第441話: 訪れる災厄
「……難しいな」
樹とチヨ、和美と未保は、それぞれ少し離れてそれぞれが縛の教えの通り実践してみるが、樹サイドは思うようにいかなかった。
先ほどの話を聞いている限り、長年型式を使っていることで先入観が強く現れてしまい、より『仙』の型が遠ざかってしまっているということかと樹は思った。
凝り固まる。
という言葉がある。
この言葉こそ、型式を使い続けたことによる、今の樹たちの弊害を現す言葉として適切なものはなかった。
長年使うことで、慣れていく。それが当たり前となっていく。殺しあうにあたっては、自身の型式を知られないために色を隠す。隠すことで不特定多数に型式使いだと思わせなくする。または型式使いであるにも関わらず型式を見せないことで警戒させる。
そのような使い方をしていくのが普通であった。
隠す、という部分では、押し込めるという意味で今の『仙』の型に通じるものもあるかもしれない。
だが、まったく違うことであることは確かである。
知っているからこそ、『仙』の型への到達が遠のく。
理不尽だ、と樹は思いつつ、ため息をついた。
「普段使っている型式の色。そして型式をどのように捉えていたかで、やはり差は現れるものであるな」
「そういうものか?」
「そういうものであるな。ほれ、あの二人は純粋にひよっこの力になりたいと思っているだけであろうて」
和美と未保は、すんなりと第二段階まで進んでいた。
それは二人がまだ型式初心者であったから型式への先入観も薄かったからということもあるかもしれない。
自分よりも縛の後継者に相応しいのではないかと、少し拗ねてみたい気もする樹である。
縛は言う。
「長年型式を使っているとな、これは凝り固まってしまって、出来ぬのであるよ」
自身の経験談であろうか。自分がこの『仙』の型を使うことに苦労したからこその言葉であった。
「……ああ。色をどう捉えていた、か……。確かにそうかもしれんな」
「色と捉えた時点でできぬと思うであろう。型式というものは自由である。自由であるからこそ、その型と式に囚われて自由を失うのであるよ」
「縛さんもそうなったのかな、かな?」
「……なったな。うむ、なった。思う存分にな」
「ほほー。それはどうやって解決できたのかな、かな?」
にやりと笑いながら縛から情報を引き出そうとするチヨ。型式そのものが事情があって使えないチヨである。せめて情報として仕入れておきたいというのが本音であった。
「……うむ。もちろんそれは、夏――我の嫁のためであるな」
「う……うん……?」
だがしかし。
そこから縛がどれだけ夏ことを愛しているかという点を。そしてそこから夏への話へとつながるとも思っていなかったチヨは、見事に墓穴を掘ることになる。
そこから、縛がいかに夏のことを大事にしていたのかという話が始まろうと――
――した、ところであった。
「う……ぅぬぅ。驚きで、動けぬ、とは」
ほんの少し。それこそ数秒というレベルでの争いがそこに起き。
縛の体から、紫の剣が、突き出された。




