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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
第九章:その『理』を穿つには

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第361話:『縛』が語る真相 4


「……永遠名天津とわな あまつという神が何者かというところで話すと、夏はその神を封じるお役目様であったのだ」

「……いきなりすごい話がでてくるものだな。ああ、だから巫女となるのか」


 封じられていた。

 その神は悪神であったのかもしれない。樹は、これから語られていく神はそうであろうと想定して話を聞く。


「うむ。夏は、その田舎町で永遠名天津という神を封じる、『唐明大社とうみょうたいしゃ』という神社の巫女であり、神を封じる要石のようなものであった。確か古くは、その大社の巫女は、<幸せを運ぶ巫女>と呼ばれて大層大切に育てられていたそうだ。古い文献などにそれは一行程度残っていたりするが、『唐明大社の巫女祭り』という祭りは、当時でも田舎にあたるその場所に、高位の公家等も訪れるほどであったらしい」

「表世界の話か。……祭りに詳しいわけでもないからかもしれんが、聞いたことがないな」

「であろう。そもそももうやっておらぬ。我が学生の頃でも地元民しか参加できぬ祭りであって、巫女そのものも姿を現すことのない祭りであったから地元でも寂れておったわ。時の神主に当たる――……まあ、夏の叔父が、夏を巫女として大層気に入っておってな。外に出させぬために廃止させた」


 縛から怒りが漏れた。はっと我にかえった縛が、咳払いとともにお茶を一気飲みした。ことりと置かれたお茶に、長丁場になると感じていたチヨが事前に用意していた急須でお茶を注ぐ。


「……すまぬな。嫌なことを思い出した。……まあ、簡単に言えば、夏は叔父によって囲われていてな。巫女を自分以外が愛でるのは気に食わないといってな。それが我が許せなくてな」

「おや。おやおや? まさか縛さんが助けたのかな、かな?」

「うむ。好いておったからな。そのために裏世界で力を得てな。おかげで二十歳すぎ辺りでは、裏世界で有名だった」


 縛が恥ずかしそうに頬をかくと、「まあ、その話はよい」とそれ以上自分と夏について話すことを拒否した。


「その神……永遠名天津が封印されていたというわけだが、それは夢筒縛が皇夏をそこから救い出したからとかが理由か?」

「いや、皇夏の代わりのお役目がいたからな。叔父を討伐した後は代わりの巫女が『唐明大社』で封印を護っていた」

「では、なぜ外に? 護っていたならまだそこで封印されているはずだろう」

「封印なんぞ、どうとでもなったのではないか? 長きに渡る封印を、ただ護っていただけであろうからな。新たに結界を張れるようなものも廃れていたからといえる。まあ、神社がなくなれば封印もなくなるわ」


 なぜかそこだけどうでもいいというような、縛にしては妙に適当に済まそうとするところに、樹は違和感を覚えた。

 もしかすると、その原因も、天津が解き放たれた理由も他にあるのかもしれない。


「……まあ、いい。先ほどから気になっているのだが、その神と神を祭っていた一族、その巫女が、何か関係するのか?」


 樹も今はそこにこれ以上触れることはしなかった。

 それよりも今は、縛が何を伝えたいのか、ということに興味があった。


 今はまだ、自分が、縛と夏の子であって、冬とは異父兄弟であり、冬の父親が神であった、ということ。そして自分が冬に騙されたという情報しかない。



「ふむ。話を散らかしてしまったからな。まず、『苗床』についてを話そう」

「スズか?」

「あれが、そのお役目を引き継いだ当代の巫女だ。もっとも、もうなくなった神社の巫女ではあるからして、当代というのもおかしい話ではある」

「……あ、ああ……ん?」

「夏の遠い親戚でな、スペアとして育てられていた女だ。ただ、夏とは仲がよく、姉妹かのように仲良くはあった。……いろいろあって、我が世界樹で保護していた。神社がなくなり、行く宛てもなかったこともあってな。なので我が『苗床』を伴侶というのもおかしいのだ。言ってしまえば、我からしても妹のようなものだからな」

「えーっと……。つまり、冬さんは、お母さんの妹さんと付き合っているってこと……かな、かな?」

「厳密には違うがな。我からしてみればそうにも見える」


 チヨが、「冬さんって、マザコンかな、かな?」と混乱している。樹はそんなチヨを見ながら冷静に「いや、マザコンでシスコンだろうな」とさらに属性を付け加えている。

 少ない言葉ではあったが、少ない中に情報が多すぎた。

 では、樹が聞いた、スズを伴侶という言葉は。そして、なぜ妹のような存在であるならスズを殺さなければならなかったのか。様々な疑問が浮かんでくる。



 縛がそんな二人を見て笑いながら、続けて言う。




「で、な。あれはな。すでに死んでおる。つまり、死人だ」












「「……は?」」





 樹とチヨは。

 思わずそういうしかなかった。

 混乱はさらに混乱していく。



「え? え? スズさん、死んで――……え?」

「……いや、生きてるだろう。普通に話もして普通に動いているぞ。何をいきなり言っている」

「ああ、いや、まあ……」


 縛が、さすがに飛ばしすぎたかとお茶を飲んで一呼吸おく。樹もチヨも、思わず喉を潤すためにお茶をぐいっと飲み干して言葉を待った。




「正しくは、死人であった、か」

「……比喩ではなく、て、か? 例えば、その神社がなくなったから死人のようになったとか。夢筒縛が保護してから、死んだものとして裏世界で生きてきた、とか」

「比喩ではないな。死人であった、が正しい」


 訂正されても。結果は変わらなかった。

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