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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
第十二章:絶望を乗り越えて

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第425話:圧倒的強者


 なにがあった。


 それは、一瞬であった。


 あの時、同じ場面。

 冬は、同じことを考えていたことを思い出す。


 現に今も。

 あの時と同じように宙を舞っている。

 何がおきたのかわからないままに。


 以前と違うのは、縛と樹が国津との会話をしている際に共にいて、縛が壁を作り直してしまっていた、ということくらいであった。

 冬は、国津の一撃をもって、壁があれば壁を壊して外へと飛ばされていただろうが、今は機械兵器ギア達が壊して吹き飛ばしてしまい壁がなくなってしまっているのでそのまま神域の場へと吹き飛ばされていく。


 同じ。

 まったく同じく。

 同じように吹き飛ばされては地面へとぶつかりごろごろと勢いを殺しながら転がっていく。

 やがて神域を護るように広がる鎮守の森の大木の一つにぶつかって肺から息が一気に吐き出されていく。


「かっ、はぁ——っ」


 息を吸い込め。

 吸い込まなければそのまま倒される。

 現にあの時、倒れたままで目の前に現れた国津に、いとも簡単に負けたではないか。


 そう冬は自分を鼓舞する。


 息を。息をと。


 必死に息を吸い込もうと、肺を動かそうと、酸素を吸い込んで体の中へ循環させようと試みる。

 うつ伏せに倒れた体は少しだけ吸い込んだ酸素によって息を吹き返した。


 その調子。ゆっくりとでいい。だけども早く。早く。


 ぐぐっと体を持ち上げる。


「——へぇ。まだ、生きていたんだ」


 びくっと体が震えた。


 国津の声。

 その声は、まだコテージの辺りから。


 どれだけ飛ばされたのか。

 神域はそれほど広いわけではない。冬はやり直し前に天津と戦った際にそう思っていた。

 型式を使われて飛びつかれれば一瞬の距離。数秒とかからずにたちまち冬の前に国津は立つのであろう。


 じりっと、コテージから一歩外へと国津が出た。


「た……立ち、あが……れ……」

「立ち上がれるんだ。なかなか頑丈じゃないか」

「立ち——」

「——じゃあ、その立ち上がる意思を、僕は折らせてもらおうか」



 一瞬。

 やはり一瞬であった。



 目の前に国津の気配がする。

 顔をあげることさえできない。動けばすぐさま国津は一撃を与えてくるのだろう。

 あの時のように、もしかしたら首を掴まれて持ち上げられて、そのまま首をもがれるように握りしめられるのかもしれない。やり直し前の同じ状況のときは、樹と縛が助けに入ってくれたことで生き長らえた。だが、今は二人はいない。

 冬の脳裏によぎるのは、自分が国津によって殺される姿だ。


「なあ、冬。圧倒的強者に。自分より強い相手に見下ろされる気分はどうだい?」

「い……いやな……き……気分……で、す……よ……」


 少しずつ息は整ってきた。だけどもそれだけ。

 その強者から放たれるプレッシャーに、今は息を整えるくらいしかできなかった。

 少しでも動けば——




    ——殺される。




 冬が無防備だからということもあるが、国津は手を出してこない。

 息を整えて戦いの準備ができれば、起死回生の手段はあるかもしれない。


 今は、今は息を整える。


「そうかそうか——」


 にこやかに笑っている国津が目の前にいる。

 冬は顔を見ているわけではない。ただ、その気配がそう感じられただけ。


 圧倒的強者。

 見下ろされているだけではない。


 きっとその目は、その体は。

 冬の一挙一足、息を整えようと呼吸しては揺れる体の振動さえも見逃さず見ている。

 そしてその体から溢れる——


「——僕も、暇じゃないんだ」


 ——紫の光は。


 冬を、いまかいまかと。

 殺そうと、国津から溢れて冬に向けられている。

 ねっとりと絡みつく、蛇のように蠢く紫の光。



「——じゃあ、僕はもう行くね。スズが下で待ってるから」



 紫の光が揺らいだ。

 冬の体目掛けて一気に溢れた。



「——うごけぇぇぇぇっ!」



 型式を使う。

 もっとも馴染みのある『疾』の型だ。


 緑色の光を体に纏った冬は、すべての力を紫の光を避けるために使う。

 とにかく、紫の光から逃げるために。


「無駄だよ」

「——っ、……え……っ?」



 国津の宣告の後。

 冬の体から、一気に力が抜けていった。


 急速に緩慢な動きへと変わっていく動作。

 飛び上がった体は——本来であれば鎮守の森のどの大木よりも高く飛び上がっていたはずのその体は、常人の飛び上がる程度の力だけに留まった。いや、正しくは、裏世界の常人である。高くは飛んではいる。それはもう、棒高跳びを棒を使わずチャンピオンを超えるくらいには飛んでいただろう。


 だが、その程度の飛び上がりでは、国津の紫の光を避けきることはできない。



「さよならだ」





 何をされた。

 何があった。




 そんな、何もわからないという考えだけが脳裏をよぎる。



 冬の目に映る国津は、すでに冬を見ていなかった。

 背中を向け、歩き出していた。








 ——負ける。

 負けるということは、スズを奪われるということ。




 ダメです。ダメにきまっています。

 誰がそんなことを認めるというのですか。

 僕は、僕は認めない。


 例え、負けた相手が自分だからといって。

 自分だからこそ、認めない。負けたくない。


 ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。



 ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。ダメ。





 ダメ。ダメ。ダメ————————————














 ぱんっ。










 国津の紫の光が、冬を覆うと、弾けるような音を、たてた。
























































「——君……まさか……」








 国津の紫の光をぱんっと弾いて現れたのは、九つの尾のような光。







「……あなたに、スズは渡せません」





 冬もまた、紫の光をもって。

 国津と、相対する。

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