第335話:あらたなる力の目覚め 5
「さて、簡単に、ではあるけども、型式というものをみんなで話してみたわけだけど……――っ!?」
眼鏡をかけていればきっと「眼鏡くいっ」をしていただろう勢いの弓は、話途中ではっと気づいたかのような表情を浮かべるとおもむろにジャケットの胸ポケットに手を突っ込んだ。
「こほんっ。……改めて。型式というものがどんなことを出来るのか例を挙げてみよう。知らない子達も、きっとどんなことができるのかと想像もつきやすいだろうからね」
ポケットから眼鏡を取り出してくいっと鼻部分に中指を添えて静かに持ち上げてから、「もちろん、どんな型式を創っていくのかは君たちの自由だから、どこまで出来るのかを考えてみてね」と補足をした。
冬は弓の追加の言葉で……――いや、その前に、
「似合ってますよ、師匠!」
「ありがとう冬君」
眼鏡が似合う師匠に、思わず黄色い声援をあげざるを得なかった。
これから人に教えていく。そう思うと思わず眼鏡をつけなければ、という使命感が芽生えた弓ではある。先生や師匠と言うものは眼鏡が必須。なぜか弓はそう思っていた。
「いや、お前目悪くないだろ」
「どう見てもおしゃれ眼鏡ね」
『まあ、似合わなくもないですが。個人的には冬に眼鏡かけさせてみたいのですが』
「あ、すうちゃん、それいいかもっ。未保ちゃん、今度一緒に探しにいかない?」
「和美さん、それいいですねっ!」
「かっ。ふでぺん、お前は似合わなそうやんな。今度つけてみぃや」
「似合わないのが分かっていてつける人いるのかな? そ「ばか」す君はちょっとずらしてかけてみたら似合いそうだね」
「旦那様の眼鏡~……じゅるり」
「瑠璃様もつけます?」
「いや、つけないけど、つけて欲しい?」
「い、いえ、いえいえっ! 私はどちらでも捗ります!」
「……捗るってなにかな?」
どうでもいいところで盛り上がりを見せる眼鏡。
ファミレス四人組も和美と未保と買う日程を話し出しているが、ぼそぼそと周りに聞こえないように深い会話をしているようで。まるで呪詛のように聞こえるその声。主にどんな眼鏡をつけるか、と言う呪詛ではあるのだが、願望と欲望が前面で全面に滲み出る会話を、冬は聞かなかったことにした。
「話、進まないわよ、あなた達……」
少し離れたところに座っている香月店長が頭痛がしたのか眉間を揉みながら周りをたしなめると、冬の隣にいたスズが苦笑い。
「いやいやごめんごめん。まさか眼鏡でこんなに盛り上がるとは思わなかったよ」
と、この場を盛り上がらせた張本人が笑う。「じゃ、続けるよ」と、眼鏡を外す気配はなく弓は話を続ける。
「型式は、それぞれ『焔』『流』『疾』『縛』と呼ばれる型で構成されている。それぞれが名前から想像できる『火』『水』『風』『土』の四属性といわれるものを現している」
弓は両の手のひらを上に向けると、片方ずつに型式を発動させた。
右手のひらに『火』が灯れば、左の手のひらには『水』の塊を。手のひらに紙を置いてみると、『風』で飛ばされて、反対側の『土』に当たってひらひらと紙は流れの勢いを止められて地面へ落ちていく。
「その型によって、使える能力が変わってくるってことなのね。冬くん達が私達に見えないスピードで動いたりするのって、要は型式の力を内包して体に使っているからなのね」
香月店長の納得に、ファミレス勢や未保や和美も「ほー」と感嘆の声をあげた。
その四つに加えて『呪』の型があるのだが、弓の口ぶりからしてあえて『呪』の型は外しているのだと思い、冬は言葉をつぐむ。
そう言えば、と、冬は以前のことを思い出した。
弓は以前、自分に『呪』の型を使える人を紹介してくれる(第77話)と言っていなかっただろうか、と。
今にして思うと、『呪』の型という存在は知っているが、冬はその使い手に出会ったことがない。
前回は知らないといわれはしたが、師匠から『呪』の型についても教えてもらえるのではないかと冬の期待は高まる。
なお、冬の義兄である常立春と友人であり同期の遥瑠璃が『呪』の型を使えることは、冬はまだ知らない。
「そう、型式っていうものはまずはどの型式が自分に合っているのかってことを考えるところから始まるんだ。勿論、どの型式も全部使いたい、っていうのも可能ではあるね」
「それぞれイメージをもって使うなら、満遍なく型式に精通していく必要があるってことよね」
ファミレス勢の梅が、『想像』と『創造』ということから、型式はそれぞれ属性ごとに役割があるのだと受け取って発言する。その発言を聞いた弓は満足そうに笑顔を見せると、辺りで自分の意見を述べる型式初心者達の視線を向けるためにぱんっと手を叩いた。
自分に視線が集中したことを確認すると、弓はにやりと笑う。
「さて。型式を使いこなしている許可証所持者は知っていることだけども、まだまだ使いたてだったり名前を聞いただけだっただけの子達には、ここで驚きのミステイクがあるんだけども、分かるかい?」
弓が冬をちらりと見ると、冬はその問いかけに思いつくことがあったためこくりと頷いた。
弟子として冬もその期待に応えなければならない。
「どの型式も、何も変わらないってことですね」
「? 先輩、どういうことですか?」
「未保さん、今『焔』の型は『火』が連想できるといわれましたが、では『焔』や『火』を使って何を思いつきますか?」
「火を使った攻撃だったり、ですよね? 後は、火ってところから強さ、強靭さを表している、とかですか?」
「強靭……筋力? 重いものをもてるようになったりとか、身体能力をあげるとか、かな。冬ちゃん」
弓の型式講座は、まだまだ続く。
冬のわくわくは止まらない。
型式を知りたい周りの生徒も時間が過ぎていくのを忘れて弓の言葉を待つ。
作者より皆様へ。
ここまで到達した皆様方。
このお話の上記物語部分にて、本作品は100万文字突破です!
長いことお付き合いくださりありがとうございます。
私だけでなく、皆様が100万文字という長い文字を読みきった証でもございます。
おめでとうございます!
一向におさらいのような話をしてて話が進まない作品を、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
え、お星様ですか!? もちろん、大歓迎です!




