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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
第九章:その『理』を穿つには
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第362話:『縛』が語る真相 5

「我が何を研究していたか、それはわかるか?」


 樹とチヨがあまりにも自分たちの世界という名の想像と脳内否定から戻ってこないため、縛はため息をつきながら言う。



「しらん」

「記憶がないとはいえ、清々しいほどであるな」

「人体実験施設といわれる研究所の所長であったのなら、それ相応の実験をしていた、と想像するがな」


 裏世界に二つある研究施設。そのうちの一施設、『月読機関』

 そこは裏世界でも禁忌と呼ばれる人体実験施設であったと言われている。

 樹もチヨも、実際に月読機関で作られた人間を知っているからこそ、それは誤りではないのだろうと思っていた。


「そもそも、月読機関がなぜ禁忌と呼ばれていたか、になるのだが。……まあ、人体実験施設というのもあながち間違ってはおらぬ」


 縛が、「ただし」と自分の言った言葉に付け加える。


「我の研究テーマは、不老不死だ」

「……壮大なテーマだな。だから人体実験をしたのか」

「いや、その研究をしていく上で我は人体で実験はしておらぬ。そもそも、不老不死と呼ばれるような存在が、我のそばにいるであろう? 人をバラしてもそれはわからぬわ」


 不老不死。

 人類の永遠のテーマであり、求めるものである。

 その求めたものがそばにいるという縛に、一瞬疑問を覚えたが、すぐに思い至った。


 永遠名天津。

 生神であるなら、確かに不老不死であるのだろう。と。


「なるほど……」

「もっとも、それ以外にも少なからずそばにそれがごろごろといたのでな。見ているだけでも研究には事欠かなかった。もちろんそいつらを使って研究したとかという意味で人体実験をしておらぬという話でもないぞ。……結果的にその研究が必要となったときに、我は人体実験ともいえる、人を使ってそれを行っておるからな」

「……それで、それはうまくいったのか?」

「うまくいった。というより、そのテーマはいまだ道半ばではあった。その結果の副産物は成功した、であるな。その結果を見たからこそ、我は以降追い求めることもやめたわけだが」

「副産物ってなにかな、かな?」

「死者蘇生。不死を調べていくにつれて、な」



 なるほど。と樹は思わず独り言ちた。

 そこで、スズという存在とつながるのか、と。



「我は、我とあやつらとのいざこざに巻き込まれ、死人となった『苗床』を蘇生した。だから、元はあやつは死人であった、ということであるな」

「……紛らわしいかな、かな!」

「そういうな。そしてその結果が『苗床』でもあるのだ。蘇生できたとはいえ、あやつの体は結合しているべき細胞を保てなくなってしまったことで、流動的な――スライム状になってしまったのだから、ある意味失敗であろう。その代わりの、不老不死ならぬ、半老半死。自身で老化を進退でき、死にたければ死ねる体。それは半神のひよっこも同様であるか」

「スズさんと冬さんって……そんな特殊なことができたのかな、かな」


 チヨはスズが液状化できることを知らなかった。

 『苗床』として液化してその液体で人を創り出しているということもチヨは初めて知った。

 チヨとは別に、スズの能力を知っていた樹は、不老不死より半老半死のほうが優秀ではないのかと感じた。だからこそ、縛は研究をやめたのかもしれないと思う。


「『苗床』として、液化しそれを『生命の水』として新たな器を作りだす。それが『A』室や『B』室の実験体の体の元である」

「ほぇぇ……ん? じゃあ、冬さんたち、みんなスズさんから生まれたってことなのかな、かな」

「そうであるな。……我は『苗床』を人と戻すためにいろいろ研究をした。その研究に興味をもった研究者が、『A』室や『B』室の実験を行い、人体実験へと至った。これが、あの研究施設が禁忌と言われるようになった所以だ」


 縛が「死者蘇生できるとなると、誰もが欲しがるであろうからな」と言葉を締める。樹もチヨも、「確かに」と頷いて同意した。


 ある意味、縛は『苗床』を使って人体実験をしていたことを止めるつもりはなかったのかもしれないと樹は思う。

 それが、死者蘇生を隠すカモフラージュともなるから。その結果、縛はすべての悪意を受け止め、悪人として語られることになったとも思えた。


「特に『B』室について、そして『成功体』と呼ばれる複数体を創り出して提供したのは、我が助けた夏ではあるのだが」

「作りだした、という意味で母親なのか?」

「いや、ひよっことその姉はともう一人は、わざわざ夏が自分と天津の遺伝子を埋め込んで作り出した特別な素体である。なぜそうしたのかはわからんが、おそらくは、アレが気まぐれで子を創ろうとしたか、または……」


 縛がそこで言葉を切り、言葉を選ぶかのように考え込んだ。答えはすでに縛の中であるのだろう。ただ、それを言葉とした場合に、どう伝えれば簡単に伝わるのか、と、縛は少しだけ考えた。

 すぐに、いい言葉が見つかった。


「……分霊、であろうな」

「分霊……?」

「ほれ、神というものは、特にこの国では八百万の神というであろう? あれは神が様々なものに宿っているという意味でもあるが、神というものは体を分けてどこにでもいるという意味でもある。でなければいろんなところに神社はあるまい?」


 神社は、神を分けてそこに奉る。

 遠くの誰かが神に会えないからこそ、そこに神が姿を置くことでいつでも神に参拝できる。

 それが、分霊である。


「スピリチュアルな話にもなるが、人でも分霊はできるというからな」

「……つまり、どういうことだ?」

「さっき言ったであろう? あやつを取り込んだのか。と。人が取り込んだのなら、おかしくなる、と。前例がある。と、な。そのおかしくなる、というのが、分霊に体を乗っ取られる、または神本体が分霊を操れると考えればどうだ?」

「……」

「数が多ければ多いほどいいであろう?」 

「俺は、おかしくなっていない、からか?」

「そうであるな。半神とはいえ、神ではあるのは間違いない。純神ではないから一瞬ではなかろうが、時間をかけて乗っ取られていくであろう」

「……よくわかるな」

「前例があるというたであろう?」


 縛は、瓶底眼鏡を外してかたりと机に置いた。


「我の体に、天津の分霊が、おる」

「な……っ」


 人体実験。

 不死を、死者蘇生を。

 それらを得るために、まさかその神を自分の身に取り込んだのか、と。


 樹は、研究者というものがいるから先の技術の発展や楽ができると思う反面、研究者というものは総じて突き詰めると馬鹿なのではないかと。思わず思ってしまった。

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