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第451話:いつもの二人の帰り道


 神域。


 騒がしいと思っていた拝殿から移動して、縛は一人そこに立っていた。

 家族同然である大人数であった仲間達と別れると、幾分寂しさがあった。血の繋がりや家族というものはいいものだと、今まで一人で活動してきたからこそ再認識した縛である。

 それは、ほんの少し。昔を思い出して感傷に浸ってしまったからということもあったのかもしれない。


「……変わらぬな」


 奥にある洞窟はいまだ暗闇を携えている。神域を守る木々――鎮守の森は神域を護り続けるかのように、静かに、地域特有の寒さに櫃々とその場に佇んでいる。


 だが、変わっているものは、あった。


 縛が家族のために作ったコテージは先の冬と国津の戦いにおいて、『紫光しこう』によって破砕され跡形もなくなっていた。

 やり直し前においても、相手は違えど、冬と天津による『紫光』の削りあいによって破砕し、最終的には吹き飛んでいたコテージであるが、『紫光』に因縁があるのではないかとも勘繰りしてしまうものである。とはいえ、やり直し時の神域は、映像でのみ見ていた縛である。その映像にコテージが映っていたかはよくよく見ていないと分からないであろうから、縛からしてみれば初破砕ではあるのだが……。


 元からそこには何もなかったから、何も変わらないと自分が言った呟きに正統性を持たせると、「誰に聞かせるのか」と自虐的に笑った縛は、『万物創生』で再度コテージを同じ場所に創り出した。最初に創り出したときは、その場にある大木をいくつか代用したが、元コテージだった残骸を使うことで初建造の時に比べて幾分楽に創ることができた。

 体を貫かれて応急処置をした体にはありがたかった。さすがに自身の家族に連なる若者達に『縛の主』と呼ばれ、その昔に神を倒したなどと騒がれていては、痛がることもできない。


 治ったにしても、精神的にもそこにまだ何かが突き刺さっているような感覚を覚える。

 肉と肉が裂けて鉄の塊のようなもので体を引き裂かれたのだから致命傷であることは間違いなかった。

 『焔』の型で筋肉を締め上げ、『流』の型の自然治癒の活性化で締め上げた筋肉をくっつける。


「斬られた、抜き取られた、と認識しなければ、もう少しましであったかもしれぬな」



 意識しているからこそ、治りが遅い。

 それほど衝撃的であり、忘れえぬ数時間であったと縛は思う。

 この痛みが、本当であった、ということを意識づける。長年共にいた、内部に封じ込めていた分霊がいなくなったことも。封じ込める力が使えるようになったことで幾分元の力を取り戻せたのが救いである。


「お主の子は、雪も冬も、お主似であったぞ。樹は……すまんな、我似であるのだろう、あれは」


 縛は、神域の元からあった建造物の前で中腰になって呟く。

 目の前にある建造物は、縛自身が作った墓だ。そこに埋葬されているのは最愛の女性、皇夏。


 そこにいると信じて語りかける。

 夏はすでに死んでいる。

 それは縛自身よくわかっていることであった。なぜなら、死んで二つに分かれた夏を拾って骨としてそこに埋めたのが縛であるからだ。



「お主の血は、これからもずっと、あやつらの中で生きていくであろうよ」



 自身が作った墓を慈しみをもって撫でながら、縛はふっと鼻で笑うと立ち上がる。

 その墓の中に眠る妻の血と自分の血が混ざる、自身の子である樹。その樹に何がしてやれたかと考える。自分が出来たことは裏世界での生き方。そして生き抜く方法。それらを教えることはできた。だが、親として何かが出来たかと言われるとまた別である。こういう時、夏が共にいれば、と思うところでもある。


「惜しむらくは、樹にしっかりとすべてを伝えられなかったこと、であるか」


 自身の力の根本はぎりぎりではあるが教えることはできた。『縛の主』も樹が引き継ぐこともできた。世界樹の管理もついでではある。

 だが、その『縛の主』を名乗ることができる力――『仙』の型を、樹がもっとも習熟が遅かったのが悔やまれるところだった。

 だとしても、先に進むための道しるべを、父としては与えることができたと思うと、少しは子として扱えたのではないかと感慨深かった。


「まもなく、ここに、宿敵が来る。あやつも、何があったかは知らんが傷を負って動けぬようであるな。……果たして勝てるか」


 神域の奥。洞窟の暗闇を見ながら、縛はこの場に近づいてくる気配を感じ取る。


 忘れもしない。

 圧倒的な力を持つ化け物であり、自分から妻を奪った相手であるのだから。



「天津……お主とは、因果なものであるな……」



 思い出す過去。

 いくら相手を追い返した、と言えど、それはあの存在と同等、それ以上の力を持ち得る仲間達が傍にいたからであり、今その仲間は声をかけてら来てくれるであろうものの、縛と天津が激突し時間を稼いでも、負けた後であるとも推測していた。



「逃げてみるのもまた一興」



























「来る前に逃げちゃえば?」















 そんな声が聞こえたのは、すぐそばである。


「……夏?」


その声は、聞き覚えのある声。縛にとっては忘れることがない、最愛の妻の声だ。

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