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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
大社で紡ぐ、滅びの足音

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第389話:滅びの足音 2

「残るのは、我とひよっこ、樹でよい。ほかは去るといい」


 次に声を発したのは、縛だ。


「聞きたい、話したいことがあるでな。お主達は避難ついでに、あの妊婦をなんとか無事産ませてやるといい」


 縛は一歩前へと進む。


「ここでこやつと争いながら産むよりは、下の大社まで降りて社の中で産んだほうが霊験あらたかでもあろう?」


 進んだその先にいるのは、冬である。

 椅子にいまだ座って動けない冬ではない。入口で先ほどの大きな音に驚きながらも「姉さんは何をやってるんだろうね」と周りに同意を求めながら誰からも共感をもらえていない冬のほうである。


 そんな冬が、座っている冬と違うところが一つある。

 正しくは、他にもいろいろと、違っているところもあるのだが、根本的に違うと言えば、それは雰囲気であろう。


 雰囲気——否。

 彼から、うっすらと、漏れ出るように煙のようなものが立ち上っていた。

 その煙は、体を守るような薄い膜のように体全身から上っている。


 紫の色がゆらりと立ち上るそれは。


「それにな。あの男から立ち上るアレは、母体には悪いし、耐性がなければつらかろうて」


 人に。見る人に、恐怖を植え付ける。

 見るだけで人に不安を掻き立てさせる。

 見ているだけで心が砕けそうに、挫けそうになるその気配。


 そのようなものを立ち上らせていることが、椅子でいまだ固まり座る冬と決定的な違いであった。


 その紫の、光のような煙も、誰もが言葉を失い動けないでいた要因でもあった。

 


「『常立とこたち』。すまぬが、スズを連れて行ってほしい。スズ、よいな?」

「え……あ……う、うん……」

「あー、あー……まあ、仕方ないけど、急ぐぞ」


 春が、機械兵器が動いて移動した後ろ姿をみながら答え、スズの肩に手を置き促すが、思わず縛に言われて頷いたスズは、ここに冬が二人いることに困惑していた。


 スズにとっては、おそらくは。

 どちらも知っている、冬であったからだ。


『和美さん、未保さん、万代さん、いきますよ』


 枢機卿が、残った女性達を、冬から隠すように背後へと囲う。少し離れたところに座っていたチヨは、襟首をつかまれた猫のように持ち上げられて無理やり合流されて、「ほえぇっ!?」と奇妙な声をあげていた。


『……あなたの強さを知っているから、私の知る冬を、託します』

「我はお主がなぜ我の強さを知っているのかというところに疑問を浮かべるが。……まあ、任されよう」



 じりじりと。

 警戒するように、入り口そばの冬から逃げるために、離れるように後退る。


 紫の煙から逃げるように。恐怖から、逃げるように。



「ふ~ん……なるほど。まあいいや。いいよ、スズを傷つけるわけにはいかない。スズにだって、少しは考える時間も必要だからね」



 入口前にいる冬は、警戒しながら逃げの一手を取る彼らをみて、納得するように頷くと、


「後で、迎えに行くからね、スズ。それまでには、ちゃんとどちらがどちらか。理解し納得しておくといい」


 スズに、笑顔を向けた。


「……やっぱり……冬、だよ、ね?」


 そのスズの疑問に、椅子に座っていた冬が動く。


「スズ、早く、ここから行ってください」

「でも……」

「いいからっ!」


 自分と同じ姿をしたもう一人の冬から、スズを隠すように冬も前へと出る。

 冬は、この目の前の、自分と同じ姿をした冬を、知っている気がした。もし、冬が思う相手であるとしたら、自分は不利である、そう意識的に思ってしまったのかもしれない。


「……まあ、いいけどさ」


 スズを見ることのできなくなった入口前の冬は、ため息をつきながら、もう一人の冬を見た。


「……とっとと、失せなよ。他には興味もない。逃がしてあげるよ。君も、逃げてもいいんだけどね」


 冬の視線と、冬の視線が、絡んだ。

 どちらも、目は逸さない。逸らせば、負けるような気がしているからだ。


『逃がして頂けるなら、喜んで』

「何もしないさ。スズの前でするわけないだろ。してほしいなら別だけどね」


 そう言われても、警戒は緩めずに。

 ただただ、ゆっくりと。

 機械兵器たちが壊した壁だった、今は穴へと一人ずつ、出ていく。


 先に出た春の「急ぐぞ」と焦りの見える声。

 だけどもその声に、冬は姉は大丈夫だと感じることができた。それは春への信頼なのだとも感じることができた。

 不安そうな和美達が、自身が知っている冬をちらりと見る。困惑を隠せないその視線を、紫煙を上げる冬へと移動させて、顔を歪ませて逃げるように去って行った。


 雪を追いかけ保護する、というのは口実である。

 その紫煙から逃げたいから。とでも言うかのように。


「さあて。邪魔者はいなくなった。……本当はここで話が終わればスズを連れて行きたかったんだけどね」


 そういうと、紫煙をあげる冬は、家の中へと堂々と入ってきて、一つの椅子に座った。


「さ、話そうか。答え合わせだ」


 まるで、縛達が今まで話していたすべてをあざ笑うかのように。


「僕は天津。その分霊だ。そうだなぁ。元々僕が冬であったのだけど、その冬という脆弱な体は捨てたから、僕はもう冬でもないんだ。でもよく似てるだろ? 便宜上、僕と冬を分ける必要があるなら、僕のことは――……そうだなぁ。本体の天津と同じと思ってほしくはないから……国津、そう、皇国津すめらぎ くにつと呼ぶといい」


 彼。——皇国津は、笑う。

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