところも、期待を裏切られた感もあったのだろう。


「……まあ、僕が勝手に期待したことだから、いいんだけどもさ」


 弓がため息交じりにそう言うと、弓の周りに『赤』が可視化した。

 弓の周りで常にたゆたい、弓を太陽と見立てれば、それはフレアのように揺らめき動く赤。

 そこに赤がある。そう思わせ、気配として具現したその赤は、弓という男のコードネーム『紅蓮』を象徴する赤――『焔』の型が発動した結果である。


「こうやれば簡単に消えるしね」


 『焔』が。

 『紅蓮』が。


 それらが意味するのは、火、または炎。

 弓が腕を振るったその腕の軌跡をなぞるように、ほんのコンマ秒の遅れを伴い現れるは、その言葉の通りの炎である。


 辺り一面を焼き尽くすかのように一瞬周りを赤く染めた炎は、じゅっと音を立てて降り積もった白を消し去り、本来の境内を弓の前へとさらけ出す。


 まるで大雨に打たれた直後の快晴。

 そんな雰囲気さえも見せる境内は、弓の炎に空さえも焼き尽くされたのか、雲間から見える太陽に照らされ、雪解けの水を照らして輝きを放つ。



「うん、綺麗な神社だね」



 鎮守の森に囲まれた境内。輝きを放つその境内。拝殿まで続くこの道こそ、まさに神域。神がおわす領域であるとさえ思える。

 まっすぐに伸びる綺麗な石畳。その左右には定期的に灯篭が置かれている。今はその灯篭は辺りを照らす光を放つのではなく、雪解け水をざばざばとぴちゃぴちゃとその穴から垂れ流している。

 石畳から枝分かれするする道の先には、誰もいない社務所や今も流れる手水舎がある。手水舎はこの大社を囲む山々の自然の水を引っ張っていると思うと、より弓の心はこの神社へと惹かれていく。社務所も立派である。それこそ一家族が住めるくらいにはしっかりとした、家、である。整理整頓されて綺麗なものであった。それこそ、人がここに立ち入った時にそこで寝泊まりしている痕跡があるからだろう。


 人のいない場所に神は棲む。

 それは、このような厳かな場所で、静謐ともいえる場所だからこそ、そして冬という空気が澄み渡る季節だからこそ、よりここに神がいると思わせるなにかがそこにあった。


「……本命は、もっと奥。裏の禁域、そして山を登った先にある中腹の神域になるんだろうけどね」



 人が訪れることが許されている場所まで。

 それがこの拝殿であり、幣殿である。

 本殿は更に別の場所。

 裏手に回ると見えてくる注連縄で封印された山道。その山道の先にある


「神域……。本来は境内を指す言葉だけど。……神が本当に住まい、封じられているそここそ、神域だよね……よく隠していたもんだよ」


 隠れていた。

 隠されていた。


 誰が隠したわけでもない。誰も隠したわけでもない。

 ただ、そこが廃れてしまっただけ。


 過去あったと言われる一つの物語が関係しているという。


「この大社が封じていた神……天津。その天津の復活を止めようとした者たちと、止めれなかったことによる弊害。――一つの村の崩壊で済んだ、というのは、まさに僥倖ではないのかな」



 神と人の戦い。

 そこに何があったかまでは分からない。弓がいくら探しても、それは見つけることができなかった。

 ただし、人が勝った、というところだけはわかっていた。

 なぜなら、その勝った相手が、裏世界でも高名な相手――『縛の主』夢筒縛であったからだ。



「人が神と戦い、そして撃退した。とても素晴らしいことじゃないか。これはぜひとも、ここでその秘密を知ってみたいところだけども。『縛の主』本人に聞いてみたらいいのだけども、彼と会うのは困難なところは確かだからね……」


 弓は、拝殿の横を抜け、奥へ。

 注連縄の巻かれた鳥居の前へと立つと、そこにあった石碑を見つめて、注連縄の先に見える山へと視線を移した。

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