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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
第九章:その『理』を穿つには

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第346話:母の面影 2


「あー。うん……。冬と私の記憶の中で母に対しておかしいところはなし、と。むしろ、冬、ほっとんど覚えてないわねあれ……確認するまでもなかったというか……」


 話している時に、何かおかしいと思ったのだが、考えれば考えるほどその考えだけは靄がかかるかのようにぼんやりとして、漠然とした考えに収まってしまう。

 そして、そのおかしいという疑問は、ここ最近、雪が気にして確認していたことにぴったりと収まった。


 それは、なぜ。というに相応しい疑問。

 母を思い出せない自分達。冬より年上だったからか、自身は少なからず思い出す部分はある。それは、ほんの少しでも小さな頃に家族という温かな記憶があったからかもしれない。


「家族としての、記憶……は、問題、無し。と」


 雪と、冬は、家族である。その記憶は、間違ってはいなかった。


 今、雪は。

 そういった、自分にとって、そして周りにとって当たり前のことさえ疑うことにしていた。

 疑わざるを得ない。違和感を感じていたからだ。


 母という存在について、冬と話をした。うっすらとしか覚えてはいないが、それでも二人は共通の記憶があり、そして互いに、母親という存在を恨む存在としてはみていなかった。

 もちろん、当初は恨む存在でもあったのだろう。だけども、互いに母が自分たちを想っていたという真相を知り、恨むべき相手ではなく、また、すでに亡くなった相手でもあり、彼女も犠牲者でもあったと思えば、恨んでも仕方がないとも思ったのかもしれない。

 その記憶を共感できたことは、冬と自分の記憶が等しく正しく、そして二人が姉弟であるということを指していた。母という存在に対して、父という恨む相手にあてる感情も正しいということでもある。


 ただ。

 今にして考えてみれば、そこに、おかしい記憶があった。


 そう思えることが、雪にはあった。『幻惑テンコー』という型式により記憶を作り変えることができるからこそ、そのような考えに至ったとも言える。


 そのおかしい記憶を、少しずつ、普段から探りを入れながら整合性をとっていた。今回、冬と母について話をしたのもそれが理由である。


 そして、その記憶について、突き止める。


「……私が、どうして。どうやって、スズちゃんを、助けたのか。……おかしいのは、そこ、だけってことね。よかったわ。そこだけで」


 そこだけで。

 そう言葉にしてみたものの、そこは致命的である、とも雪は思う。

 ただ、自分が売られて、裏世界で春に買われ、そして愛を育んだことさえもおかしければ何を信じればいいのかと思えたからこそ、そこだけと思うこともできた。


 雫とラードの類似の件があったからこそとも言える。

 彼女に起きた悲劇を聞いたとき、酷く衝撃を受けた。境遇が似すぎていたからである。もしかして自分も、と思ったからこそ、気づくことができた違和感。


 雪は、スズを助けたのは自分と言った。

 枢機卿も、スズを助けたあとにスズの記憶を弄り、そして表世界での架空の生活をしている冬の幼馴染という設定を作り、スズと冬は共に表世界で生きてきたという情報を刷り込んだといった。

 そして、枢機卿の情報からも、それはそうであるという情報もあったからこそ、雪も、自身の脳内にあったその記憶を、自信を持って間違っていないと言えた。


 だが、この記憶が、どう考えても、おかしいのである。


 雪も冬とスズは幼馴染という記憶を持っている。

 それは、表世界ではなく、裏世界での二人の関係――『苗床』と呼ばれた少女から生み出された実験体として、雪と冬は世界樹の一室で生み出されており、『月読機関』での過酷な生活における中で、冬は実験体を作り出すだけの『苗床』に、話しかけることによって自我を戻し、そしてそこで仲良くなっていたことを知っている。


 そして。

 冬と雪は、ある日、自分の遺伝子を分けた子を使っての実験に耐えられなくなった母によって、裏世界から表世界へ連れ出され、表世界で生きてきた。その後、雪は裏世界へと売られ、そこで春と出会う。


 その裏世界で起きたまだ真新しいとも言える、大戦。


 『流の主』率いる許可証協会と一部の殺し屋組織


          対


 『縛の主』率いる世界樹勢と一部の殺し屋組織


 大規模な戦い。

 許可証協会の弱体化と、世界樹の沈黙が結果として残った戦い。そして、そこで『焔の主』の代替わりも起きた戦いでもある。

 裏世界でもなかったものとして、一部の者だけが知り、秘する戦い。


 その戦いのきっかけは、『月読機関』の研究で、表世界・裏世界から人を連れてきて人体実験をしていることがわかったからである。


 そして、それを理由に、雪は、大戦の最中、食用として使われていた『A』室の実験体と、廃棄処分されるはずの実験体とともに、『苗床』を助け出している。


 そう。そういう『記憶』が、雪にはある。


 そこは間違えていない。

 実際に、大戦はあった。それは確実であった。そして自分の周りにも、『A』室のイッチやニー達がいることからも、間違ってはいない。


 では。


 『苗床』――水無月スズが、裏世界から雪によって助け出され、冬の住むマンションの隣に住んでいた、と考えると。


 それは、どう考えても、おかしいのである。

第一部最初のお話を根本から覆す!


作品上、それはやっちゃいけないタブーだと思ってます(じゃあやるなよ……

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