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ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~  作者: ともはっと
――二次試験――

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第32話:シグマと面談 1


 五日後。

 冬は二次試験の試験官であったシグマに呼び出され。

 一室に通された冬は、五日振りにシグマと会った。





 ――呼び出されたここは、裏世界。


 以前降りたエレベーターから先に進んだ、正真正銘、裏世界の一角である。


 殺人許可証所持者達のホーム。

 『許可証協会ライセンスきょうかい』。


 エレベーターから見えていた光景は、その許可証協会が管理する区画だ。


 まだまだその世界の入り口であり、常に上位の殺人許可証所持者が目を光らせている、裏世界内でもっとも安全とされている場所と言われる場所で。


 冬が以前来たことがあった場所だった。


 一次試験で使用した駄菓子屋の若者に仮許可証を見せ、その先にあるエレベーターから裏世界の光景を見ながら降りると、一次試験の会場が現れる。


 そこは以前のような薄暗さはなく。


 体育館のようだった薄暗い部屋は、シースルーの天井から光と、人のざわめきに溢れ。


 生い茂る一次試験の森林地帯《会場》を横目に、清潔感ある真っ白な光の灯ったトンネルがあちらこちらに続く部屋。


 エントランスの様相を呈したその体育館には、仲良く会話する人もいれば、壇上の女性と机を挟んで楽しそうに話す人も。


 どこを見ても、人。


 これが全て。

 殺人許可証所持者。


 そこは、殺人許可証所持者達がたむろする、許可証協会のエントランスホール。


 許可証所持者達が、情報交換や仲間を求め、共に裏世界の規律を守るための交流の場として開放されている場所だった。




 まさか、一次試験を受けた場所がこんなところだったとは、冬はまったく思っておらず。


 唖然として、立ち竦んでしまっていた。



「やあ、冬君」「よぅ、冬」



 そんな人混みの中。


 エントランスを見て動かなくなった不審人物に気づいた二人が声を同時に挙げた。


 一人は筆のように髪を結んでぴんっと立てた少年。

 一人はぼさぼさの髪にそばかすが似合う学生服の少年。


 ――遥瑠璃と、立花松だ。


「「……?」」


 初対面の二人が互いの顔を見て。


「なんや。受験者ダントツ一位のぴょこぴょこ筆君やん。冬の知り合いか?」


 ぴこぴこ揺れる相変わらずの筆のように縛られた髪型をじっと凝視しながら松が。


「君は確か……一次試験で許可証所持者を殺したけど二位だった人かな?」


 瑠璃がにこやかな笑顔で言葉を返す。


 互いに愛想よさそうな雰囲気を出しながらも、一触即発のような、少しだけトゲがあるような会話だなと感じながらも。


「一位、二位ってなんですか?」


 そんな冬の一言が、二人を呆れさせる。


「相変わらず……。君、所持者になったら情報屋をすぐに探したほうがいいよ?」

「かっ。なんや。あんさん、一次試験の評価知らんのかいな」

「評価……? あー、二人が一位、二位。僕は確か……水原姫さんが三位って言ってましたね。お二人の後に続いてたんですねー」


「「……」」


 二人が唖然としているが、冬にはなぜか分からず。


「水原姫って……まさか『鎖姫』……かい?」

「え? ああ、はい。そう名乗られてましたね」

「……あんさん、とんでもないやつと知り合いやな」

「「なのに、まったく情報もってない」」


 と、二人揃ってがくりと項垂れる姿に、実は二人は仲がいいのではないかと思いつつ、なぜ責められなければならないのかと、笑うしかなかった。


「また生きて会えて嬉しいですよ」

「五日前に知り合ったばかりで死なれてたら堪らんわ」

「二次試験は無事受かったのかな?」


 松の笑い声と瑠璃の心配そうな声。

 冬はこれからのことを思うと気が気ではなかった。


 確かに、二次試験は。

 受かったはず、であり。


 なぜ、松と任務が被っていたのかは謎のままで。


 誘拐された女生徒達の救出だったとしたら、あまりにも試験内容が簡単すぎて。


 そう考えると、やはり自分の試験は別の内容が隠れているのではないかと不安だった。


「わいはさっき二次試験合格って聞いて、来週には所持者の仲間入りらしいで」

「僕もさっき試験官から聞いたよ。……冬君はまだなのかな?」


 二人はすでに受かっていた。

 松の話振りから、二次試験以降はなく、合否により許可証所持者となることが分かった。


「これから聞いてきます」


 そう言うと、冬は指定の場所へと二人への挨拶もそこそこに。


 試験の結果を聞きに、許可証協会の中へと、歩いていく。




「……二次試験、何かあったのかな?」

「あったで~。死ぬかとおもたわ」

「へぇ。……聞いてもいいかな?」


 そんな不安に押し潰されそうな冬の背中を見ながら、二人は話し出す。



 試験で出会った、冬という、これから合否を受ける知り合いの無事と、自分と同じく許可証所持者になることを祈り。











 許可証協会の一室。

 シグマと五日振りに相対した冬は、席に座るよう促され――


「とりあえず、合格だ」


 座る前に結果を伝えられ、腰を落とせず。



 合格。

 そう聞かされて、やっと安心することができた冬は、どすんっと椅子に座った。


 もし不合格であったなら、呼び出されたこの場所には殺人許可証所持者がいて、そのまま処分されていたのだろうと冬は思う。


「聞きたいことがある」

「……それは、審査の対象に?」


 全て真っ白な部屋。自分たちを囲む上下左右の壁も、自分たちが座る椅子も、その椅子とセットのテーブルも。

 広々とした部屋で、ぽつんと二人が座って、企業に面接に来た就活生とその面接官といった様相で会話をしている。


「聞いたことのある言葉だな。……単なる興味だ」

「……どうぞ」


 シグマが何に興味を持ったのか。

 まさに面接のようだと、冬はファミレスの面接を受けた時のことを思い出して脳内で今の状況を笑ってしまった。


「嫌ならあの時のように秘密と言い切ってもらっても構わないぞ。……お前は殺人許可証所持者として、今後裏世界に関わっていく。後は証明書を待つだけだ。言わなかったから印象が悪くなるとかそう言うことはないから安心しろ」


