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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
第十二章:絶望を乗り越えて

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第437話:『仙』の型 4

すいません。

本話の途中、なにいってるかわからないかもしれません。

 ぶるぶると震えだした体を、必死に抑える。

 怖くて逃げだしたいなんて思ったのは初めてだった。


 縛を怖いと思うことはない。

 だけども、今この目の前にいる縛ではなく、縛の纏うその力が怖かった。


「最後に――」


 縛がそう言うと、暴風は鳴りを潜めた。

 それこそ、本当にそこに力の奔流があったのかと思う程に、静かに。

 ここに至る途中経過で、縛が二つを掛け合わせたときのように、まるで型式を不発したかのようであった。


 だが、確実にそこに型式は発動しているという確信があった。

 そこに型式はある。力の塊が、そこにある。


 力というものがより圧倒的な力によって圧縮されてすべてを漏れ出ることなく固めたような。

 周りに影響するほどの力を常に溜めて圧縮されているようであった。その力は今か今かと解放されるのを待っているかのようで。

 だとしたら。解放されたときはどれほどまでの暴威が振るわれるのだろうかと、想像もできない脅威にぶるぶると揺れていた震えは止まる。樹の体に起きたことは、脳が思考停止したかのような状況であった。


 樹は、縛を見た。

 普段の型式を使っていない縛がそこにいる。


 いや、違う。と。

 縛は普段から使っていたのだと樹は思った。


 「今はわかりやすくする」という言葉の通り、型式を使っていることを樹たちに教えているのだ、と。

 その感覚を教えるためにあえて型式を使っているとわからせているのだ。そうしているのであると気づくと、『縛の主』というその言葉は、どれだけ圧倒的な者を指しているのかと畏怖と尊敬の感情さえも樹から溢れだしてくる。


 そう思わせるほどの力。

 静かな力。その静けさには確固たる力が満ち溢れている。揺らぐことのない絶対的な力だ。

 その力は、存在感として、人が持つあらゆる『格』を持ち上げているようでもある。


 『人の格』を上げるというその境地が。

 今目の前にいる存在は、『仙人』であると。

 神という見たこともない存在よりも、最も人に近く、人から神へとなりえる可能性であると。

 神へと至った存在でもあると。


 そう知らしめているかのように、そこに彼は存在していた。


 彼こそが、『縛の主』。

 彼こそが、人という種の可能性である、と。


 そんなことが頭の中に浮かんでくるほどに、樹は、自身の父親が偉大な存在であったのだと、自然と涙が溢れてきた。



「これが、お主達の言う、『仙』の型である」



 縛は先ほど、四つまで掛け合わせることができると言っていた。

 更に先があるのかもしれない。だけども、『縛の主』という存在でも四つまでしか使えていないとも捉えることもできる。

 だけども、その四つに至ることで、彼は仙人に至ることができた。

 その上には、何があるというのだろうか。


「人というものは、限りない欲望の塊であるでな。我のこの力を、より昇華させていくこともできるのであろうな」


 その言葉は、明らかに樹に向かって言われた言葉であった。


「この力を、俺が、継承する……?」


 そう、自分に言い聞かせるように、樹は呟いた。


 できるのか。

 このような力を、自分が会得し、そして昇華させていくことができるのだろうか、と。


「できなくともよい。お主が、我のこの力を知って、そして継ぐという意思があれば、それだけでよいのだ」


 そう、樹の呟き返す縛は、ふっと圧力ともいえる存在感を虚ろにした。圧倒的なまでの存在感であったからだろうか、妙に気配が希薄に思える。

 普段の縛へと戻っただけであるのだが、表現するのであれば、「軽い」、と言えばいいのだろう。


「この力を、得る……」


 力を得ることで、俺は、戦うことができる。そう、樹は漠然と、思った。



 そう思った時に、自分がやり直しの直前に何を思っていたのか、はっきりとわかってきた。



 国津と戦った時。

 天津と戦った時。



 その力にあっさりと屈服した樹は、悔しかったのだ。


 自分は強いはずであった。

 それこそ、『焔の主』と戦うことのできるのだから、裏世界でも十分に強いはずであった。


 それなのに、まさに手も足も出ない。

 その状況に、歯がゆかったのだ。


 そしてその力に追いついた冬を見た。

 圧倒的な力に屈服しながらも、諦めず、自身の中に眠る力を覚醒させ開放し、勝るとも劣らない力を発現した冬。




「俺も。……俺も、近づくことが、できる……?」



 あの冬に、近づく。


 自身の弟である彼に、負けている自分が、情けなかったのだ。

 何が護る。何が助ける。だ。と。


「戦える……? 俺が……その力で、護ることもできる……?」


 天津にも、国津にも。

 あれらと戦うという土俵に立つことさえ、できる。


 天津に殺されたチヨを見た。今までも殺されたチヨを見てきた。

 それは、助けられなかったということである。


 そんなチヨを、これからも、その力があれば、護ることができる、ということである。





「……ああ、そうであるな」


 縛の言葉は、短いながらも、樹の踏み出す勇気に、力を与えてくれた。



「知るといい。我の力を。すべてをお主に教える。そして、それを使うといい。自分の思うままに。我のすべては、我が子のために、であるよ」



 縛が自分に何を教えようとしているのか。

 それは、樹にとって、圧倒的なまでの力によって屈していた彼の心に、一筋の光をもたらした。

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