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第415話:希望 1

前回までのあらすじ。

※お話を飛ばされた方のために。


拝殿で戦える仲間を全員失った樹は、やり直しをする前に突破口を見つけるために情報を得ようとする。その場でまだ生きているであろう雪とスズ、雪の子を連れ去った天津を探し、再度神域である山へと向かう。


一方、神域へと瞬間移動するかのように辿り着いた天津は、生贄として連れてきた雪たち三人を儀式にかける。

雪とスズの肉体を一つにすることで二人の関係深い存在の体を作り、生まれた赤子の生命力と、死んだ皇夏の骨を使って、皇夏本人を蘇らせるという禁忌を行った。


樹が辿り着いたとき、そこにはすでに天津と戦い負けた冬の死体と、儀式に使われて肉の塊となった彼女たちの姿。



樹は、ついに、一人になってしまった。








やっば。さらっと書いてみたら意外とあっさりとした内容でした。

まさかこんな短い文でまとめられるとは^^;

それを何話に分けて書いているのだ私はっ


という作者近況も添えたブレイクに。


ではでは。

引き続きお楽しみください(≧∀≦)


 ぐじゅりぐちゅりと。


 肉と肉が鬩ぎあい、揉みあい、そしてくっつき繋がりあう生々しい音を立てると、宙に浮いたその肉の塊は少しずつ、ゆっくりとではあるが、丸い球体から人の形を形成し始めた。

 取り込まれた骨にくっつくように肉づいていく様は、逆再生の人の成長を見ているかのようでもあった。


 その形は女性である。

 肉が形を作ると、まるで再生するかのように皮が肉を包んでいく。


「……なんだ、まだ生きていたのか」


 肉から皮を着、そして人の姿をしっかりと象り眠るように宙に浮くのは、綺麗な、直立不動のまま身動きしない全裸の女性である。

 その女性を恍惚と見ていた天津は、その嬉しさの表情のままに背後で立ち尽くす樹を見て声をかけた。


「見るがいい。綺麗であろう?」

「……な、何をしている……」

「何をしている、か。何をしているかと問われるなら、それは簡単なことだ」


 演劇の舞台の主人公のように。

 演技がかかった動きで宙に浮いた女性を紹介するかのように手で指す天津が言う。


「我が伴侶。皇夏すめらぎ なつだ」


 樹からしてみれば、それは初めて見る母親でもある。

 言われてもピンとくるものでもなかったが、母親と聞いて思い出すのは、縛から教えられた、母親が眠る墓のことであった。

 それはどこにあるかと考えれば、すぐそこ。この神域に唯一あった人工物。

 その周りが掘り起こされていることから、夏のなにかしらを使ったのだと推測する。


 だが、


「人を……生き返らせた……?」


 死んだ人間を、それも何年も前に亡くなった人を、天津は生き返らせたのだ。

 樹は、自分で辿り着いて思わず呟いてしまったその答えに、ぶるりと体を震わせる。


 桁違い。

 まさに、そんな言葉が思い浮かぶ。


 神というのは、本当にこのような、人が起こしえないことを簡単に起こしてしまうのかと、人の領域を超えた力に、震えが止まらない。


 勝てないということは理解している。

 すでに樹は、一度だけの戦いで身に染みて痛感している。

 無惨な殺され方をしている仲間達も見てきた。自分と同一の力を持つ仲間達が簡単に倒されていることから、一人で戦おうが複数で戦おうが、天津という存在に太刀打ちできるわけもないということも理解しているつもりだった。