 そんなシグマの前置きに、冬はついに念願の殺人許可証を手に入れることが出来たと実感し。


「なぜ許可証を取る」


 その後の質問に、冬は無言になった。



 答えたくないわけではない。

 ただ、目的が陳腐ではないかと思っただけだった。



「……姉を、捜すためです」



 しばらくの沈黙の後、冬は答える。


「……姉?」

「姉は、僕がまだ小さい頃、どこかに売られました」


 シグマは、聞いておきながら机に頬杖をついて話を促す。

 興味があるのかないのか分からないと思いながらも、冬は話を続ける。


「中学生の頃。ネットを使って、いろんなところにアクセスしました。でも、姉の情報は得られませんでした」

「ふむ」

「……やがて、裏の世界に侵入するようになり、それらしいところにアクセスして、やっと姉の名前を見つけました」

「ふむ? み、見つけ――……それで? 見つかったか?」

「いえ。姉の名を見つけた所で破壊されました」

「……だろうな」


 と、興味がなさそうなシグマであったが、内心驚いていた。


「ですが。姉の名が裏世界にあったんです。ということは――」


 許可証を取得できることの嬉しさと、目的に一歩近づいたこと、そして、その目的に対する想いは止まらず、冬は次々に話していく。


「裏世界に姉は必ずいるはずなんです。だから、行けば手がかりがあるはずと思い――」


 そんな冬が話している内容は、シグマもシグマで、話し半分に聞いていた。


「セキュリティが手強かったからこそ一入ひとしおでした。永遠名とわななんて、自分で言うのもなんですが、珍し――」


 目の前にいるこの少年は、自分が何をやったのか分かっていない。


「……そのデータベースには『枢機卿カーディナル』と書いてなかったか?」

「? ええ。確か、パソコンの画面全体に表示されてましたね」


 冬は当時のことを思い出しながら、なぜシグマが『データベース』と断定したのか不思議に思いながら返答する。


 忘れもしない。

 探し続けた姉の名前を見つけたのだから。


「ああ、まあ……なんだ。気にするな」


枢機卿カーディナル


 それは、殺人許可証所持者の誰もが知る、許可証協会の中枢の意思を持たせたデータバンクの総称である。


 自身の許可証とリンクさせることで様々な情報を得ることができ、任務の受発注もここで行われる。

 黒帳簿ブラックリストの登録や賞金首情報も、このデータバンクを使っており、許可証所持者が裏世界で迅速に動くために必要不可欠な情報システムだ。


 また、許可証を得た所持者は、ランクによって表・裏世界のあらゆる個人情報さえも自由に閲覧可能な特権システムを得る。

 そのシステムが、最新で常に最適化される人口知能を搭載し、難攻不落のセキュリティで厳重に管理、運営されているのが、この『枢機卿』である。


 つまり。

 許可証協会の技術の結晶に入り込んだと、冬はさらりと言ったのだ。



 そして、もう一つ。



 こいつかよ。あの時の面倒なやつは。

 ……世の中、狭いもんだ。




 冬の話を聞いて、許可証協会にハッキングがあったことを、シグマはすぐに思い出した。


 かなり内部に侵攻されて、一部枢機卿のデータを破損させてまで相手をクラックさせたのがシグマであり、たまたま用事があって居合わせてハッキングを処理しただけなのに協会から要らぬ疑いをかけられ。


 恋人には「私のスリーサイズならいつでも言ったら教えるのに」なんて言われたあの日を思いだす。


 単に薬指のサイズが知りたかったから不法侵入しただけで、数年経った今でも、シグマは枢機卿の中枢に近づくなと言われている始末だ。


 だからこそ、シグマはこの枢機卿に入り込んだ技術の凄さを分かっていた。


「裏世界で自由に動くには、許可証を手にすればいい。すでに汚れた身の上でしたし、お金にも困ってません。だから取得しようと。……今に至りました」


 ……普通の表世界にいた人間が入れるようなところではない。

 一流のハッカーでも、入ることは無理な領域に入り込み……こいつは本当に……


「以上です」

「……」


 ――どこまで興味を湧かせるのか。


 シグマは、冬の話が終わったことに気付いて相槌を打った。


 正直、全く話を聞いてなかったシグマだが、冬が『姉を捜している』と言うところだけは理解できていた。


「ふむ。なるほど……」


 こいつが、例の枢機卿ハッキング事件の相手だったことは誰にも教えないでおこう。

 もし枢機卿が知れば――


「さて。次はシグマさんの番ですよ」


 あの時、とにかく怒ってたからな、枢機卿は。

 ……いや、すでに知っていたから、こいつの処分が早かった、のか?


 あの時も俺のランクアップ取り下げを条件にやっと受理したし……。


 ……ん?

 今、何て言った? 


「シグマさん。次は僕があなたに聞いてもいいでしょうか」






「……は?」



 シグマの表情が、固まる。

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