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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
第九章:その『理』を穿つには

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第344話:その町は、雪降る町

新章開始です^^


なお、本ロケーションは、実際にある県庁所在地の駅前をイメージしております。


 季節は冬。


 見上げるとどんよりとした曇り空から降り注ぐ雪に、肌寒さを感じる駅前に降り立った男――永遠名冬は、自身の姉の名前と同じ名のそれを見て頬を緩めさせた。


「雪……ですね」


 誰に聞かせるわけでもないその呟き。

 背後の駅構内は、そこまで人も多くない。平日だからか、だとしても都内でよく見ていた平日の光景は、どこの駅でも人が溢れていたと思う。いくら田舎町とはいえ、県庁所在地の一つでもあるのだから人ごみは避けられないだろうと思っていた冬だが、あまりの閑散さに駅正面の入口傍で呆けてしまうほどである。

 そう言えば、この都市の情報を得ようとすう姉と香月店長率いる『ミドル・ラビット』の人達に調べてもらったりしていたが、頼みつつも自分でも調べようと思って表世界でネットサーフィンをしていた時に、とあるサイトでみた内容を思い出した。

 冗談交じりにこの県は独立国家だと言っていたあの人は、何を思ってそんなことを言ったのだろうか、と。


 少なからず。この駅前と駅構内を見る限り、その人の少なさには、王国だとしたら人口が少なすぎて過疎化している寂しい王国なのではないかとさえ思えてしまい、空を見ながら苦笑い。


「そう言えば……あそこは食べ物が美味しいって聞くわね」

「あー、聞いたことあるー。あれ? なんで知られてないのかな。むしろそれくらいしか知られてなくない?」

「(こくこく)」

「何か不思議な力が働いたとか? んなわけないかー」

「ああ、そういう意味では、あの都市のとある山の山頂で、いまだに和鏡や銅製品の遺物が発掘されるらしくて、ピラミッドじゃないかとかUFOの発着場所じゃないかとか言われてなかったかしら」

「なんだっけ、布倉山だっけ? 女神伝承があるんじゃなかったかな」

「とんがりやまじゃなくて?」

「山があれば大体似たような伝承あるわよ、たぶん」


 自宅から向かう前に『ミドル・ラビット』の皆から教えてもらったその情報。

 行きがけに調べてみると、海の幸、山の幸ともに豊富そうで、美味いであろうことは間違いないと言う情報ばかりであった。

 なのになぜにそこまで人に知られていないのか。だから過疎化するのではないか。世界的に問題でもある、老人世代が多いことで煽りを受けて、一日一人は行方不明者が出ているというのも頷ける過疎化。

 情報隠蔽? まさか、本当に独立国家だから?

 いやいやそんなわけがない。


 なんて、情報を見ながら冬は思ったものだが、平和そのものとも言える駅前の風景に、独立国家説なんてまさに都市伝説であり虚偽であろうと当たり前なことを考える。

 ただ単に、都市としてのアピールが下手なだけと、だからこそ知る人ぞ知る通な都市であり、そこに辿り着いたからこそ知れるなにかがある。そう思うことにした。






 改めて空を見上げる。

 体の底まで冷え切るような寒さ。

 だけども、その寒さは、冷たい風が隙間に入って来るような都会の寒さとは違って、しんしんと、湿り気のある周りの寒さに、少しずつ侵食されていくかのような寒さ。

 でも、そんな、間違いなく都市としてもっとも賑わって然るべきその駅前は、車の往来も激しいのだが、空気は都会より新鮮に思えた。さすがに排気ガスがあって確実に美味しいとそうと思えるわけではないのだが、雪が降っているためか、妙に冷たさを感じるその空気は、都会では味わえない新鮮さを感じられたのは確かだった。



「ねぇ冬ちゃん、ここ、静かなところだね」


 駅構内で買い物をしていた女性――黒色のトレンチコートでぴしっと、まるでやり手の秘書のような見た目をした恋人、杯波和美はいなみ かずみに声をかけられて空を見ていた視線を背後へと。


「和美さん、何か美味しそうなもの、買えましたか?」

「ふふーん。聞いて驚く私。なんと蒲鉾に板がついてないのです」

「和美さんが驚いてどうするんですか」

「それもそうね。でも――」


 和美はふふっと笑いながら冬の片腕に腕を絡めて見上げるように冬を見つめる。


「こうやって、冬ちゃんと長期的に旅行にいくのも珍しいから、今日から数日は楽しみ」


 嬉しそうな笑顔を見せる和美に、冬も笑顔を返す。


 いえ、ここに遊びに来たわけではないんですけどね?