 だが、その理解さえも甘い。

 そう痛感させられる。


 この相手に何ができるのか、自分が何を知ろうとしているのか。

 烏滸がましいという言葉さえ、自分の中から溢れてくる。



「……んぅ……」


 樹の耳に声が届いた。

 少し悩まし気な声だが、そんな声を上げる人がこの場にいるかと問われれば、一人しかいない。

 これで天津がそんな女性的な声をあげていたら、この震えはきっと別の意味での震えだろうと思う樹は、思考が混乱の極みに至っていることは間違いない。


「おお、目覚めたか。我が伴侶」

「……」


 ゆっくりと宙から降ろされていく女性——皇夏。

 ショートカットの溌溂としていそうな、雪に似た姿をした女性であるが、声は聞こえたことから本当に生を受けたということがわかるのだが、目を閉じたままの女性が降ろされる様を樹は見ることしかできない。


 地面に足をつけると、そのまま崩れ落ちるように地面に倒れ込んだ女性は、目覚めたのか、そこでがくがくと自分の体を両手を地面につけて必死にもちあげようとしている。生まれたばかりの小鹿のような動きで、細い腕で上半身を持ち上げた夏は、その目をゆっくりと開ける。


 眩しそうに開いた瞳は、いまだ光を認識していないのか、濁ったような瞳だった。

 それがゆっくりと慣れていくにつれて光を帯びていく。


「……ここ、は……」


 掠れたような声。一言話すたびに喉が渇いているのか咳込む夏は、きょろきょろと辺りを見て状況を把握しようと必死だ。


「ここは、な。神域——お前が俺を封じ込めていた場所だ」

「……縛……?」

「あの男ではないな。体を借りてはいるが。……我が伴侶が目覚めてすぐに別の男の名を呼ぶというのも、些か心に来るものがある」


 ぼーっと。声の主を見て、言われたことを脳が認識するまでにまだ時間がかかるのか、夏はゆっくりと、その言葉をかみしめているかのようにはっきりと驚愕の表情を浮かべていく。



「縛じゃ、ない……——永遠名……天津……っ! なぜ、……っ、あなたがっ」

「お前も永遠名であろうよ。我が伴侶」

「そ、それは、あなたが……っ!」

「無理やりとでもいうか。だからずっと抵抗していたのか。自分を皇夏と、旧姓で名乗っていたのはそういうことだろう?」


 いまだ震えるその体を、抱きしめるように、自分の体を隠すように腕で胸を隠す夏は、じりじりと、天津から離れようとしているようだが、まだ足に力が入らないのか、思うように下がれていない。


「……な、なんで……なにが……だって、私は……こ、この体は……?」


 次第に、自分がどうして生きているのか、記憶を辿り、自分の状況をしっかりと認識していく。

 自分はすでに死んだ身であるということを、しっかりと理解している夏は、やがてこの体がなんなのかを考える。


「お前の娘と、お前の後継者。そして——」

「やめろ」


 怯えて頭を抱えだした夏。

 自分がなぜ生きているのかよりも、この体の持ち主が誰だったのか、それを知らされ、恐ろしさに涙を溢れさせた。がりがりと肩を抱く手が肉を削いでいく。体を今すぐにでも返すために、この肉を削いで脱ぎたいくらいであった。


 そんな母親であろう女性を、見ていられず、樹は二人の間に入った。物理的に入ったわけではない。口を差し込んだ、という意味でである。

 いまだ樹は、目の前の天津という存在への恐怖を払拭できず、ただ口を動かすくらいしかできない。体に染み渡った恐怖は、もう拭い去れないのであろう。


「……ん? ああ、まだいたのか、確かお前は——千古樹、だったか?」

「……樹……? まさか、あなた……」

「天津。お前のその体の持ち主である夢筒縛とそこの皇夏の息子に当たる。その体を使うのなら覚えておけ」

「ほう。そうであったのか。であれば、俺には二人、子がいたようなものであるな。ただし、お前は冬と違って、にっくきこの体の持ち主の子であるということから、冬よりは優しくしてやれんがな」

「冬……?——冬は、どこっ!?」


 夏が涙を溢れさせながら辺りを見た。

 樹の背後、そこで倒れている男を見つける。


「ぁあ……ああぁぁ……冬……そんな……」


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