 なんて心の声は、本当に心の奥底にしまいながら。



「あーっ! 和美さんずるい!」

「んー……確かに冬と旅行にいくの、私も初めてかも。……でも、和美さん、一人でそういう抜け駆けするのはよくないと思います」

「えー。冬ちゃんと二人っきりの旅行気分を少しでも味わわせてよー」


 背後から勢いよく突進するかのように近づいてきてもう片方の腕に絡みつくのは、寒さに弱いのか、もこもこなファーコートに包まれたもう一人の恋人、暁未保あかつき みほ。そして、その隣で絡まる先がなくて呆れながらため息をつくのは、冬の最愛の人、駅から出てすぐにダッフルコートの帽子を被り寒そうにしている水無月スズである。


「あ、そう言えば先輩。知ってます?」

「え? なにか発見でもありましたか、未保さん」

「はい! 蒲鉾に板がついてないんです!」

「……あ、はい。さっき聞きました」


 なんで皆して、蒲鉾の話をするのだろう。


 まさかの話題被りに驚きを隠せない。もしかして蒲鉾しかみるところがなかったのかもしれないとさえ思ってしまい、それはそれで駅構内の売店などを見てみたい冬。


「かわきものも美味しそうだったからみんなの分も買ってきたよ。旅館でお酒飲んじゃおっか」

「和美さん……お酒飲みたいだけでは?」

「いやぁ、お酒はいつだって飲んでるけど」

「程々にしてくださいね」

「えー、冬ちゃんものもーよー」

「和美さん……手伝えない私が言うのもなんですけど、ここには調査に来てるんですけど……?」

『……スズさんの言う通りですね。ランクの低い貴方が気を抜いてると仕事の最中に命落としますよ』


 ぽすんっと、冬の頭に手が乗せられる。なでなでと優しく撫でるその手は、人の温もりがないのだが、その手つきは慈愛に溢れた手つきだと、冬はその撫でている相手――メイド服姿の枢機卿に笑顔を返す。


「うわっ、すーちゃんの説教だ」

『説教もしたくなりますよ。遊びにきてるわけではないのですよ?』

「そんなすーちゃんも両手に荷物持ちすぎだけどね」 

「すう姉。その姿寒くないですか?」

『あら冬。優しいですね。姉を心配する弟を、姉は心底誇らしいですよ』


 メイド服を日常に着こなすのもどうかと思うし、こんな寒い中、寒そうなその姿は奇異の目で見られる。

 それでここまで新幹線に乗ってここまで着ている時点で諦めてはいたが、周りの視線が枢機卿に集中していることに、冬はこの場から早めに移動したほうがいいのではないかと思った。


「あー……すーちゃん、その姿目立つので後で着替えません?」

『……ああ、なるほど。当たり前すぎてまったく気づいていませんでした。確かに目立ちますねこの格好。だから先程から見られていたのですね。てっきり機械の体が珍しいのかと』


 そんなわけがないです。と思わずツッコミを入れそうになったが、今更なのでやめておく。


「あ、だったらその駅前のビルですーちゃんの洋服買いに行く?」

『私はなんでも着られればそれでいいのですけど』

「すーちゃん、美人さんなんだからなんでも似合うと思うよ?」

「ついでに寒いので暖かい服とかあったら買いたいです!」

「え、未保ちゃん、そんなに着込んでるのにまだ寒いの……?」


 そんなわいわいと女性に囲まれながら本来の目的とは程遠くなっていくことに、こうなるのは分かっていたと諦めの境地に至りつつ駅から移動する冬。


 冬自身、これはいつもの光景であるためまったく気にしていないのだが。


 周りの数少ない駅構内にいる男性陣からの心の声を代弁すると。





 ハーレム野郎のリア充め。爆ぜろ。




 であろう。

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